私を信じて
「なぁ……噂の転校生とやらじゃないか??」
「んっ??」
地雷さんの愚痴を聞いていると、見知った顔から話しかけられた。
「あっ……クリス様!!」
俺がクリス様の名前を出すと、地雷さんの声色が変わった。後ろを振り向いて話し始める。
「あっ、そうです!! はじめまして!! 地雷って呼んで下さい!!」
可愛い感じの声を意識している様だ。なんていうか……切り替えはやっ!!さっきまで鼻水出しながら泣いてたのに……。
「おぉ……君の方が伝説と言われている転校生だったのか。てっきりもう一人の方かと……失礼!!」
「いえいえ!! 大丈夫です!!」
クリス様は俺の方をメインキャラと思った様だ。まぁ、システム上そうなっているだけでどうという事はないけど……。
「ここで出会ったのも縁だと思うし、手合わせ願えないだろうか??」
「……へっ??」
「伝説の転校生は凄腕と聞く。同じ剣士として戦ってみたい」
「……」
地雷さんが何も喋らなくなった。きっと何て答えようか考えているんだと思う。
「あっ……今日はちょっと……」
「全然いいそうですよ!! むしろやりたいって!!」
「……えっ!?」
地雷さんがボソボソ話そうとしていたが、俺が地雷さんの声をかき消した。地雷さんが青い顔をして俺の方を見たが、俺は話を続ける。
「彼女も訓練が必要だから助かるって!!」
「ちょ!? チートさん!?」
「おぉ!! 良かった!! では、訓練所に入ろうではないか!!」
笑顔で訓練所に向かって行くクリス様。地雷さんは俺の方を見て青い顔のまま泣き出した。
「チートさん!! ひどいぃぃ!!」
「訓練が必要だったんだし、いいじゃないか!! 負けてもいいから頑張れ!!」
「やだぁああぁああ!!」
「もう遅い!! このタイミングでバックレたらクリス様の好感度が下がるぞ??」
「うぅうぅぅ……」
俺に言われて地雷さんはしぶしぶと訓練所に向かって行った。彼女だって戦士やってる位なのだからそれなりに戦えるはずだろう。
「この練習用の剣を使うといい」
「あっ……ありがとうございます」
クリス様から練習用の剣を受け取った地雷さんは足取り重くクリス様と対峙した。
「あのぉ〜……お手柔らかにお願いします」
「ははっ!! こちらもよろしく頼むよ!!」
瞬きした次の瞬間!!クリス様が地雷さんに突っ込んでいった。
「ふっ!? ふぉおおおぉお!?!?」
「ふむ!! とても俊敏性がある!!」
間一髪でクリス様の攻撃をかわした地雷さんは目を丸くして固まっていた。
「ひぃいいいぃぃ!!」
叫びながら凄い勢いでクリス様と距離をとる。そのまま、時計回りに逃げながらクリス様の攻撃から逃れ始めた。
「どうした!? 逃げてばかりでは埒が開かないぞ!!」
「……」
もはやしゃべる余裕もないらしい。涙目になりながら腰を低くした状態で逃げ続けている。
「むっ!! 何かを伺っているのか??」
「……」
なんだかちょっとかわいそうになってきた。無理やり戦わせるのは酷だったかな……。そう思って戦いを中断させようとした時、地雷さんが叫んだ。
「デスマーチ!!」
「即死魔法など効か――」
クリス様の言葉が途中で途切れた。地雷さんがクリス様に突っ込み、背中側にまわる。首筋にチョップをするとクリス様が倒れた。
「はぁはぁはぁ……」
息切れしながら、ヘナヘナと地雷さんがその場に座り込んだ。
「勝った……のか??」
なんだやれるじゃないか!!火事場の馬鹿力だったかもしれないけど……あの子はちゃんと戦える。
「お疲れ!!」
座り込んでいる地雷さんの肩を笑顔でたたくと、泣きながら凄い勢いで喋り始めた。
「うぉおおぉお!! 走馬灯見た!! 走馬灯見たよぉおおぉぉ!! もう4ぬ!! もう4ぬって思ったら、リューシャさんが『てめぇら!! 命を粗末にするんじゃねぇ!!』って神の鉄槌をぉおぉぉ!!」
「リューシャさん??」
なんだかよくわかんないけど、そのリューシャさんって人が助けてくれたんかな??
「なるほど。システムの裏をついた訳か」
「あっ、マタメンテエルフ」
いつの間にか隣にいたマタメンテエルフが静かに喋り始めた。
「ゲーム世界のキャラクターは、システムに反する事には対応出来ないのさ」
「……どういう事だ??」
「つまりこの世界の人達にとって『デスマーチ』は即死魔法でしかなく、即死魔法の対応しか出来ないって事だ」
「んっ??」
「簡単にいうと『デスマーチ』って言われて、チョップされるなんて考えられないんだ。そういう風にプログラミングされているのだから」
「なるほど……」
「いかに凄い剣士だろうが……ゲーム世界のキャラクターだ。プログラミングされている事に反するのは難しい」
マタメンテエルフと話していると、少し落ち着いた地雷さんが話に参加してきた。
「えっ!! じゃあ、プログラミングされている様にしか動けないって事なの!?」
「うん」
「なんかそれ、きっと本人からしたら嫌だよなぁ……可能性を潰されるみたいな……」
「まぁ、そういう風に出来ているから仕方ないっていうか……」
わちゃわちゃ話していたら倒れていたクリス様が起き上がってきた。
「うっ……油断した。私もまだまだだな……」
「あっ、クリス様」
地雷さんがクリス様に駆け寄る。
「大丈夫ですか?? 痛い所はありますか??」
若干、上目遣いで甘い声を意識しているのかもしれない。……でも、いい感じだ!!好感度も上がったんじゃないかな!?
「大丈夫だ。とても勉強になった。ありがとう!! 君は噂通り強いのだな!!」
「……いえ、強くないです。今回もまぐれっていうか。どちらかというと足をひっぱるタイプで、あまり戦いは好きじゃないんです」
「むっ?」
ちょっと落ち込み気味に言う地雷さんをジッと見て、静かにクリス様が話し始めた。
「……なるほど。自分に自信が持てないのだな」
「はい」
「……そうか。では、こうしよう」
クリス様が地雷さんの肩を両手で掴んで、熱視線で地雷さんを見た。
「ふぉっ!?」
「あなたは素晴らしい所が沢山ある。自分に自信を持って欲しい!! 沢山の人を見てきた……私を信じて欲しい」
「はっ……はひ!!」
「自分を信じる事が難しいなら……私を信じて欲しいんだ!!」
「わっ、わかりました!! クリス様を信じます!!」
すげぇ!!こんな事言われたら……男の俺でも惚れるわ!!地雷さんは案の定、顔を真っ赤にしながらクリス様に見つめられていた。
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