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明日は檜になろう  作者: 夜空雷流
第一章
12/125

先生の憂鬱


 彼女は台風のような人だった。急に現れたと思ったら、突然ぱったりといなくなった。

 きっかけはささいな事だったと思う。口々に推しの名前を叫んでいるギャラリーの中で、彼女の名前をあげる人はいなかった。

 俯いている彼女が不備で……彼女が推しだと言ってしまった。



 レストさんのイベントが終わって数日後、家でお茶を淹れようと台所で急須を出した。僕はゆったりとした静かなこの時間が好きだった。

 だが、突然家の扉からけたたましい音が聞こえてきた。

 

  ドンドンドンドンドンドン!


「先生〜!! いますか〜!! レッドで〜す!!」


 レッド??一体誰……??そんな知り合いいたかな??頭を張り巡らせて考える。だが、考えがまとまる前に扉が開かれた。


  バーーーーーン!!


「おはこんにちばんはーー!! 地雷でーす!!」


 勢いが凄くて呆気にとられた。あぁ……レストさんの知り合いの子かぁ。それにしてもこの子はいつもこのテンションなのか??……凄いな。


「あっ……こんにちは」


「こんにちはー!!」


 とりあえずお茶を出して用件を聞くか。どんな用件なのかさっぱりわからないが……。

 お茶を淹れて彼女に出すと呑気に飲みはじめた。なんだか悩んでいるのが馬鹿馬鹿しくなってきたな。


「それであの……どういった用件でしょうか?」


「はい! 先生と仲良くなりたくて遊びに来ました!!」

 

「……そうですか」


 なんだか凄い子に懐かれてしまった……。推しとか言わない方がよかったかもしれない。まさかこんな事になるとは……。


「先生! 緊張していますね?? 大丈夫です!! これから仲良くなればいいんです!! さっそく冒険に行きましょう!!」


「……はぁ」


「先生が倒したいBOSSとか、やりたいレベル上げとか、他にやりたい事などはありますか?」


 それにしてもよくしゃべる子だ。僕はこういう騒がしくて落ち着きがないのは好きじゃない。困ったな……。あっ、そうだ!!難問をふっかけて飽きて貰えばいい。そうしよう!!


「……じゃあ、聖者の指輪を取りに行きますか?」


「オッケーです! 行きましょう! 行きましょう!!」


「言っておきますが……。聖者の指輪は出る確率が凄く低い代物だそうです。覚悟してくださいね」


「はいはーい!!」


  きっとモンスターを倒しているうちに飽きて音を上げるだろう。笑っていられるのも今のうちだ。



 彼女と渋々洞窟に向かった。……でも、途中から僕の中で何かが変わっていった。騒がしいのも落ち着きのないのも嫌いだと思っていたのに、彼女と話しているとなんだか元気になる。

 ……なるほど。他の仲間もこうして振り回して、そして彼女から元気を貰っているのか。


 

 洞窟について冥府の番人を倒し続けた。やはり聖者の指輪は早々簡単には出ない。意外だったのは彼女がタフで簡単には音をあげなかった事だ。……でも、そろそろ長時間倒しているし疲れているだろう。


「……ねぇ。大丈夫? そろそろ一旦、休憩する??」


「大丈夫! 大丈夫! まだまだ全然イケる!!」


 大丈夫と言いながら彼女は寝ていた。寝ながら壁に向かって走っていた……。


「うん、今日はもう終わりにしよう。また明日にしよう」


「わかった! じゃあまた明日!!」


 こうして彼女との聖者の指輪を手に入れる日々が始まった。最初はあんなに渋々洞窟に行っていたのに、今では毎日の楽しみになっていた。

 彼女は自分から簡単に音をあげる子ではなかった。限界が近づくと寝ながら壁に向かって走る。その姿がおかしくて……そして微笑ましかった。


――あぁ、気付いたら本当に推しになっていたんだ。


 僕の中で聖者の指輪が出ようが出まいがどうでもよくなっていた。ただ、一緒にいられれば幸せだった。長い時間を沢山、彼女と過ごした。これからもずっと幸せだと思っていた。



 ……でも、突然幸せは消えてしまった。聖者の指輪が出たのだ。僕は単純に喜んだ。


「やったー!! 聖者の指輪だ!!」


「うんうん!! よかった!! よかった!!」


 彼女はよかったといいながら……なぜか悲しそうな、辛そうな表情をしていた。


「……どうしたの? なんか悲しい事でもあった?」


 何が原因かまったくわからなかった。僕は何かをしてしまったのだろうか……。

 彼女は少し考えているようなそぶりをして、なんだか泣きそうな顔をしながら話し始めた。


「先生!! とっても楽しかったです!! ありがとう!! 沢山、思い出が出来ました!! これからも身体に気をつけて、どうぞ幸せでいて下さい!! それじゃあ」


 そう言うと逃げるように帰ってしまった。いつもなら『また明日』……って言うのに。でもその時、僕は事の重大さに気付いていなかった。

 それから数日後、僕から何回か彼女に連絡をとってみたが『ごめんなさい……忙しくて』としか返事が来なくなった。避けられているみたいだった。



 僕から連絡をとる事もなくなり聖者の指輪だけが手元に残った。『即死防止50%』の効果がある指輪でとても欲しかった指輪だ。……でも、彼女に会えなくなるくらいならいらなかった。

 ゆったりとした静かな時間が続く……。あんなに大好きな時間だったのに、今ではただ虚しい。心に穴があいているみたいだ。

 指輪を見るとただただせつなくて苦しい。……この感情は一体何だ??

 

読んで頂いてありがとうございます!!楽しい作品になるよう頑張っています!!良かったら、評価とブックマークよろしくお願いします!

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