海岸の異変
「これは大変だ!! 意識も戻ってないし、水もある程度飲んでいる。今、回復魔法を使える人を呼んだけど……少し時間がかかってしまうらしい」
ムキムキのおっさ……いや、親切な男性が少年の様子を観察しながら俺たちに説明を始めた。彼は俺達の間にわって入ると少年の前に来て座り込んだ。
「一体何があったんだ?」
「えっと。釣りしてたら少年が釣れたっていうか……」
「そうか」
なんともマヌケな説明の仕方だが、本当の事なので致し方ない。
「やるしかないな……」
独り言を言った後、彼は少年の口に『マウストゥマウス』をして人工呼吸をし始めた。
「ゴフッ」
だんだん少年が息を吹き返してきた。いい調子だ!!
そのまま人工呼吸を続けていると『マウストゥマウス』した状態で、少年の目がカッと開いた。
「うわぁああぁああああ〜〜〜!!」
口と口が離れた瞬間!!少年は勢いよく起き上がり、おっさんを突き飛ばした。その後、おっさんから凄い勢いで距離をとる。
「なんだ!? なんだこの唇の感覚!? これはゲームだぞ!? ゲームのはずなのに……なぜだ!?」
あぁ……俺がマゼンタ学院に来たばかりの状態にそっくりだな。なんだかもう、懐かしい感覚になってしまった。あの時は俺もびっくりしたよなぁ〜……。
「俺のっ!! 俺のファーストキスがぁああーー!!」
「……」
少年は叫びながら混乱していた。そりゃ……目を開けたらおっさんとキスしてたなんて……混乱どころの騒ぎじゃないかもしれないな。俺も、強く生きていかなきゃ……。
「大丈夫か??」
「ひぃぃぃいいいーー!!」
おっさんが優しく手を差し伸べるが、少年にとっては恐怖でしかないらしい。誤解されたままではおっさんが可哀想なのでしっかり説明する事にした。
「とりあえず落ち着いて。この人は君を助けるためにやったんだ」
「……どういう事!?」
「君は海で溺れていたんだよ」
「海で!?!?」
少年は色々と驚きを隠せないようだ。まぁ〜正確には釣れたって感じだけど、話がややこしくなるから溺れてたって事にしよう。
「俺は湖にいたんだ!! 確かになんかにひっぱられた様な記憶はあるけど……なんで海に!?」
「そうなのか??」
「あぁ!! 海なんて行った覚えはない!! 一体ここはどこなんだ??」
「……マゼンタ学院近くの海岸だよ」
「はぁああぁあ!? マゼンタ学院!? あの恋愛シミレーションゲームの!?」
……んっ?少年はマゼンタ学院をプレイしていたキャラクターじゃないのか??
「俺はメインゲームをしていたんだ!! 恋愛シミレーションとか知らねぇ!!」
「……またか」
おっさんはため息をした後、静かに話始めた。
「最近多いんだ。学院関係者以外の者が、この海岸に流されてくる事が……」
「えっ!? そうなのか!?」
「あぁ……。学院の者達がパニックになるといけないからと、秘密になっているんだ。だからここだけの話にしてくれ」
「わかった」
おっさんは少年にバスタオルをかけると、淡々と話を続けた。
「何ヶ月前くらいからかなぁ……。意識がない状態で海から流されてくる人が多くなったんだ」
「海から流されてくる……??」
「あぁ。一ヶ月に一人の時もあれば、二週間に一人の時もある。普通は夏だけの海の監視なんだが、延長になった」
「なるほど。だから対応が早かったのか」
「もう手慣れたもんさ。回復職の人がハプニングでなかなか来れなかった事以外はな……」
静かに俺達は話を聞き入っていた。そんな事があったとは初耳だったな。その後、驚きの話を続けて聞く事になる。
「それでな!! その事が関係しているかどうかはわからないんだが。なんでも噂によると、凄腕の転校生を呼んだとかなんとか……聞いたな」
「……」
そこに話が繋がるのか!!じゃあこれはゲーム特有のイベントという事になるのか??つまりこれをクリア出来れば、現実世界に戻る事が出来るかもしれない。
「ああぁあああーー!!」
突然、地雷さんが叫び始めた。一体、何だ何だ??
「その本!! いま流行りの恋愛小説ーー!!」
「んっ??」
おっさんが手に持っている本を指差して地雷さんが興奮ぎみに話始めた。
「めちゃめちゃ良作だった!『プラトニックラブ』!!」
「おぉおお! 同志よ!! 感動したよなぁああぁ!!」
なぜか地雷さんとおっさんの恋バナ(?)トークが始まってしまった。話が長くなりそうだ……。
しっかし、いかつい顔してる割に恋愛小説とか読むんだな……このおっさん。まぁ、人が多い夏の時期の監視じゃないから基本暇なんだろうな。読書くらいするよね。
「マジ、繊細で、切なくて……苦しくて……でも好き!! みたいなアレ!! なんだろうね……アレ!!」
「美しい……美しい愛の形だよなぁ……」
「……」
オーバーリアクションで話している二人を俺は冷静に見つめていた。なんていうか、繊細で美しい話ならもっとこう……静かに話せないものか。
「あぁあああぁああーー!!」
「おいおい……今度はなんだなんだ??」
「俺のっ!! 俺の服がないっ!!」
今度は少年が騒ぎ出した。そういえば泳ぐつもりがないのならパンツ姿で歩いてる訳ないもんな……。
「俺の服は!?」
「なんていうか……最初から服なんて着てなかったぞ?」
「……なんだと!?」
せっかく青い顔が正常に戻ったというのに、少年はまた青い顔をしながら叫び出した。
「あの服、理論値の装備でクソ高かったのにーー!!」
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