イベント内容
「じゃあ、皆さんよろしくお願いします。私は外側から様子を観察しているので」
「わかった。またね〜、ラスボス!!」
「創造主様……皆さん……どうかお気をつけて!!」
笑顔でラスボスと別れた後、ワープしてみると馴染みのある街に飛ばされた。凄く、懐かしいんだけど……なんだか違和感を覚える。
ライルンは街に到着するとそそくさと人気のない通りに私達を連れ出した。まぁ、正体バレて行列とか出来たら大変だもんね。
「ふぅ……ここなら大丈夫ですかね」
「ねぇ。ここって確か、ライルンが死神プリンスになった街だよね?」
「はい。まぁ……」
「コンテスト会場に行く時、ワープゾーンなんて通って来たっけ??」
「おや、よく気付きましたね。以前はワープゾーンなんてありませんでしたよ」
やっぱり。以前は街から街に移動する感じだったけど、今回はワープゾーンを通って来た。あきらかに目的地に到達するまでの過程が違う。
「元々、ゲーム世界にはワープゾーンという概念がないんです。ワープゾーンは現実世界からゲームをプレイしている人だけが使える代物……こちらにワープゾーンがある事自体がおかしいのです」
「なるほど。その違和感から今回の騒動に繋がったという事ですか?」
「はい。チートさんその通りです。我々……神はそういう異変を見つけ出して元に戻すのが仕事ですから」
「そうなんですね……大変だぁ」
二人が世間話をしている間に、キョロキョロと周りを見ていると興味を引くビラが目に止まった。綺麗なお姫様がきらびやかなドレスを着て微笑んでいる素敵なポスターだ。
「プリンセスコンテスト……開催??」
「はい。今回のイベント内容です。まぁ……偽りのプリンセスコンテストですが……」
「偽りのプリンセスコンテスト?? 何それ??」
プリンセスコンテストに偽りとかあるの??実は男性が女装してました的なコンテストとか??
「このプリンセスコンテストは現実世界の悪しきモノが作り出したイベントなんです。運営が作ったものでも、この街でやろうとしたものでもありません」
「えっ!? そんな事あるの!?」
「はい。壮大な力があれば……そういう事も可能です」
現実世界でも凄い力を持った人がいるって事なのかな?めちゃくちゃ凄い念力を持ってるとか??
「詳しい事は省きますが、一体何の為にこんなものをやっているのか? 誰がやっているのか? そういう部分を調べる必要があるのです」
「ふむふむ、なるほどなるほど……」
「そういう事ですので地雷さん。プリンセスコンテスト、エントリーしておきましたのでお願いします」
「……えっ?」
エントリー?エントリーって何に??まさかこんなBBAにプリンセスコンテスト出ろっていうんじゃ……。
「ライルン……心は若くても私はもうおばさんよ??」
「大丈夫です! アバターですから!!」
「ライルさん、それ……フォローになってない」
「プリンセスコンテストで優勝する必要はないんです。ただ、地雷さんには内部から怪しい人物がいないかチェックして頂きたいのです」
「いや、まぁ……理屈はわかるけど」
だいたいプリンセスコンテストっていうからにはアピールタイムみたいなのがあるんじゃ……。
「プリンセスコンテストでアピール出来るようなものがないんだよ。ダンスとか、歌とか、人並みだし……」
「まぁ、そうですよね。そう言うと思って準備をしてきました」
ライルンはいそいそと黒い布の様な物を地雷に渡してきた。何だ……これ??
疑問に思いながら黒い布を広げていくと、見た事のある紐が見えてきた。
「この紐……まさか!! 懐かしの黒いマント!?」
「そうです。以前、チートさんが作った希望の演出を再現出来るマントです」
「うわぁ〜……そのマント、懐かしいなぁ!!」
確かにこのマントがあれば歌でも踊りでもそれなりの演出をしながらアピールタイムをやりぬけるかもしれない。でもなんか違うんだよなぁ。
「う〜ん……でも、やっぱり、プリンセスって柄じゃないし。正直、気が乗らないっていうか……」
「まぁ、ここは現実世界を守る為と思って頑張っていただけませんか? 本番でミスをしてしまったとしても、あなたなら土壇場の機転と愛嬌で乗り切れると思うんです」
「…………」
違うんだよ。違うんだよライルン!!私は世界を救う為とか、ヒーローとかには向いてないって思うんだよ。そうじゃなくて、もっと、もっとこう……面白くないと。
あっ、いい事思いついた!!私もノリノリで出来て、楽しくイベントを出来る方法が。
「わかった。いいよ! やってあげる」
「おぉ! やって頂けますか! ありがとうございます」
「でも、ライルン。私から条件がある」
「……条件??」
ライルンは不思議そうな感じで私の方を見ている。
「マゼンタ学院でやったライルン召喚の儀式をやるから、死神プリンスとしてステージに登場欲しい」
「はぁっ?」
私がそういうとライルンは固まってしまった。自分に役目が振られるなんて思ってなかったんだろうな。
でも、この街の人達だってライルンの事大好きだと思うし……きっと喜ぶと思うんだよね!!凄いスペシャルサプライズだよ!!
「じっ……地雷さん!! 学芸会じゃないんだし、ここはライルさんの言う通りにしたら??」
「そっ、そうですよ! プリンセスコンテストなのにわざわざ僕が登場する必要なんてないじゃないですか!!」
やはり反論してきたか。でも……せっかく久しぶりにゲーム世界に来たし、楽しくイベントをやりたいんだよね。例え偽りのイベントだったとしても。それに、大人しくお姫様ぶったって……つまんない。
「この街には沢山の死神プリンスファンがいるんだよ? 彼らの為にも私が引く訳にはいかないよ。だいたいこのコンテストが悪い人の手によって行われるんだったらブッ壊した方がいいじゃない!!」
「いやまぁ……そうかもしれないですけど」
ライルンが押され気味になってきた。イケる!!イケるぞ!!このまま押し通せ!!
「よくよく考えてみてよ! 悪い人の企みをブッ壊せるんだよ?? 悪い人にとってもダメージ与えられるしいいと思うんだけど……」
「まぁ。確かに一理ある……かな」
チートさんも若干、こっち寄りになってきた。よしよし……いい傾向だ。
「いや、やはりその案は賛成出来ません。悪者の神経を逆撫でしてしまう可能性もありますし、そもそも僕自身がそういうのが好きじゃありません」
まぁ、そう言うと思ったよ。悪者の神経うんぬんよりも、ライルン自体がやりたくないだろうな。
よし、作戦変更だ!『鳴かぬなら鳴かせてみようホトトギス』
「ライルンが登場しないなら……私、プリンセスコンテストを棄権します!!」
「なっ……なんですって!?」
ライルンが後退りしながら挙動不審になっている。ちょっとかわいそうな気もするけど、作戦変更はしない。
「ライルン、このままだと職務放棄になっちゃうよ? 他の神様に怒られちゃうかもだし……死神プリンス、頑張った方がいいんじゃない??」
「うぅううぅ……」
ライルンはめっちゃ余裕なさそうな呻き声をあげている。全力でやりたくなさそう……。仕方ない、背中を押してやるか!!
「ライルンがやるって言わないなら。今ここで街の人にライルンがいるって言っちゃうから!!」
「えっ!? ちょっ……何、言って……」
動揺しまくりで右往左往するライルンを尻目に、私は大声で叫び出した。
「皆さぁあああぁ〜〜〜ん!! 今、ここに!! 今ここに!! しにが……ふがっふがふが…………」
私が叫び声を上げた瞬間、ライルンが私の口を押さえながらヤケクソで叫んだ。
「わかりました。わかりましたよ……やりゃ〜いいんでしょ?? やりゃああああぁああ!! あなたってそういう人でしたよ!!」
「地雷さん……神様を困らせるって……凄いな」
こうして私はプリンセスコンテストに出場する事に決まったのだった。
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