いつもの日常
朦朧とした意識の中、誰かが俺を呼んでいる。誰だ??誰が俺を呼んでいるんだ??
「ちょっと!! ゲームしたまま寝落ちしないでって言ってるでしょ!!」
「…………うぉっ!?」
唐突に声をかけられて、持っていたコントローラーを落としてしまった。後ろを振り向くと、ご機嫌ナナメの嫁が仁王立ちで立っている。
「あっ……えと、起こしてくれてありがとう」
「どういたしまして」
良かった。これ以上、機嫌が悪くなる事はなさそうだ。でも、一体何の用があったのだろう?
「何かあったの?」
「あなた宛に荷物が届いたのよ」
「荷物??」
「よくわかんないけど。リビングに置いたから早く持っていってちょうだい」
嫁はそう言うと忙しそうに出ていってしまった。
「…………」
誰もいなくなる部屋。なんだか不思議な感覚なんだけど……今まで長い旅にでも出ていた様な感覚がある。まぁ、きっと寝ぼけているだけだと思うんだけど。
それにしても……荷物??ネットで何か買ったんだっけ??いや、つい最近は何も買ってないはずだ。
「何だろう?」
独り言をつぶやきながら、まだ働いていない頭で階段を降りる。リビングの扉を開けると、とても大きい袋状の荷物が置かれていた。
「何このでかい荷物……」
「知らないわよ! 掃除するのに邪魔だからすぐ持ってって!!」
「あっ……うん」
俺は荷物についている宛先のタグを確認した。
「なんだ店長かぁ〜……こんなでかい荷物送ってきてなんなんだろ??」
『店長』は電気屋の店長をしている。機械のメンテナンスも出来るんだとか……なんとか。だからあだ名がそのまま『店長』だ。
「はぁ……部屋まで持っていくか。そんな重くないけど運びずらいな」
『店長』は一緒にゲームをしている仲間だ。つい最近、オフ会をやって更に仲良くなった。悪いやつじゃないんだけど……凄くうるさい。まるでラジオみたいにずっと喋っている。
「さて……開けてみるか」
ゴソゴソと袋状の荷物を開けいくと、凄くでかいぬいぐるみが出てきた。とがった耳に、羽が生えてる人形だ。
「なにこれ? エルフ人形??」
しっかし、この人形……見れば見るほどになんかムカついてくるな〜……。何でだろ??
「あれっ? 背中にボタンがある……」
俺は近くにあったスイッチの電源を『ON』にした後、背中にあったボタンを押してみた。
『ギャハハハハハハハ!!』
「……なにこれ、キモっ」
ボタンを押すとリアル店長の笑い声が聞こえてきた。ふざけた笑い声がイライラを更にかきたてる。
「こんなでかいぬいぐるみどうしろってんだよ……」
狭い俺の部屋に、このぬいぐるみはでかすぎる。正直……置き場所に困るぞ。
「とりあえず、穴の空いた壁を隠してみるか」
壁ドンで空いた穴を隠す様に配置してみた所、凄くいい感じに収まった。穴は隠れたけど……部屋が狭い。
「はぁ……まぁ、しばらくはいいか。穴も隠れるし」
どこかの部屋にスペースが出来たら移動しよう。それまでは我慢だ。
片付けようと思い、ラッピングされた大きい袋をたたもうとしたら、底の方に何かを見つけた。
「何だこれ? メッセージカードか??」
どうやら店長が俺に宛てたものらしい。いつも話が長いから長文かも知れない。
『よう、チート!! 業者から貰ったんだけどせっかくだからプレゼントするよ!! 録音機能付いてたから俺の声入れといた!! ありがたく思えよ〜!!』
「…………」
何だこれ??ふざけてんだろ。あいつ絶対、置き場所に困って俺に送りつけてきやがったな。
「ちくしょう……ログインしたら文句言ってやる!!」
イラついた心を抑えながら独り言を言っていたら、下の方からヒステリックな声が聞こえてきた。
「ちょっと!! 一体これはなんなのよ!!」
やばい、やばい、やばい!!あれは相当怒っている時の嫁の声だ。
俺……なんかしたっけ??ヘソクリがバレた??それとも内緒でゲームソフト買ったのがバレた!?
大きい足音がゆっくりと階段を上がってくると、俺の部屋の扉が凄い勢いで開いた。
――バンッ!!
「あなた!! これはどういう事か説明してちょうだい!!」
鬼の形相で一枚の紙切れを俺に押し付けてくる。俺はそれを……恐る恐る確認した。
「えっ……ゲーム課金、五万円!? そんなに使ったっけ??」
「なにしらばっくれてんのよ!!」
嫁には悪いけど本当に思い当たる節がない。でも、記憶を辿っていく時間は残念ながらなさそうだ。
「はぁああああぁあああぁ〜〜〜…………」
「…………」
来るぞ壁ドンが!!タメの時間もあるからこの一撃は相当でかい壁ドンだ。逃げる術は100%ない。
俺は嫁をなだめつつ、店長がくれたぬいぐるみの方へゆっくりと移動していく。
「ちょっ……落ち着い……落ち着いてぇぇええ!!」
「問答無用!! はぁアアァアア!!」
――バキッ!!
鈍い痛みを感じたと思ったら俺はブッ飛んでいた。ブッ飛んだ俺を……ぬいぐるみが優しく受け止める。
『ギャハハハハハハハ!!』
どうやら電源を切り忘れていたらしい。壁ドンの衝撃でボタンが押され……イラつく声が部屋に響く。
「三ヶ月はお小遣いなしですからね!!」
嫁はそう言うと、ドスドスと凄い足音をたてながらリビングの方に戻っていった。
「三ヶ月小遣いなしって……きっつ!!」
俺はつくづく思う。ラスボスとか、魔王とか、悪の根源みたいなのより、世界で一番……嫁が怖い!!
〜第三章 完〜
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