忘れ者
仕事が終わり、育児家事も終わり、いつもの様にゲームにログインしたのだが……何故か落ち着かない。俺、一体どうしちゃったの?意味もなくアイテムチェックしてみたり。まぁ、アイテム整理も兼ねて見ていけば無意味って事もないけど。
「んっ? 賢者の石?? こんなアイテムあったっけ?」
記憶の糸を手繰ってみるけど……いまいち釈然としない。なんだか記憶にぽっかり穴が空いてるみたいだ。
「最近疲れてたし……寝ぼけてる内に獲得したんかな?」
引き続き色々な部分のチェックもしていく。全てなんとなく……の感覚だ。いつもなら絶対そんな事しないのに、今日の俺はおかしい。
でも……なぜだろう。絶対、忘れちゃいけない事があった様な気がするんだ。思い出す事を諦めたらいけない様な事が……。
「えっ!? 運営警察に問い合わせ??」
問い合わせした事なんかあったか??別に誰かとトラブル起こしたとかもないし、違反した様な事もないはず……。
「…………錬金の失敗?? 指輪??」
俺は二回目のアイテムチェックを始めた。隅から隅まで探しても、錬金を失敗した様な指輪は見つからない。
「……バグかな? そんな事ある?? またメンテなんじゃない??」
……んっ?メンテ??メンテナンス??なんか懐かしい響きだな。よくわかんないけど。
「はぁ……ちょっと休憩しよ」
俺はスマホをいじって動画の視聴を始めた。知り合いの少年がたまに出る動画だ。確か『超常現象を調査する』とかなんとかのネタ動画だった気がする。
「本当なんだ!! 俺は韋駄天大会なんて参加してない!! 俺は……俺は……どこにいたんだっけ??」
まるでB級映画みたいなセリフを喋る少年……毎回ドンちゃん騒ぎしてて楽しそうだけど。なんでいつも裸なんだろ??今度聞いてみよっと!!
「う〜ん……何しよう」
あらかたのコンテンツは終わってるし、だいたい後は強いボスを倒してアイテム集めとかかな?それで錬金するのがいつものルーティンだけど。
「なんか気が進まないな。んっ? マゼンタ学院?」
地雷さんのお手伝いでやったんだよね。恋愛シュミレーションゲームだから普段なら絶対やらないけど。でも、ワイワイやれて楽しかったなぁ〜……。
「チラッと覗いてみるかぁ〜」
俺も暇だよなぁ〜……クリア済みのコンテンツの場所にわざわざ行こうなんてさぁ。
「さてと……着いたけど、何しようかな?? ホントこのアバター嫁そっくりだな」
マゼンタ学院の舞台をウロウロ徘徊してみたけど特に何も変化はない。……まぁ、もうクリア済みのコンテンツだから当たり前だよな。
「んっ? チート殿?? チート殿では??」
「えっ? あっ!! チャカさん!!」
海岸で釣りをしているチャカさんに声をかけられた。一人で静かに釣りしてるなんて、なんだかちょっと珍しい気がする。
「なんか釣れた? それにしてもその釣竿、珍しいデザインだね」
「あぁ。珍しいだろぅ?? 実はこれ……槍なのだ」
「あっ、本当だ。あんまり見た事ない武器だね」
あまり見た事ない武器なのに、なぜか凄く愛着がある様な……懐かしい様な……なんだ??この気持ちは??
「皆とこのゲームを攻略出来て楽しかった」
「うんうん! 俺と、地雷さんと、少年と、チャカさんと……あれ??」
何か足りない様な……。気のせいかな??まぁ、気にしててもしょうがないか。そろそろログアウトして休もう。明日も仕事だし……なんだか眠くなってきた。
「じゃあチャカさん、俺はメインゲームの方に戻ってログアウトするよ! お疲れ様〜!!」
「うむ。またよろしく頼む!!」
チャカさんと別れた後、メインゲームに戻り、それとなく近くにあったベンチに座ってみた。
「……まただ。この感覚」
少し前にも座った事がある様な気がする。そして、何かに悩んでいた様な気が……。
「チートさん?」
「……んっ? 地雷……さん??」
今日はよく声をかけられる。それと……なぜだろう。地雷さんが来てから場の空気が変わった様な感じがある。
「久しぶり〜! チートさん何してんの?」
「ちょっと休憩してた所〜。地雷さんは?」
「えっとねぇ〜……誰かが呼んでいる気がして、来てみた」
「……」
相変わらず地雷さんはちょっと不思議な所があるというか、天然というか……。まぁ、でも……あえて乗っかってみてあげるか。
「じゃあ俺が呼んでたのかも〜」
本当にそんな気がしてきた。せっかくだし、地雷さんとちょっと遊んでからログアウトしようかな。……マゼンタ学院でも行くか。
「地雷さん、マゼンタ学院でも行く??」
「……えっ??」
俺が誘うと地雷さんは凄くびっくりした顔をしてこう言った。
「もうクリアしたコンテンツの場所にまた行くの? チートさんって恋愛シュミレーションゲーム好きだったっけ??」
「……」
確かにそうだ。やっぱり俺……おかしい。地雷さんが不思議がるのも無理はない。……でも、なんだろう。ここで引いたらいけない気がする。
「あっ! そうだ!!」
「……んっ?」
「地雷さんって恋愛小説書いてたよね??」
確か以前、そんな話を聞いた。それで小説を書くために資料集めをしてるとかなんとか……言ってたな。
「俺……地雷さんの恋愛小説読んでみたいから、資料集め手伝いたいんだ」
「……チートさん!!」
地雷さんは泣きながら感激してくれたみたいだった。なんだかちょっと罪悪感が残る。ぶっちゃけ、恋愛小説ってあまり興味がないし……。
「ありがとう! 小説頑張るよ! じゃあ行こっか??」
「うん! 行こう!!」
こうしてマゼンタ学院に二人で向かおうとした時、地雷さんがベンチの後ろにあった噴水の方に傾いた。反射的に俺の腕を掴む地雷さん。
「……あれっ? ちょっ!?」
「うおっ!?」
――ザプーン!!
俺達は噴水に落ちたみたいだ。あれっ?この噴水……どこまで深いんだ??もっと浅い作りじゃなかった??
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