究極の壁ドン(サブリside)
今日は待ちに待ったオフの日だ。大量の仕事の事を考えなくてもいい。家を建てて資金も尽きたから、調理をしてまたお金を稼がないと……。
いつもみたいに兄貴の家で目が覚めた。
「……どういう事だ?」
いつもと同じだが、いつもと違う……。俺は働きすぎて、ついに頭がおかしくなったのか??
なんだかいつもより、リアリティーを感じる。……いや、むしろこれは現実??
「まさか!? 嘘だろ!!」
俺は今!夢を見てるんだ!!自分に都合がいい夢を!!
この世界にいれば……あいつらは俺を必要としてくれて、あいつらと楽しく暮らせる。
もう一つの世界で俺を必要としているのは『かいしゃ』くらいのものだ。
「早く起きないと……兄貴にでもブン殴って貰おう」
扉を開けると兄貴がいた。兄貴は卓について頭を抱えている様に見えた。
「あ……、兄貴。俺ちょっと頭がおかしいみたいなんで、ブン殴って貰っていいか?」
自分でも何を言っているのかがわからない。
兄貴は俺を見ると、何かを確信した様だった。
「……お前もか。おかしいのは」
「……えっ?」
「俺もだ」
「……」
「……」
頭が追いつかない……。
長い沈黙の後、覚悟を決めた様に兄貴が口を開いた。
「とりあえず、このままでいても仕方ない。外に出てみよう……」
外に出たら綺麗な海が広がっていた。ありえない事だ。
「マジか……。マジでゲームの世界に……」
二人で途方に暮れているとぽたんが現れた。
「うぃ。二人共大丈夫か?」
「……ぽたん。大丈夫……じゃないかも知れない」
兄貴は呆然と答えを返していた。
「その、ぽたんは……どうなんだ?」
なんて聞いていいかわからなくて、思った事をそのまま言葉にした。ぽたんはいつもみたいに淡々と答える。
「二人と一緒さ。現実にこの世界にいる。なんでこうなっているかは不明だ」
ガチ勢は非常事態の時でも冷静らしい。さすがだ。更にぽたんは言葉を続ける。
「とりあえず出来る事をするだけだ。今、リュウがいる街に、大量のモンスターが発生している。凄い数だ。このままではこの世界にいる我々も危険だ」
「何だって……?」
兄貴はその場にへたり込んだ。俺はただただ、何も出来ずに突っ立ったままだ。
「各々、戦う準備が出来たら街に来てくれ!! チムメンもそれぞれ集まる予定だ。すまないが私は時間がないので街に戻る」
そう言ってぽたんは街に行ってしまった。
「ゴチ、考えるのは後にしよう……。俺達も戦うぞ!」
兄貴の言葉で、少し我に返った気がする。
「そうだね兄貴! チムメンのみんなが心配だ!!」
確か会社に入って今程忙しくなかった時に、パラディンのスキルだけ取っていたはずだ。大切な物を守れる人になりたくてパラディンを選んだ。
……だいぶ、もう、戦ってはいないけど。
そういえば今思い出したけど、俺……武器防具がないや。情けない。
「兄貴、余りの防具持って……うっ……」
「……どうした? ゴチ?」
何かが心に入り込んでくる。あぁ……俺はよくこの声を知ってる。『かいしゃ』だ。
『今日は休みの所悪いんだが、出勤をして欲しい。人が足りないんだ。頼むよ』
どうやって相手に意思を伝えればいいかはわからないが心で返事をしてみる。
『すみません……。今日は外せない用事があるので行けません』
すると苛立ったような声が返ってきた。
『はぁ? 君がいないと残りの人間が大変になるのだよ?』
どうやら心で返事を返す事が可能らしい。
『今日は休日だったはずです。大事な仲間が命を落としてしまうかも知れないのです』
『仲間?? 家族じゃないんだろう?? 血の繋がっていない他人じゃないか!!』
……他人??大事なあいつらが??
『とにかく、今日は無理です……』
『ふざけるな!! 首にするぞ!!』
俺にとって大事なのは『あいつら』?『かいしゃ』?
そんなのは『あいつら』に決まっている。
ふとリュウの言葉を思い出す。
『自分の常識や枠組みという壁に囚われるんじゃない! ピンチの時は壁を壊せ! お前なら出来る!』
……あぁ、わかったよ。俺は今、『かいしゃ』という壁を壊すよ。
『あいつらは俺にとって家族みたいに大事な存在だ!! 馬鹿にするな!! こっちから辞めてやる!!』
心の中でブラックリストを出して『かいしゃ』と打ち込んだ。それっきり『かいしゃ』の声は聞こえなくなった。
「ゴチ……大丈夫か??」
「あぁ、大丈夫だよ兄貴……」
兄貴に武器防具を借りようと思っていた時、遠目に沢山の冒険者がこっちに向かって走って来ていた。
「なんだ? なんでこっちに向かって走ってくるんだ?」
疑問が解決する前に走って来た冒険者が俺に話しかけてきた。
「あの! ここで武器とか防具を提供してくれるって聞いたんですけど! 街の商人がいないから購入が出来なくて……」
「……えっ!? ここで?? 誰に聞いたの??」
「リュウって人がここに来ればいいって……」
「リュウが!?」
リュウの言葉をもう一度思い出してみる。
『自分の常識や枠組みという壁に囚われるんじゃない! ピンチの時は壁を壊せ! お前なら出来る!』
……まさか!?もしかして!!
俺は自分の家に急いで入った。ずっと疑問だった事がある……。一箇所だけ、壁が薄い部分があるんだ。
「おま……どうした? 急いで家なんか入って……」
「兄貴!! ハンマー貸してくれ!!」
「……ハンマー??」
ハンマーで壁の薄い部分をぶっ壊した。ちょっと叩いたら壁はすぐ壊れた。
「……何だ。これ??」
中には床から天井まで武器、防具、装飾品が置かれていた。どれもガチ勢が選んだ一級品ばかりだ。
……そう、俺の家は、武器庫だったのだ。
「あいつら……。やる事なす事ホントガチだぜ」
兄貴がちょっと笑っていた。
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