韋駄天大会3
地雷さんとクリス様は時計回りに歩きながらお互いを見つめている。地雷さんは相変わらず及び腰で、凄い泣き顔だ。剣を持っている手もガタガタと震えている。
「このままではいけないな。最善の結果を出す事は出来ないだろう」
クリス様はつぶやくと、地雷さんに向けていた剣先を下ろした。
「まだ……自信がないのかい?」
「……へっ?」
地雷さんに優しく声をかける。恐怖と緊張でガチガチに固まっている地雷さんは急に声をかけられてびっくりしている様だ。
「実はな……私もなのだ。自信がない」
「…………えっ?」
意外な事を聞いて、キョトンとする地雷さん。クリス様って不安とかそういうのなさそうなイメージだもんな。常にビシッとしてて、自信に満ち溢れてる感じだったし。
「なぜだろうな……自分でもよくわからないんだが、君には恐怖を感じてしまう。目の前に乗り越えられない壁がある様な……」
「壁ですか? 確かに凹凸はないですし、まな板っていうか……」
地雷さん……なんでそういう解釈になってしまうんだ?絶対考えてる事間違ってるぞ。俺がそんなくだらない事を思っていると、マタメンテエルフがスマホ画面を見ながらつぶやいた。
「まぁ……ゲームキャラにとって一般プレイヤーは脅威だろうな」
「どういう事だ??」
俺が不思議がるとマタメンテエルフが説明をはじめた。
「だってそうだろう? 元々、ゲームキャラクターは一般プレイヤーに倒されやすいように出来ている。強敵がいたとしても何回か練習すれば倒せる様にプログラミングされているはずだ」
なるほど。確かに一般プレイヤーが絶対倒せないキャラとかボスっていないもんな……。
「だからある程度のプレイヤースキルがあればクリス様だって倒せる様に出来ているはずだ。ぶっちゃけ相手がチートだったらお前の勝ちだったと思うぞ?」
いやいや……クリス様強そうだし、俺が勝てたかどうかはやってみないとわからないけど。
「じゃあ……落ち着いて戦えば地雷さんでも互角に戦えるって事なんだな?」
「そういう事」
マタメンテエルフの説明に納得した後、再びスマホ画面に目線を戻した。地雷さんは泣き止んだみたいでハンカチで涙を拭いた後、思いっきり鼻をかんでいた。
「あ〜……なんかスッキリしたぁ!!」
笑顔になる地雷さん。あぁ……クリス様の綺麗なハンカチが凄い事に……いや、そんな事はどうでもいいか。地雷さん、落ち着いたみたいだったし良かった良かった。
「クリス様、ありがとうございます! こんな事言っていいかわからないけど、ちょっと安心しました。クリス様でも不安になったり、自信がなかったりするんですね!!」
「それはそうさ。私だって人間なのだから」
クリス様も笑顔で地雷さんに返事をした。よく考えてみれば……ゲーム世界だろうが、現実世界だろうが、同じ人間だもんな。
「さて……気持ちもほぐれた様だし、再戦といこうか?」
「はい!! あっ、ちょっと待ってください!!」
「うん?」
「えっと……」
地雷さんはちょっと考えた後、じっとクリス様を見ながら話し始めた。
「上手く言えないけど、私……知ってます!! クリス様がとっても素敵な人だって、優しい人だって……だから自信を持ってください!!」
「ありがとう」
「私も……クリス様が信じてくれるから、ちゃんとやれる気がします。だから……自分なりに精一杯戦います。全力で!!」
「あぁ、そうしてくれ。私も全力で挑もう」
信じてくれる人がいるから戦える。もしかしたら人間の本質はそこなのかもしれないな。人は意外と自分の事では頑張れない。応援してくれる人や信じてくれる人、そんな誰かの為に頑張れたりするんだよね。
「なんかどっちを応援すればいいかわからなくなってきちゃった……」
スマホ画面を見ている本物の地雷さんがつぶやく。確かに俺も両方に頑張って欲しい。
「実際、この状況になってたら同じように対応したと思う??」
俺がそれとなく聞いてみると、地雷さんはうんうん唸りながら悩み始めた。
「正直、わかんない。わかんないけど……冷静になって腹はくくれたかもしれない」
「そっか」
さて……戦いの続き続きっと。クリス様と地雷さんは相変わらず時計回りで歩きながらお互いを見つめている。ただ、さっきとは違って二人共鋭い目つきだ。
「デスマーチ!!」
意外だったけど先に仕掛けたのは地雷さんだった。クリス様に突っ込んで首筋を狙っていく……。しかし、クリス様はそれを華麗にかわした。
「一度受けた技は通用しないぞ!」
クリス様が地雷さんに向けて叫ぶ。地雷さん、綺麗にかわされてしまったな。残念!!……でも、不思議なことに地雷さんはなぜか嬉しそうだった。
「良かった……プログラムの壁ってヤツを越えたのかな? これで……これからはプログラム以上の動きをする事が出来るんだね!!」
そうか!!本物の地雷さんのつぶやきで気付いたけど、プログラムの壁を越えてなかったら攻撃をかわせないはずなんだ。クリス様……頑張ったんだな。
その後、二人は激しい攻防を続けながら戦っている。地雷さん……ちゃんと危ない時は距離をとったり、隙があれば攻めに入ったりして上手に対応している。
「ちゃんと戦えてる。なんか……地雷じゃないみたい」
「そんな事はないさ」
「……えっ?」
本物の地雷さんは自分じゃないみたいって言うけど、ペルソナさんはしっかり地雷さんの真似をしていると思う。地雷さんは同じ失敗をしたり、覚えるのが時間かかったりしてしまうけど……素直に物事を聞くし、ちゃんと出来る人だ。下手にプライドが高い人より教えやすい。
「……あっ」
スマホ画面の地雷さんの声が響いた。どうやらクリス様の攻撃で剣が飛ばされてしまったみたいだ。地雷さんの手から離れた剣は、地雷さんから遠い所に落ちている。
地雷さんはクリス様から距離をとり、ジリジリと後ずさる……とても剣を取りに行ける感じではない。
「……勝負あったかな?」
俺がそう言った瞬間。地雷さんの叫び声が聞こえた。
「サンダァアアアァアア ストォオオォーーーンンッ!!」
地雷さんは巾着から石をとると、力一杯クリス様に投げつけた。これはちょっと、卑怯じゃないか!?でも、戦いに卑怯もクソもないよな。
「フンッ!!」
でも……俺の心配は不要だったみたいだった。クリス様は飛んできた石を剣で弾き返す。
――ゴッ!!
「ギャッ!!」
跳ね返った石は地雷さんに当たり、そのまま彼女はひっくり返ってしまった。せっかく鼻血も鼻水も止まったというのに……再び鼻血を出している。
「あっ! すまない……」
鼻血を出して白目になりながらのびている地雷さんに、クリス様が近寄って声をかけた。
「いえ、自業自得ですし……大丈夫です」
なぜかスマホを見ている地雷さんがしゃべれない地雷さんにかわって返事をしていた。
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