第2話 五島列島
トントン。
「失礼します。」
木製の扉を開けて入室する。
マネージャーさん同席のもと、二度目の打ち合わせ。
「だいぶお時間を頂いてすみませんでした。お探しする方によってはなかなか見つけられないこともありまして。」
と、だいぶ申し訳無さそうなスタッフさん。
「とんでもありません。こちらこそ無理を言いまして……。それに、先生を見つけてくださって本当にありがとうございます。」
「何をおっしゃいますか。
ところで、探すのに時間がかかってしまったのは恩師の方が今東京を離れてらっしゃったからでして。」
「そうでしたか。先生は今どちらに?故郷に戻られているとかでしょうか。」
昔、東京へは浪人時代に出てきたと聞いた気がする。
「いえ。それが長崎の五島列島にいらっしゃいました。五島の中では一番大きな福江という島があるんですが、そこにお住まいでした。」
「五島……列島……ですか?またどうしてそんな遠いところに。」
行ったことはないが、何年か前にドラマのロケ地になっていてきれいな所だなーと何となく見ていた場所。でも、先生の地元ではないはず。
「理由は分かりませんが、あちらで教師を続けられているみたいです。
実際にご出演いただけるかは当日スタジオの方で発表いたしますが、とりあえず番組へのご協力はお願いできました。
ただ、自分でいいのかな……とは仰っておられて。徳山さんのアイドルとしての活動のプラスになれるか不安だったようなので、そこは制作側が責任を持っていい番組にしますとお伝えしておきました。」
先生に会える……かは分からないが、おそらくお会いできなくとも手紙や何らかの形で再会できる喜びがふつふつと湧き上がってきた。
先生が東京にいたとしても、この広く『人、人、人』な場所で出会うことはなかっただろう。
「お会いできるかは分かりませんが収録を楽しみにしています。私も出演者の一員として一生懸命臨みますので、どうぞよろしくお願いします。」
その後スタッフさんとマネージャーさん主導で細々とした打ち合わせを重ね、あとは収録日を迎えるだけとなった。
「ご機嫌ですね。今まで見たことないくらい。」
帰り道、デビュー以来ずっとお世話になっている女性マネージャーさんに車内でからかわれる。
「ご機嫌です!マネージャーさんも、また会いたいと思う人に再会できそうってなればこんな顔になりませんか?」
「どうですかね。若いときはそうだったかも。ある程度年齢がいくと会いたくても会えない人が多くなるので。
だから、今回の再会大切にしてくださいね。」
会いたくても会えない人……か。亡くなった人とかかな?
その言葉で、先生に会いたい気持ちが一層強くなるのを感じた。