地雷、回復職になる
「……なぁ、みんなに相談があるんだ」
神妙な面持ちでチムリが話し始めた。ちなみに今いるのは地雷とそるとちゃんと魔法使いだ。最近、なんだかんだでこのパーティーが多い。ヒトミちゃんは彼氏と仲良くしてるとこ邪魔したらいけないし……みたいな!?
「どうしたの? お金貸して欲しいとか?? 地雷は万年金欠だから力になれないよ??」
「いや……違うんだ。ただ……」
「ただ?」
「俺……俺……、前衛やりたいんだ」
チムリが言うには本当は前衛をやってみたかったが回復職をやる人がいなくてやっていた。……と、いう事らしい。
「じゃあ、地雷がやってみるよ」
そう言った瞬間、そるとちゃんがギョッとした。
「いや、あんたパーティーの回復って大変なのよ?? わかってて言ってるの?? この間魔法で失敗したばかりじゃない」
「そうだけどメイン職以外を経験する事で得られる事もあるかもしれないし!! この装備、なんと回復職でも使えるみたいだし!! 地雷の癒しの力が右手から疼くかもしれないし」
ポジティブ大事!!……みたいな感じでしゃべる地雷を、そるとちゃんが諦めの顔で見ていた。しばらくしてため息をつきながらつぶやく。
「さすがクソダサ装備。……まぁ、やってみなさい。」
話がまとまった(?)のでさっそく実践する事になった。
回復職で使うステックはチムリが買ってくれたし、戦闘知識についてはコツを教えてもらったからバッチリだ!!
えっと……、回復力アップの技を最初にして、こまめに仲間を回復して、防御力あげて、耐性つけて、仲間の即死防止かけて、なんたらかんたら……。
さっそくドラゴン系の敵にいつもみたいに突っ込んだ。
「ちょ……後衛が前に行くな!!」
……んっ?そるとちゃんが何か言ってる??とか思ってたら戦闘不能になってた。回復する人がいなくなって程なくしてそるとちゃん、チムリも戦闘不能になる。棺桶三分クッキングで、三分より速く棺桶が出来上がった。
なぜかタフな魔法使いが戦闘を終わらせ、棺桶を三つ抱えて街の教会まで走った。
その後も棺桶三分クッキングは続いた。地雷が前に突っ込んで死ぬ、地雷が眠らされて死ぬ、地雷が麻痺って死ぬ、仲間の蘇生が間に合わなくて死ぬ、全体回復しすぎてMP切れて死ぬ……などなど。
その後出来上がった棺桶三つを魔法使いが教会まで運ぶのがルーティーンだ。
黒服の顔の見えない男が頻繁に棺桶を運ぶので街の人々は彼を葬儀屋と勘違いした。
「……もし、そこのお人、どこかで大きい戦でもあったのですか?」
「……あぁ。はい(でかいかどうかは知らないけど)」
「それはそれはご愁傷様でございました」
「(僕を)労ってくださるのですね。ありがとうございます」
魔法使いは目から涙を光らせていたかもしれない。まぁ、顔が見えないからわからないけど。
一週間が過ぎた頃、今までずっと黙っていた魔法使いが淡々とつぶやいた。
「すみません、僕はもぅ……この、棺桶マラソンに耐えられません……。」
「街の人達は僕を見ると無言で道をあけるんです。そして僕が通り過ぎると手を合わせて礼をするんです……。」
「街の子どもが僕を指差して『あっ、死神だっ!!』って言うんです。それでその子の母親が僕に申し訳なさそうな顔をするんです……」
「なんか凄いしゃべるようになったね!! よかった!! よかった!!」
地雷が言ったら顔が見えない魔法使いから、なぜか怒りの波動を感じた。
「俺、回復やるよ。なんかごめん」
チムリがぽつりとつぶやき、その後チムリが前衛をやりたいって言わなくなった。
地雷は棺桶製造機の新たな称号をあたえられ、棺桶しか作らないからという理由で回復職禁止令がそるとちゃんから出た。
魔法使いが棺桶を運ぶ事はなくなったが、街の人は彼が来ると道をあけておじぎをするらしい。そのため、街に行くのを魔法使いはしぶるようになった。
◇
彼はある女の子を見つけた。苦しそうに胸をおさえて倒れている。彼はすぐさま回復魔法を唱えた。……少し、女の子の容体が落ち着いたようだ。
「どうもありがとう」
彼女は名前をソラというらしい。どうやら散歩をしていたら具合が悪くなって倒れてしまったようだ。
「少し一人になりたくて旅に出たの」
彼女は笑って言った。話を聞くと回復職として仲間とパーティーを組んでいるらしく、みんなと冒険するのが大好きで楽しいそうだ。
……ならなぜ一人で旅に??彼は思ったが口には出さなかった。
「俺も回復職をやっているんだけどあまりうまくないし……どちらかというと前衛をやりたいんだけど」
「回復役は嫌いなの?」
「嫌いというか……。うまく立ち回り出来てないし、やっぱり男だし前衛でかっこよく誰かを守りたいなって」
「そうなんだ……」
「他に回復役を出来る人がいないからやってるみたいな感じかなぁ〜」
「……でも、誰かに求められる事が出来るって私は素敵だと思うけどなぁ〜」
そんな話をしながら二人は仲良くなった。チムメンが壊した窓の弁償をしたり、チムメンが家の前で魔法の練習をして俺の家が消滅したり、仲間が棺桶マラソンして有名になったり、変わり者のチームメンバーの話を面白おかしく話した。
彼女は声をあげて笑った。散々な事もあったけど彼女が笑ってくれるならいいかなと思うようになった。
彼は仲間の魔法使いにぬいぐるみを縫ってもらって彼女に渡した。彼女はとてもとても喜んだ。
もっともっとお金を貯めていろんなぬいぐるみをプレゼントしてあげたい。
彼は幸せだった。このままずっと幸せな毎日が続いていくと思っていた。
「あのね……入院しなくてはいけないの」
ある日突然言われた。
「だから……もう冒険出来ないの。でも、あなたに会えて良かった! ぬいぐるみありがとう! 凄く嬉しかった! 出来る事なら……あなたには私のかわりに回復役をやっていて欲しい。あなたには誰かを救う力がある!!」
そう言って彼女は空に旅立った。
彼は空を仰いだ。俺に今、何が出来るだろう……。俺に出来る事は回復役として誰かを守る事……。君のかわりに。
彼は泣いた。
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