止まない雨はない
地雷は虹色の傘を先生に差す。雨でずぶ濡れになっていた先生が顔を上げた。一瞬、雨が止んだから気になって顔を上げたのだろう。
地雷と先生の目が合う……。これはなんとなく、救いを求めている目だと思う。私と一緒の目……。
「先生……私、決めたよ」
一緒に指輪を求めて冒険してて、なんとなく感じていた事がある。先生も現実世界で、あまりうまくいってないんじゃないかも知れないって。
地雷はちょっと緊張ぎみに言った。
「私、履歴書書いて……就職する。履歴書、白いけど」
先生はびっくりした顔をした。そりゃそうだよね!!いきなり現実世界の話をするんだもん。
「……そっか」
先生は一旦下を向いてそう答えた。でもその後、顔を上げて……ちょっと笑っていた。
「頑張ってね」
「うん、私……頑張るよ」
先生が現実世界でどうかなんて、地雷の想像の中での話だから『一緒に頑張ろう!』とか言えなかったけど、私なりの気持ちは伝わったと思う。
いつの間にか、雨が止んでいて……綺麗な青空の世界に虹が出来ていた。凄く綺麗な虹だった。
「絶望じゃない……。なんて綺麗な虹なんだ」
呆然と魔法使いがつぶやいた言葉が聞こえた。
しばらく虹を見ていたら、いつの間に先生の家に戻っていた。先生の心が晴れたから戻って来られたんだと思う。
「皆様、色々すみませんでした……」
先生が頭を下げて謝ったけど、誰も先生を咎めたりしなかった。ぶっちゃけ先生はまったく悪くないし。操られていたんだから仕方なかったと思う。
安心したらなんだか急に気が抜けて、疲れがドッと出てきた。それは地雷だけじゃなくて、みんなもそんな感じだったみたい。
「あ〜……、なんか眠くなってきた」
「ゲーム世界でも睡魔ってあるんだなぁ」
「当たり前だろ〜。とりあえず帰ってみんなで休もうぜ!これからの事はその後だ」
他の冒険者の面々とも合流して、それぞれの家に帰った。考える事は一杯あるけれど、自分の家に着いたらもう意識が半分くらいなかった。
とりあえず寝てから考えよう……。ベッドにダイブしたら意識が途切れた。なぜか遠くで落雷の音が聞こえたような気がする……。
◇
こうして14名の冒険者と、協力してくれた沢山の冒険者によって世界は救われた。
彼らの戦いを知る者、イベントだと思っている者、まったく知らない者それぞれだ。
戦いが終わり、Now loadingはバンの店でうなだれていた。自分と魔法使いの力量の差を目の当たりにしてしまったからだ。
「走りにしても、魔法にしても、俺はアイツに勝てる気がしない……。一体、俺の何がいけないんだ……」
Now loadingが愚痴をこぼすと、バンが元気づけた。
「あの黒い服のまま走った奴だろ? あいつは異常だ! 比べる方がおかしいって! マジ人間じゃねーわ!」
表で相談会をやっている間、ミユキとアキは裏の方でヒソヒソ話をしていた。
「アキさん、戦いの最中、私になり変わってくれてありがとう!」
「うふふっ! 噂のセレブアイドルに変装するのは大変だったけど、ちょっと楽しかったわ!!」
「そう言って貰えると助かる!」
その後、ミユキは一番重要な事をアキに聞いた。
「それで……。私のチームリーダーの先生の事だけど」
「あぁ、彼ね!! 調べはついているわ!!」
アキは笑顔でミユキに言う。
「操られていた先生の事は、バンから運営警察に話をつけたから大丈夫よ!」
「そっか……なら、良かった!!」
「彼をバンしたら……誤バンになるからね!」
二人の安心をよそに、表ではバンとloadingがギャーギャーと何かを騒ぎ始めていた。
「お前!! 戦ったばかりでランニングマシーンなんかに乗るな!! 4ぬぞ!!」
「嫌だっ!! 俺はアイツを超えるんだ!!」
Now loadingはランニングマシーンに挑戦したが程なくして力尽きた。
◇
チムリは魔法使いと一緒に家に帰った。疲労からあまり言葉をしゃべれない……家に着いたらそのままベッドに倒れ込んだ。
「うぅ〜……もう、無理ぃ〜……」
「大丈夫ですか?」
あんな事があったのに魔法使いは元気そうだ。彼が持ってきた水を受け取って飲み干すと聞いてみた。
「お水ありがとう。ライルは大丈夫なの?」
「僕は大丈夫です」
「マジか〜……」
若さかな?と、チムリは思う。魔法使いはコップを台所に置くと外に出ていこうとした。
「どこいくの?」
「外の花壇にお水をやってきます」
「そっか。あまり無理しないようにね! 俺は寝るわ! もう限界〜!! おやすみ〜!! あぁ〜明日からどうなるんだろう……」
「……大丈夫ですよ」
「……えっ?? 何か言った??」
魔法使いの言葉が聞き取れなくて、思わず聞き返す。
「いえ、なんでもありません。おやすみなさい」
「おやすみ〜!」
その後、一分もかからずにチムリは寝た。
チムリが寝た後、魔法使いは青い空を高く高く飛んだ。普通の人間には出来ない芸当だ。空の高い部分にたった一人で到着するとつぶやいた。
「いでよ……神の雷! えっと……サンダーレイン?」
空から無数の雷が降りて来た。まさに、晴天の霹靂だ。
雷は眠りに入った冒険者達に直撃していく……。
「ぐはっ!!」
雷が直撃すると、アバターから魂が飛び出してきて高い空に登って消えていった。魂は、本来あった場所にそれぞれ戻っていく……。
「さて……、今回の僕の大仕事はこれで終わりですね」
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