第9話 7年ぶり
あなたはそういう人だったわね。
恩師と再会できてうれしそうな愛弓ちゃんを見ながら、私はそう思っていた。私は、今温かい目で後輩ちゃんのことを見守れているだろうか?
『えっ?』カーテンが開いた瞬間、このスタジオで私以上に驚いた人はいなかっただろう。
愛弓ちゃんの先生だったんだ、夕。
さっきのエピソードも自己紹介のくだりも夕なら納得だし、仲直りしやすい雰囲気を作ってあげたかったんだろうなって……クラスの子みんなの第一印象を良くしてあげたかったんだろうなって……分かる。
彼はいつもやり方が拙いから、時には人に誤解されることもあるけど心根のやさしい人だった。
分かるよ。だって、私たちは恋人だったんだから。
7年ぶりの再会?
運命のいたずらって、本当にあるのね。
私も彼の姿をみるのは7年ぶりだ。出会ったのは、もっと前の話。もう12年も前のことだ。ついに干支が一周してしまった。
あと何?長崎って。
二人で行った場所とかを通り過ぎるたびにいつも、もしかしたら彼がいるんじゃないかって期待してしまう私がいた。なーんだ、いるはずないじゃない。そもそもこんなどこもかしこも駐車場……じゃなくて人だらけな東京で、お互い住んでいても会うことなんて万に一つもないだろうに。
頭の中は、ここ数年で間違いなく一番にテンパっているが演技をはじめて15年ほど、無意識にも顔は作れていると思う。女優というのはそういう生き物だ。演じることがデフォルトになっている。
刹那、彼と目が合った。
彼は私をみて軽く微笑んだ。あまり表情は変わらない人だから、みんなには分からないだろう。私しか分からないだろう。
だって、一度は愛した人だから。
私も軽く微笑み返し、お互い目を逸らす。
彼は私がスタジオにいることを知っていたんだ。
それもそうか。私は、打ち合わせで後輩ちゃんの恩師が登場するかもとしか聞いていない。けれど、彼はスタジオにいるタレントが誰かを事前に聞かされていたのだろう。
なかなか胸の鼓動が治まらない。
元彼というのは厄介なものだ。一瞬で、あの頃へと私の心を連れ去っていく。
いけないいけない。今は別の彼氏がいるのだ。目の前の男には劣るけど、記憶は美化されるもので。そうでなければ、きっと今の彼氏以上の人はいない。優しくて素敵な人。
夕はもう過去の人なのだ。
彼と出会ったのは12年前。18歳だった私の、2つ上の学年の先輩だった。




