メンテ明け
しばらくするとブラックホールみたいな穴が消滅した。
多分、現実世界の緊急メンテが終わったのだろう。長い戦いだった。
そるとちゃんとぽたんちゃん、三人で休んでいたら大活躍だったリュウさんが走って来た。
「はぁはぁ……。死ぬかと思ったぜ!!」
「……お疲れ、リュウ」
ガチ勢の会話は少なかった。あまり話さなくてもお互い分かり合ってるって感じだ。
突然、リュウさんがこちらに振り向く。そして、なぜか熱視線で地雷に迫って来た!!なになになになに!?バーチャルバージョンだから余計にイケメン度が上がる!!
「地雷戦士!! 俺は君を探していたっ!!」
リュウさんに真剣な眼差しで見つめられて、思わず思っている事を口にしてしまった!!
「えっ!? なになに? 愛の告白??」
人前じゃちょっと……とか思ってたら、少しの沈黙の後に言われた。
「違う! すまんがタイプじゃないっ!!」
「グハッ!!」
心にダメージを受けて地雷が地面に倒れ込んだ。
「告白もしていないのに、フラれるって……地雷に10000のダメージ!! ぐぁああぁああ!!」
そのままひっくり返った状態で、殺虫剤をかけられたゴキブリみたいにジタバタする。
あまりにも酷い有様だった様で、リュウさんが冷めた目で地雷を見ていた。
……あぁ、その目、最高です。
「えっと……そろそろ、話をしていいか?」
「あっ、はい、すいません」
リュウさんは静かに話し始めた。
「まず、バーチャルバージョンは架空の設定だ。今起こっているこの現状は、なぜそうなっているのか不明だ」
「……えっ!? だって、さっき運営警察がこれはドッキリイベントだって……」
「……すまん。アレは俺の嘘だ」
ガーン!!どおりで声がリュウさんに似ている訳だ。
「なるほど……。冒険者を安心させる為ですね。バーチャルバージョンってシステムにしても、ちょっと納得出来なかったので腑に落ちました」
そるとちゃんは冷静に分析してたみたい。地雷は信じきってしまったよ。
「このバグを引き起こしている元凶がいる。地雷戦士には、この元凶を解決して来て欲しいんだ」
「……ちょっと待って待って!! 何かと戦うって事?? 自慢じゃないけど強いプレイヤーじゃないよ!?」
むしろどちらかと言うと足を引っ張るプレイヤーだ。きっとそんな事はリュウさんも知っているとは思うが。
そんな不安を知ってか知らずか、リュウさんは地雷に語りかける。
「いいかい? 物事というのは、力の強さだけでは解決出来ない事が多い。力でねじ伏せても、それは絶対的な解決にはならない。その時は良くても、後々またトラブルになる」
「ふむふむ」
それは納得出来るが、その事になぜ地雷が関係してくるんだろうか?
「君には神の加護がある。その力を正しく使って欲しい」
「んっ? 髪の加護? まぁ、ハゲてはいないけど」
リュウさんがまたちょっと微妙な表情になる。
「なんだか、話が噛み合っていない様だが……」
「えっ? 髪あってない?? ヅラじゃなくてちゃんと地毛だよ!?」
地雷が髪の毛を引っ張って見せると、なんだか呆れた表情をしていた。……何故だ!?
「えっと。とりあえず……これが行って貰いたい住所だ」
リュウさんから紙を受け取ると、中には家の住所が書かれていた。
……それは地雷がずっと行きたくて、それと同時にずっと行きたくない場所だった。
「……」
多分、顔に出ていたんだろう。そるとちゃんが言った。
「なるほど……。理解しました。この子一人では心配なので私も行きましょう」
「あぁ、そうしてくれ!! きっとその方が彼女も心強いはずだ!!」
話がまとまったあたりで、身内の仲間達がボチボチ集まって来た。一番最初に来たのはチムリと魔法使いだった。
「みんな無事で良かった! お疲れ様! 俺、何もしてないけど……」
チムリは、魔法使いと一緒に違うエリアで戦っていたみたいだ。でも、片っ端から魔法使いが無傷で敵を倒しまくっていくので、ほぼ出番がなかったらしい。
作戦会議をして、とりあえず地雷とそるとちゃんとチムリ、そして魔法使いが偵察に行く事になった。
「それじゃあ、みんな……行ってきます!!」
笑顔で言ったけど……正直、気が重い。どんな顔で会えばいいかわからないし……。
「……あんた、大丈夫?」
「うん! 大丈夫! そるとちゃんがいるし!!」
「まぁ、そうだけど」
本当にそるとちゃんがいて良かったと思う。地雷の心なんて顕微鏡のプレパラートだ。すぐ折れてしまうし、間違った判断をしてしまう。一旦立ち止まって、冷静に物事を判断出来るのは彼女のおかげだ。
紙に書かれていたのはチムリの先生の家だった。家に着いたらあの時と何一つ変わらない家で少し安心した。先生が元凶だなんて嘘なんじゃないの??
庭でコソコソ様子を伺っていたら、家の中から声が聞こえてきた。
「……どなたでしょうか? そこにいるんでしょう?? お茶でもいかがですか??」
声を聞いたらなんか気が抜けた。それと同時に、せつない感情が湧いてくる。
「……俺が様子を見てくる」
チムリが小声で言うと、草むらから出ていった。家から二人の話し声が聞こえてくる。
「こんにちは! お変わりありませんか? こんな状況なので様子を見に来ました」
「あら! 来て下さったんですね! ありがとうございます! とりあえずお茶淹れるので座って下さい」
これのどこが元凶なんだ??先生は普通だし、拍子抜けだよ。もう、帰りたい……。帰らせてくれ。
「……ところで。庭で一体、何をしていたのですか?」
「あっ、いや、いるかな〜って思って……」
「……そうですか。三人も連れて……」
いきなり空気が変わった。家の庭にいたはずなのに、黒いモザイクの様な世界が広がっていく……。
チムリ以外の三人も、先生の前に姿を曝け出された。
「……なんだ、これ??」
チムリが動揺しながらつぶやくと先生が答えた。
「何って、ただのバグだよ……」
読んで頂いてありがとうございます!!楽しい作品になるよう頑張っています!!良かったら、評価とブックマークよろしくお願いします!




