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明日は檜になろう  作者: 夜空雷流
第三章
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紙ヒーラー


 少年は高台から浜辺の方に行くと、なくなってしまったという理論値の装備を探し始めた。


「ない!! ない!! ない!! ないぃいぃーー!!」


 闇雲に浜辺をキョロキョロしながらはいつくばって必死に探す少年。俺やみんなも一緒になって探したけど、それらしいものは見あたらなかった。まぁ……海、広いからね……。


「なぁ……もう、難しいんじゃないか??」


「……」


 少年は無言で海の中に入りながら装備を探している。きっと諦めきれないんだろう……。


「さっきまで気を失っていたんだし、休まないとまた倒れてしまうかもしれない。また一緒に探してあげるから、今日は切り上げよう?」


「……わかった」


 苦渋の決断だったと思うが、少年は俺の提案を聞き入れてくれた。うん……なかなか素直な子だ。こうして少年が海から出てそろそろ帰ろうとした時だ。


「あぁあああぁああーー!!」


 今度はマタメンテエルフが叫んだ。一体何なんだ??どうせまた、しょうもない事を言うんだろ??


「人がいっぱい倒れてる!!」


「……えっ??」


 マタメンテエルフが指差した方を見ると、人が5、6人程突っ伏して倒れていた。


「……まじか」


「なんという事だ……こんなにいっぺんに人が倒れているのは始めてだ。ついさっき回復職の人に『今日はもう来なくて大丈夫だよ』と言ってしまった!!」


 おっさんは動揺した顔をしながらつぶやいた。俺達がアタフタしていると、少年が倒れている人達に向かって走り出した。


「ちょ……どこ行くの!?」


 少年は無言のまま倒れている人に近づくと、呪文を唱え始めた。


「……まさか!! 少年は回復魔法を使えるのか??」


 俺の予想はあたっていた。少年は次々と倒れている人達に回復魔法をかけると、俺達に向かって叫んだ。


「もう大丈夫!! 今は気を失っているだけだから……」


「なんと……!! でかしたぞ少年!! 助かった!!」


 おっさんが少年に向かって言うと、少年はキメ顔で親指を立てながら決め台詞を言った。


「俺……神ヒーラーだから」


 理論値の装備とやらを着ていたなら、さぞかしカッコよかっただろう。だが、残念ながら今はパンツだ……それが少し悲しい。


「紙ヒーラー?? 確かにパンツだし、ひょろひょろしてるから風で飛んじゃいそうだね!!」


 地雷さんが無邪気に少年に向かって言ったら、少年がずっこけた。


「そっちの『かみ』じゃねーよ!!」


 少年が海に向かって叫ぶ。……青春だな。





 おっさんは学院関係者に応援を頼み、助っ人の人達と一緒に倒れていた人達を運ぶ事になった。


「みんな色々世話になったな!! 少年も身体を大事にするんだぞ!!」


「うん。色々ありがと……」


 おっさんはそう言って海岸を後にしていった。


「よぉ〜し……そろそろ俺達も一旦帰るか。魚は釣れなかったけど……まぁ、仕方ないよね」


「また後日何人かで釣りすればなんとかなるんじゃね?」


「次は色黒肉体美、さわやか青年のイケメンがいい……」


「肉体美にこだわるね……」


 そんなたわいのない話をしていると、後方から声をかけれた。


「ちょっと待って!! あなた達!! 聞きたい事があるんだ!!」


 俺達が後ろを向くと、羽がついた帽子をかぶった男性が目を輝かせて近づいて来た。


「はじめまして! 僕はトーマと言います。仲間は僕の事をトマっちょと言うのでそう呼んで下さい!!」


「……はぁ」


「いきなりですが……この世界では普通では考えられない不思議な事が起こっています。僕はその謎を解き明かすべく、調査しています!!」


「……はぁ」


「この海では度々超常現象が起こるとの噂があり、調査をしていました。そして今さっき、人が倒れていたと話を聞いたのですが……」


「うんまぁ……今、運ばれていったよ……」


「なんと!!」


 トマっちょさんは悔しそうな顔をしながら膝から崩れ落ちた。


「ちくしょう。一足遅かったか……。せっかく色々話を聞けると思ったのに……」


 話を聞くったってみんな気絶したままだし、少年も訳がわからない状態で流されてきた事を考えるとたいした話は聞けないと思うが……。


「俺も流されてきたみたいなんだけど、気付いたらここにいたみたいな感じだったから有力な情報は聞けないと思うよ」


「……なんだって!? 君は流されてきたのか!?」


「うん、まぁ……そうみたい」


 膝から崩れ落ちていたトマっちょさんは、息を吹き返したかの様に立ち上がり、少年に凄い勢いで近づいた。


「えっ!? 何、何、何!?」


 引きぎみの少年の手を取り、熱視線で少年に向かって話始めた。


「僕はこの世界の超常現象を調べて、その謎を解き明かすべく……動画配信をしている!! ぜひ、インタビューをさせて欲しい!!」


「えっ!? 俺の勇士を全国の視聴者が見るって事!?」


 少年は満更でもなさそうだ。動画配信してるって事は、トマっちょさんは一般プレイヤーなのかもしれない。

 それにしてもこの世界の不思議な状況に気付いてる人もちょこちょこいるんだな……。


「さぁ!! 今からライブ生配信をするから急いで!!」


「……えっ!? この格好で??」


「大丈夫! 君は少年だ!! パンツでも問題ない!!」


「いや、俺が嫌なんだけど……」


「さぁ! さぁ! さぁ! こういうのはタイムリーが大事!! すぐにはじめないと!!」


 困惑している少年の腕を掴んで、トマっちょさんは走り出した。


「さぁ!! 行くぞ!! パンツkids君!!」


「ふざけんな!! 俺の名前はパンツじゃねぇ!!」


 少年が叫んでいたけど、声はトマっちょさんには届いてない様だった。


「たっ、助けてーーー!!」


 少年が海に向かって叫んだ。……青春かな?


読んで頂いてありがとうございます!!楽しい作品になるよう頑張っています!!良かったら、評価とブックマークよろしくお願いします!

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