第26話 くまの貯金箱
「そう……でしたか。そんな大切な日に、何だか浮かれ気分で夜中にやってきてしまい本当にすみません。」
「ううん、違うの。そういうことではなくて、何となくあなたには知っておいてほしくて。
本当はお父さんも、あなたの顔見たかったはずよ。とってもいい顔つきをしている。改めて、この子のこと見捨てないであげてね。」
そう言って、母が頭を下げた。
「ちょっとやめてください。」
彼も慌てて頭を下げる。
「もーお母さん、困ってるじゃない。夕、もう行こ。下まで送ってく。」
そんな私を、彼が手で制す。
「あの、お父様にもご挨拶させてもらえませんか?手だけ合わせたらすぐに失礼しますので。」
「ありがとう。うれしいわ。こちらへどうぞ。」
そう言って、彼が父の写真と対面する。
チーン。
静かに目を閉じて、正座をした彼が手を合わせる。
1分ほど経っただろうか。静かに目を開け、父の方を向いたまま、
「素敵なお父様ですね。僕もいつか、こんな素敵な大人になりたいです。」
と呟いた。
「なれるよ。」「なれるわ。」
母と声が揃う。厳かだった空気が一瞬にして解け、部屋は笑いに包まれた。
「さっきはごめんね。お母さん、夕に興味津々みたいで。」
玄関先まで見送るため、マンションの階段を二人で降りる。
「ううん。怒られるかと思って冷や冷やしてたから、ちょっと安心した。愛されてるんだなーって、すごい伝わってきたよ。」
「そうだね。たまに鬱陶しくなるけど(笑)
でも、お父さんの分まで、たくさん愛情を注いでくれてると思う。」
「じゃあ、今日はありがとう。会えて良かった。日付変わっちゃったけど改めて、20歳の誕生日おめでとう。」
「ありがとう。夕からのおめでとうが一番うれしいよ。遅いから気をつけてね。また連絡する。」
お別れのキスをし、部屋に戻る。
「ただいまー。」
「あれ?帰ってきたの?一緒に泊まってくれば良かったのに。」
「そんなことするわけないでしょ!もう寝るから!おやすみ!」
引き続きからかってくる母のおやすみの声が聞こえてくる中、部屋の扉を閉める。
プレゼント、なんだろ。
彼からの贈り物は初めてだった。まぁ、付き合い始めてまだ数か月しか経っていないから当然っちゃ当然なのだが。彼がどういうものを選ぶのか、分からなかった。
色んな想像を膨らませながら小包みを開けると、白くまの貯金箱が入っていた。ピンクのボーダー柄のマフラーが巻かれていて、とっても可愛らしい。調べてみたら、どうやら北欧で人気の貯金箱みたい。私が北欧雑貨好きだからこれにしてくれたのかな?
先日もデートで有名な北欧の家具屋さんに行ったけど、そのときに売っていたんだろうか?貯金箱なんて持つのは子どもの頃以来だけど、普通にインテリアとしても映えるから有り難く使わせてもらおう。
彼はどういう思いでくまさんを選んだんだろうか、彼はどういう顔でこのくまさんを買ったんだろうか、そんなことを考えていたらすごく幸せな気分になった。
それからは、毎朝起きたらくまさんに挨拶をするようになった。それを見た母にからかわれたのは、言うまでもない。




