第23話 父方の祖父母
夕と付き合いたての大学1年の秋、私は今の事務所の人からスカウトをされた。もともと演劇の道に進みたいなと思っていたから、これで女優になれるかもしれないとそのときは軽く考えていた。かけがえのない相手も見つけて、浮かれていたのかもしれない。
家族に報告し、夕にも伝えた。彼は自分のことのように喜んでくれて、思い返せば、このときが人生のピークだったように感じる。
事務所に入ると、大学の活動に加えて演技のレッスンや色んなオーディションを受ける日々となり、夕とデートする時間は正直あまり取れなかった。
けれど連絡は頻繁に取っていたし、彼は少しの時間でも会いたいと言ってくれるタイプで、レッスン終わりなど何とか予定を合わせて2人の時間を大切にした。
今思えば、彼もゼミやサークルや就活、教員試験の勉強なんかでかなり忙しかったのではないかと思う。そのときは、そこまで考える余裕も知識もなかった。
そんな中でも、私たちは互いに尊重し合い、会える時間を一番に大切にしていた。体調やスケジュールを優先しあまり無理はしなかったけど、誕生日や記念日だけは無理してでも祝った。
『誕生日おめでとう!今年がえりかにとって素敵な1年になりますように。
そして、そんなあなたをそばで見届けられたら幸せです。』
テンプレートか!って思わずツッコミそうになるラインを送ってくるところも彼らしいし、大好きなところだ。彼は、いつも0時ちょうどに送ってきてくれた。もちろん、どれも日付が変わって届く最初のラインだった。
『ありがとう!夕と一緒にいられたら、それだけで私は幸せです。』
私は、彼のことを思いながら眠りについた。
翌朝。
誕生日当日は忙しい1日だった。朝イチから授業がみっちりあって、夕方は友だちとお祝いがてら小1時間カフェに行き、その後にレッスンがあった。レッスンが終わったのは20時過ぎ。
彼とは、レッスンが終わったら連絡すると約束をしていた。
ブーッ、ブーッ。
電話、お母さんからだ。
「もしもし。」
「やっと繋がった。レッスンは終わった?実はね、おじいちゃんとおばあちゃんが来てくれているのよ。近くに用があったみたいで、急に寄ってくれたの。
えりかはどうせ予定あるから連絡しないでと言われたんだけど、そうもいかないでしょ?どう、すぐ帰ってこられそう?」
履歴を見ると、たしかに母から着信が数回入っていた。
おじいちゃんとおばあちゃん。つまり、父方の祖父母だ。母方の方は、母がお父さんお母さんと呼ぶ。
いつも大事にしてくれるおじいちゃんとおばあちゃんが、私は大好きだった。でも遠方に住んでいることもあり、父が亡くなって以来は電話や贈り物だけで、直接会うことはなかった。
二人とも私を見るとつらくなっただろうし、私も、二人を見ることでお父さんが恋しくてたまらなくなっていたと思う。
どうしよう。どちらを選ぶか、頭の中がぐるぐる回転する。




