聖者の指輪
チムリの先生の所に遊びに行く事にした。先生の家は知っているから家凸すればOKだ。先生の家の扉を叩く。
ドンドンドンドンドンドン!
「先生〜!! いますか〜!! レッドで〜す!!」
先生を待ちきれないので勝手に扉を開けた。
バーーーーーン!!
「おはこんにちばんはーー!! 地雷でーす!!」
家を覗いたら先生は台所にいた。困惑しているような、びっくりしているような、不思議な顔をして固まっていた。
「あっ……こんにちは」
「こんにちはー!!」
先生からお茶をいただいた。先生はお茶を飲みながら地雷の方をチラチラ見て様子を伺っているようだった。
「それであの……どういった用件でしょうか?」
「はい! 先生と仲良くなりたくて遊びに来ました!!」
「……そうですか」
少し苦笑いを浮かべながら先生がつぶやいた。あんまりしゃべるのが得意そうでないからもしかして緊張しているのかもしれない。
「先生! 緊張していますね?? 大丈夫です!! これから仲良くなればいいんです!! さっそく冒険に行きましょう!!」
「……はぁ」
「先生が倒したいBOSSとか、やりたいレベル上げとか、他にやりたい事などはありますか?」
言った後に気付いたけどBOSS苦手だった……。BOSSって言いません様に、BOSSって言いません様に、BOSSって言いません様に……。
「……じゃあ、聖者の指輪を取りに行きますか?」
セーフ!!BOSSじゃなかった!!モンスターを倒してレアドロップ狙う感じだ。レベル上げみたいなものだ。得意分野で良かったぁああ〜。
「オッケーです! 行きましょう! 行きましょう!!」
「言っておきますが……。聖者の指輪は出る確率が凄く低い代物だそうです。覚悟してくださいね」
「はいはーい!!」
さっそく聖者の指輪をレアドロップする冥府の番人と呼ばれるモンスターを倒しに洞窟へ向かった。
洞窟に向かう途中でチムリの家が消滅した話とか、棺桶を抱えて走る魔法使いの話とか、あまり嬉しくない称号を作る相方の話とかをした。
どれもお腹を抱えて笑っていた。うんうん、緊張は溶けたみたいで良かった!!
洞窟について、冥府の番人を倒して、倒して、倒しまくった!!回復のスペシャリストと一緒だったから安定してモンスターを倒す事が出来た。
とても低い確率と言われているだけあって聖者の指輪はまったく出る気配がなかった。
「……ねぇ。大丈夫? そろそろ一旦、休憩する??」
「大丈夫! 大丈夫! まだまだ全然イケる!!」
大丈夫って言ったけど、本当は疲れちゃって凄く眠い……。あっ、もしかして壁に向かって走ってた??やばい、やばい!!バレてないよね??バレてないよね??
「うん、今日はもう終わりにしよう。また明日にしよう」
「わかった! じゃあまた明日!!」
こうして先生と、聖者の指輪を手に入れる日々が始まった。何日も何日も一緒にいて、何日も何日も『じゃあまた明日!!』を繰り返した。
凄く楽しくて、一緒にいるのが嬉しかった。
毎日毎日、飽きもせず聖者の指輪を取りに行っているので、レアドロップが出やすくなるという香水をフレがプレゼントしてくれた。
地雷は香水を見つめて少し考えると、それをそ〜っと机の引き出しの中にしまった。そしてそのまま、なかった事にした。
――聖者の指輪が欲しい訳じゃないんだ。
ただ、一緒にいたいだけなんだ。あのまま時間が止まってくれたらいいなって何度思っただろう。
でも、きっと、それは……駄目な事だ。
長い時間、冥府の番人を倒して解散した後、そるとちゃんが地雷の家の前で待っていた。鋭い目で地雷を見ていた。
「……」
「……」
十年も一緒にいるんだ。お互いの嫌な所、汚い所、人に見せたくない部分、そんなものがよくわかる。
「……言いたい事わかる?」
「……うん。わかるよ」
「……どうだか。いつもそうやって失敗する。」
そるとちゃんはそのまま、何も言わずに地雷の家から離れていった。きっと心配しているんだよね??ごめんね。いつも心配かけて。大丈夫だよ。決めていたから……今回は。
ただ、もう少し、もう少しだけ……。思い出が欲しいんだ。ただそれだけなんだ。ワガママかも知れないけれど、一緒に冒険したっていう思い出の証が欲しいんだ。
そるとちゃんはずっと地雷のそばにいてくれた。心も身体もズタズタでボロ雑巾みたいだった地雷を、まわりの人は可哀想って顔をして通り過ぎていった。そんなボロ雑巾を拾って大事にしてくれた。
深夜遅くまで地雷の話を聞いてくれた。いつも心に余裕がなくて誰かにすがっていないと立っていられなかった。私のせいなのか、相手のせいなのか、付き合う男の人はだいたいダメンズって呼ばれる様な人だった。
「地雷の過去は、重くて汚れているんだよ」
ある日、我慢出来なくてポツリと言った。こんな人間は幸せになってはいけない気がした。
「馬鹿! 言いたくない事は棺桶まで持っていけばいい。そんな事であんたの幸せを諦めなくちゃいけない……なんて事はないのよ!!」
私でも幸せになっていいんだ!……って思う事が出来たら心が軽くなった。私だって幸せになりたい……。
「こんな私でも……幸せになれるって証明したい」
「なりなさい! ずぶとく生きなさい」
そう言ってくれて、ずぶとく生きていける様な気がした。私がそるとちゃんに出来る事ってなんだろう……。
「いつもお話、聞いてくれてありがとう。私はそるとちゃんに何かお返しをしたいよ……」
「そんなのはいいわ。……ただ、成長した姿を見たい」
ニッコリ笑ってそるとちゃんが言ってくれた。そして最後に、大切な事を教えてくれた。
「いい? 人を愛する事は……自分がどんなに辛くても相手の為になる行動をする事よ」
今日もいつもの様に先生と冥府の番人を倒していた。もう長い間沢山敵を倒していたので流れ作業のようになっていたと思う。
ある一匹の敵を倒した後、敵が何かを落とした。待ち望んでいた聖者の指輪だった。
「やったー!! 聖者の指輪だ!!」
先生は満面の笑みで喜んだ。その笑顔がなんだかまぶしくて……よけいに心が辛くなった。
「うんうん!! よかった!! よかった!!」
言葉とは裏腹に心は悲しかった。お別れしなければいけないと思ったからだ。
「……どうしたの? なんか悲しい事でもあった?」
多分、顔に出ていたんだと思う。こういう時になんて言っていいのかわからないから、地雷は思っていた事をそのまま伝える事にした。
「先生!! とっても楽しかったです!! ありがとう!! 沢山、思い出が出来ました!! これからも身体に気をつけて、どうぞ幸せでいて下さい!! それじゃあ」
そう言って地雷は家に帰った。『じゃあまた明日』は言わなかった。
私……知らなかったよ。相手を愛したり、大事にするから離れる事があるなんて。辛いけど、それが相手の為なら仕方ないよね。
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