第27話 思わぬオファー
コンコン。
「失礼します。」
今日は、マネージャーさんに連れられとある出版社に来ていた。
ついに私にも写真集のオファーが?と、捕らぬ狸の皮算用をしては朝から密かにニヤけていた。
夢はいくつもあるけど、写真集を出したいと思ってしまうのはアイドルの性だろうか。本屋さんで先輩の写真集が積まれているのを見ると、いつか私も!っていう気持ちになる。
部屋の中には、壮年の男性と若めの女性の二人がいた。女性は夏井 涼子さんといい、この件の担当者さん。男性の方は沖さん。夏井さんの上司で、オファーをいただいた雑誌の編集長さん。偉い方だ。
「お呼び立てしてすみません。」
と、夏井さん。
「早速今回お願いしたいお仕事のお話になりますが、徳山さん、雑誌で連載を書いていただけませんか?」
「連載……ですか?コラムとかエッセイみたいなやつですか?」
「いえ、できれば小説をお願いしたいなと思っておりまして。」
小説?読むのは好きだし、小説が原作の映画も大好きでよく観るけど書いたことなどもちろん一度もない。
「どうして私なんですか?小説はおろかエッセイも書いたことありませんし、お恥ずかしい話、日記すら続けて書けた試しがありません。お話はとってもうれしいんですけど、自分に務まるか自信がないです。」
正直な思いを吐露する。
「大丈夫ですよ。みんな誰しも、それこそ有名な小説家さんだって処女作を書いたときはおんなじ気持ちだったはずです。
それに、徳山さんお一人で書くわけではありません。作家さんがもちろん一番大変ですが、作品には私たち編集者の手も加わります。そして何より、最終的に読者の方が読んではじめて完成するものだと思っています。
我々も精一杯サポートさせていただきますので、一緒にいい小説を作りませんか?」
ずっとニコニコと見守っていた沖さんが、口を開いた。
「夏井からのご説明に一言添えますと、あなたにお願いしたいなと思ったのはブログを拝見したからなんですよ。
書いてある内容もさることながら、言葉の選び方や言い回しが、言い方悪いですが一介のアイドルさんではないなと。その文才も見込んだ上で今回お話させてもらっています。徳山さんは、本はお好きですか?」
「はい。昔から小説を読むのが好きでした。けど、書いたものを褒めていただいたのは初めてで、少し戸惑っています。」
「急なお話なので、今日この場でお返事いただこうとは思っていません。マネージャーさんや事務所の方々ともよくご相談の上、また結論を教えていただければ幸いです。我々としては、徳山さんとお仕事できる日を楽しみにお待ちしています。」
夏井さんからの言葉で、一旦打ち合わせはお開きとなった。
帰り道。
「マネージャーさんは、さっきの話どう思いました?」
優柔不断な私への助け舟を期待したが、
「徳山さんはどうしたいですか?」
と、逆に聞き返されてしまった。
私はどうしたいんだろう。車窓の外に見える小雨そぼ降る住宅街に、モヤッとした思いを重ねた。




