なんでも屋のチート
後日、少年と連絡をとって海岸で待ち合わせをした。
装備を探す手伝いをしながら……話をきりだす。
「なぁ、君に一つ……お願いがあるんだ」
「んっ? お願い??」
少年は海に浸かりながら、必死に装備を探している手を止めて俺を見た。
「あぁ。俺達、韋駄天大会に出るんだけど……回復役がいなくて。パーティー組んでるのは知ってるんだけど、その時だけでも手伝ってくれないかな?」
「いいよ!」
少年は間髪入れず返事をしてくれた。やっぱり純粋で、とても優しい少年なのだと思う。
「俺を助けてくれた命の恩人だし、装備探しまで手伝ってくれて……俺もなんかお礼したかったから」
「いや……そんな。ありがとう……助かるよ」
多分、俺達のせいでここに来てパンツになってしまったんだと思うけど……うん、気付かなかった事にしよう。ちょっと罪悪感あるけど……わざとじゃないし。
何時間か装備を探したけど、やっぱりそれらしいものは見当たらなかった。
「あぁ〜……やっぱりダメかぁ〜」
「運営警察に相談してみたら?」
「実はしてみたんだけど……検討中って言われてそれっきりで」
「そうか〜……」
まぁ、バグで装備が消える……なんて事、なかなかないから難しいのかな。
その日は惜しむ様に海岸を後にして少年と別れた。
◇
学院の廊下を地雷さんと歩いていると、こわごわ声をかけられた。
「あの……あなたが『なんでも屋のチート』さんですか??」
「……うん?」
作業着姿の中年男性だった。どうやら建物のメンテナンス作業をしている人らしい。
「実は相談にのって欲しいのですが……」
「……」
最近なぜか『なんでも屋のチート』と呼ばれる様になっていた。多分、チャカさんあたりが言い広めているのだろう。
「えっと、話を聞く位なら出来ますが……力になれるかどうかは正直わからないです」
「それでも構わない。半分……愚痴みたいなものだから」
学院の食堂で昼食をとりながら話を聞く事になった。俺と地雷さんはランチセットを頼んだが、男性は飲み物だけを頼んだ。
「あの〜、お腹すかないんですか??」
地雷さんが男性に聞くと、恥ずかしそうに男性がつぶやく。
「ちょっと持ち合わせがなくて。でも、この後会社に帰ればご飯があるから」
「そっか! なら大丈夫だね!!」
男性には申し訳ないが遠慮なくご飯をいただくとしよう。この後、授業もあるし……。
「それで相談とは?」
「実は……仕事道具を盗まれてしまって……」
「えっ!? 盗まれたの??」
「はい。会社の部下に……それで部下も消えちゃって」
「……」
それは大変だ!!仕事道具と人材をいっぺんに失うんだから……苦労するだろう。
「俺、社長をやっているから……正直、堪えてね。まぁ、そいつがそれで幸せになってくれたらいいんだけど」
いやいやいや!!人、良すぎでしょ!!普通、怒るよ?そんな事されたら……。
「ただ、毎回仕事道具をレンタルする形になってしまって……正直、経営がきつくなってきた。食事もインスタントラーメンを四つに割って食べたり……」
「そうなんですか……」
「だからまぁ……せめて仕事道具に変わるものを調達出来ないかと思って」
――ボンッ!!
そんな話をしていたら、いきなり錬金釜が現れた。中からお馴染みのマタメンテエルフが出てくる。
「よっ! チート! チャカの所から借りてきたぞ!!」
マタメンテエルフは小さい身体で大きい投げ槍な釣り竿をひっぱりだし、俺に渡してきた。
「さすが!! いい仕事するじゃん!!」
「まぁな〜」
あんまり褒めると調子にのるのでこれ位にしておこう。
「それじゃあ、ちょっと……海に行きましょう!!」
「……海!?」
男性は訳がわからないといった様子だった。まぁ……普通はそういう反応だよね……。
「大丈夫です! とりあえずついてきて下さい!!」
「わっ……わかりました」
海岸に着いたら、例の如く海に釣り糸を垂らして欲しい物を叫んだ。
「盗まれた仕事道具を返してくれーー!!」
すると、重そうな工具セットが引っかかった。
「あぁああぁあ!! あれは紛れもなく俺の仕事道具!! どうして海から……!?」
「まぁ、あの……細かい事は気にせずに」
説明すると長くなると思うし、話がややこしくなりそうだし、俺もよくわからない部分もあるし……。
男性は安心した顔をしながら俺に言った。
「ありがとう! これで安心してマンドラゴラを管理しているという部屋を修理出来る」
「マンドラゴラ??」
「あぁ! なんでも珍しい植物なんだが、大変危険な植物らしくて誰も触れない様に管理してあるそうなんだ」
「……」
マンドラゴラってあれだろ??ファンタジーものの定番で、惚れ薬の材料になるって奴。剣と魔法のRPGが舞台の恋愛シュミレーションゲームだから、そういうものも登場するんだな。
「なんでもマンドラゴラを土から引き抜くと、凄い叫び声をあげるらしい。それでもし、叫び声を聞いてしまうと……死んでしまうとか」
「うわぁ……」
恐ろしい……くわばらくわばら。そういうのには関わらないに越した事ないわ。
「だから念の為、防音効果が落ちないようにして厳重に鍵をかけて欲しいとお願いされたんだ。何日もかかる作業だったから助かった!! 本当にありがとう!!」
男性はそう言って笑顔で手を振ると、海岸から出ていった。無事に問題を解決する事が出来て良かった。
「これでちゃんとした食事が出来るくらい生活が安定してくれればいいけど……」
俺がつぶやくと、後ろからやたら威勢のいい声が聞こえてきた。
「安心しろっ!! 彼はのちに大成功を収める!! ゲーム課金し放題だっ!!」
「あー!! リュウさん!?」
地雷さんが嬉しそうに叫んだ。友達かな??
読んで頂いてありがとうございます!!楽しい作品になるよう頑張っています!!良かったら、評価とブックマークよろしくお願いします!




