最終決戦1
黒いモザイクの世界が広がったと思ったら、今度は先生の周りに凄い風が発生した。
「うわっ!! 何これ!?」
凄い風圧で吹き飛ばされそうだ。踏ん張って風圧に耐えるのが精一杯で正直、動けない。
先生はステックを手で回しながら喋り始めた。
「なかなかの魔力だ。コイツを乗っ取る事にして正解だった。このままバグの嵐で混沌の闇に落とせる」
あぁ、コイツは先生じゃない。先生はステックを乱暴に扱ったりしない。
「お前!! 先生をどこにやった!?」
地雷が叫んだら、先生らしからぬ者が言った。
「先生? あぁ〜、コイツの事か。どこにいるも何も、ここにいるさ。意識は俺が乗っ取ってるからいないにも等しいが……」
「何でそんな酷い事したんだ!?」
「何でって、君が目的だったからだよ」
「……はっ?」
何言ってんだこいつ??
「やはり気付いていない様だ。君が持っている武器は聖剣と呼ばれている凄い武器なんだよ。その力で……この世界を現実世界に変えられる」
「……何だって!?」
マジで意味不明!!この剣は初期装備としてあった武器だった気がする……。見た目も派手じゃないし、どこら辺にでもありそうな武器だ。
「だいたいコイツはこの世界が現実世界になる事を望んでいる。だから乗っ取る事が出来た。要するに、協力関係にあるんだよ」
「アホかっ!! 意識を乗っ取られたい人なんかいる訳ないでしょうが!!」
「まぁまぁ、そう言わずに……。コイツは君と一緒にいたいみたいだし、協力してくれないかな?? 君だってコイツと一緒にいたいんじゃないのか?」
「そりゃあ……出来る事なら一緒にいたいけど」
それが許されるならどんなにいいだろう。現実世界は辛い事ばかりだし。こっちの世界の方が楽しいし、幸せだし、先生もいる。
地雷の気持ちを揺り動かす様に敵が囁く。
「目的が達成出来たら私はこの身体を離れるし、二人で好きな様に生きたらいいじゃないか」
二人で……好きな様に??そんな事可能なのか??
「惑わされるな! 本当にそいつが言うようになるという保証はない!」
そるとちゃんが地雷に向かって叫んだ。
「それに、現実世界で幸せに生きてる人達がいる! それを不幸にするなんて事はしてはならないわ! 間違った選択をしたら私はあなたを絶対許さないわよ!」
あぁ、良かったよ。そるとちゃんがいてくれて。100%止めてくれると思ってた。いつも楽な方へ楽な方へ行って失敗してきて、ダメ男製造機になったんだった。
誰かを不幸にした上での幸せなんて、本当の幸せじゃない!!後々、自分も相手も周りも不幸にする。
「人の心を利用するなんて卑怯だよ!! 純粋な気持ちなんだよ!! 馬鹿にすんな!!」
よかった。間違った選択をしなくて済んだ。多分、一人だったら間違った選択をしてしまっていたかも知れない。後々、凄い後悔する事になっていたかも知れない。それ程に地雷は弱かった。
敵は当てが外れた様で面倒臭そうにつぶやく。
「幸せになれるというのに、理解出来ないな。まぁいい。駄目なら奪い取るまでだ。それにコイツは、いつか永久停止処分になるだろうしな」
永久停止処分!?バンって事??こいつが操って酷い事させられてるからか!!
もしそうなったら先生は、もうゲームをプレイ出来ない。……いや、それ所かこの状況でバンされたら現実世界の先生はどうなるんだ!?
「お前!! 今すぐ、先生の身体から出て行け!!」
敵は笑いながら地雷に言った。
「そうしたいなら力付くでやってみるといい。大事な先生が痛い思いをするだけだがな……」
「……なんだと!?」
確かに冷静に考えてみると、どうやって先生を敵から引き剥がせばいいのかわからない……。
「まぁ、存分に足掻くといい。どこまでもつか見させて貰おう……」
先生は暗闇から玉座の様な椅子を出して座り、モンスターを召喚し始めた。
四人で協力してモンスターを倒していくけど、誰も先生に攻撃出来ない。みんな前回の戦いで気付いている。痛覚もリアルなんだ……。
「はぁはぁはぁ……」
息切れが凄い。回復薬やMP薬も少なくなってきた。気持ちだけが焦るばかりだ。
そんな現状を最初に変えたのは、やはりそるとちゃんだった。
「みんな! 聞いて!! 私、ずっと考えていたの!!」
モンスターを倒しながら彼女は話し続ける。
「自分が先生の立場ならどう思うかって……。私、自分の大事な人を傷つけながら生きるなんて、耐えられない! 誰かに操られながら、誰かを傷つけながら生きたくない!」
そして最後に俯きながら言った。
「だから私達の手で先生を止めてあげましょう……」
自然と涙が出ていた。どうして先生が痛い思いをしなければいけないんだろう。どうして私がここにいるんだろう。理不尽だ……。
「はぁああぁあああーー!!」
そるとちゃんが剣を構えて先生に向かって行くと、先生に剣を振り下ろした。
「なかなか良い攻撃だね」
「くっ……」
先生は剣をスティックで受け止めたまま、突風を発生させてそるとちゃんを吹き飛ばした。
そるとちゃんはそのまま壁に激突した。
「グフッ……」
「そるとちゃん!!」
近くに駆け寄って抱き起こすと、口から血を流して、全身も血だらけになりながら、そるとちゃんは動かなくなっていた……。
「ごめんなさい! ごめんなさい! ずっと辛い役目をさせてごめんなさい……」
涙が止まらない。こんなの絶対絶対痛いはずだよ……。
「あははははははは!!」
先生は狂った様に笑いながら泣いていた。泣いているという事は、先生の意識が完全になくなっている訳ではないのだろう。
先生の心が反映されているみたいに、黒いモザイクだけのこの世界に、雨が降り始めた。まるで泣いている様だ。
地雷はそるとちゃんを抱き抱えたまま動けない。その間も魔法使いは淡々と敵を倒し続けながら、何か独り言をつぶやいていた。
「やはり絶望……。人間に聖剣は過ぎたる力なのだ。最初から僕は反対だった……。なぜ、彼女に聖剣を託したのだろう……」
「僕はもう……絶望を見たくないのに」
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