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第29話 デビュー

 その後は、お互いの近況など他愛も無い話をした。

 肝心の連載の話は、いざ本人を目の前にするとなかなか切り出せなかった。


「そろそろ行く?時間大丈夫?」

 先輩にそう言われて、私はやっと決心がついた。


「先輩、1つご相談よろしいですか?」


「私に?どうかした?」


「実は……。」


 そこから、連載のオファーからここに思い至るまでの経緯や自分の思いを話した。先輩は、静かに聞いてくれていた。


「それで、私は何をしたらいいのかな?」

 話終わると、先輩はそう首を傾げた。

「どうせ、夕にはもう了解取ってるんでしょ?律儀なあなたが私にだけ聞くはずないし、私に聞いてから彼に断られたら申し訳なく思うはず。それに、私がOKしたのを知ったら彼は断れないもの。」


 すべて図星だった。


「彼がかわいい元教え子のために協力するって言ってるのなら、私もかわいい後輩のために一肌脱ごうかしら(笑)

 何したらいい?彼とのエピソードを提供する?」


 私の小説家デビューが決まった瞬間だった。


「ありがとうございます。ぜひお願いします。いい作品になるよう、僭越ながら心を込めて書きたいと思います。」

 深く、頭を下げた。心の何処かでは、書いてみたいという気持ちがあったのだと思う。読むのが好きな分、書き手への憧れというか、そういうものをずっと抱いていたのだろう。



 思えば、あの番組のオファーから色々なことが繋がっている気がする。先生に再会することができた、あの番組から。

 あれをきっかけに先輩とも仲良くなれたし、先輩と先生との知られざる関係を知った。


 そして、今回の執筆のオファー。何か運命のようなものが、私にお二人のストーリーを書くように仕向けているのではないか。ただ偶然に重なった出来事なはずなのに、何かに仕組まれたような感覚すら抱く。何かが、私にその役目を与えているのだろうか?


 もしそんな力が働いているのだとしたら、お二人は本当に運命の人同士なのだろうし、私はこの物語を通して二人が結ばれるエンディングを書かなくてはならない。

 もちろん、はじめから書くならハッピーエンドを書きたいと思っていた。


 私は、小説も映画も基本的には幸せな、そうでなくてもどこか報われるような結末のものしかみない。現実に辛いことがある中で、現実逃避的に鑑賞する作品くらいハッピーエンドであってほしいものだ。

 小さい頃からバッドエンドは嫌いだったし、物心つく前でもそういう作品は観なかったと母親が言っていた。

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