第10話 友だちの彼氏の先輩
彼と初めて会ったのは、大学に入ってすぐの4月のこと。当時の私は高校に引き続いて演劇部に入り、ちょっとずつ友だちもでき始めた頃だったと思う。
そのサークルで最初に仲良くなった子には高校の時から付き合っている彼氏がいて、三人で食堂でお昼を食べることがたまにあった。思い返せば完全に邪魔な存在だけどボッチ飯は嫌だったし、何より二人はいつでも歓迎してくれた。というか、向こうからよく誘ってくれていた気がする。
「あ、先輩!」
そんなある日、友だちの彼氏さんが話しかけたのが夕だった。
「良かったらお昼一緒にどうですか?」
色んな人を誘っちゃう人だなと思った。それが彼氏さんの長所でもあるんだろうけど、人見知りだから、いきなり知らない人が隣にくると緊張する。
「いや、いいよ。いきなり知らないやつに隣座られたらご飯味しないでしょ。」
と、断った彼と一瞬目が合った。
「お誘いどーも。じゃあまた。」
とだけ言い残し、あっという間に立ち去る彼。
目も顔も全く笑っていなくて、無表情で、それでもやさしい人だなと思った。隣にこられたら嫌だなーと思った自分が何だか幼稚に思えて、恥ずかしかった。
「今の人は?」
「あー、えりかは初対面だっけ。彼のサークルの1個上の先輩。」
「テニサーなんだ。でもあんまりチャラくなさそう。」
と、私が言うと、
「ひどいなえりかちゃん。俺もチャラくないし、そっち系のテニサーじゃないしさ。チャラいことしてたらコイツに殺されてるって。」
と、慌てて否定する彼氏さん。
なんやかんや、いつもこの感じからイチャイチャが始まる。その日も案の定だった。
「しかも先輩は教師志望だから。どっちかというと真面目系……かな?俺の推しなんだ。」
先輩を推すとか推さないとか失礼じゃない?と当時の私は思ったが、言わんとしてることは分かる気がした。
5月。勉強やサークルにも慣れてきたので、最寄りから数駅先にあるデパートでバイトを始めた。普段ダンスしてるし体力にはそこそこ自信あったけど、立ち仕事にはまだ慣れなくて帰り道はしんどい日もあった。
そんなある日のバイト終わり、駅で偶然先輩を見かけた。
今思えば、そのとき話しかけた私が悪かったんだと思う。もし過去に戻ってやり直すことができるなら、迷うことなくこの瞬間を選ぶだろう。
「先輩……ですよね?ほら、前に食堂でお会いした。」
「あー、あのときの。こんばんは。何か疲れてない?大丈夫?」
「すみません。バイト終わりの疲れと空腹で、お見苦しい顔を。」
「お見苦しい顔って(笑)おもしろい人だね。」
そのとき見せた彼の笑顔を、私は一生忘れない。彼が初めて私に向けた笑顔を。




