チート能力敗れたり
何だ!?身体が動かないぞ??まさかこれって……金縛りってやつ??
ぼんやりとした意識の中……誰かが俺の事を見つめている。あれは……地雷さん??
「私……私……チートさんの幸せを願ってる。ずっとずっとずっと……願っているから……」
地雷さんは涙を流しながら俺に訴えている。地雷さんの想いが……俺の夢にまで届いたって事なのか??俺の枕元に立つくらい……。
「だから私……私……何も見なかった事にするからぁああぁ〜〜!!」
地雷さんはそう言うと俺の前から消えてしまった。あんなに涙を流して……大丈夫かな??
「ゾーン!! ゾーン……キタァアア!!」
心配していたら、元気そうな叫び声が聞こえた。うん……まぁ、きっと大丈夫だ。なんだかんだで地雷さん強いからな……。
◇
「変な夢だったな……」
見慣れた天井を見ながらつぶやいた。この天井はマゼンタ学院だ。
「変な夢?? どんな夢だったんだ??」
なぜかすぐ隣から声が聞こえた。不思議に思って声のする方を向くと、至近距離に見知った顔が見えた。
「うわぁああアアァアアあぁああぁ!!!!」
自然と叫び声が出て、自然と身体が動いた。俺は見知った顔を……反射で殴った。
――バキッ
俺の拳がマタメンテエルフの顔にめり込み、凄い勢いでベッドから吹っ飛ぶ。
「いってーな!! 何するんだよ!!……あれっ??」
ぶん殴られた方の顔を手で押さえながら、キョトンとした瞳でこちらを見ている。
「なぁ……チート。お前……小さくなった??」
「いや、違うぞ。お前がでかくなったんだ」
いつの間にか……マタメンテエルフは普通の人間サイズになっていた。背も俺より高い。耳は普通の人と同じになり、背中の羽根も消えていた。どこからどう見ても立派な成人男性だ。
「関係ないけど、お前……どうしてパンツ一丁なんだ? しかもなぜ俺のベッドにいる??」
「知らねーよ!! 俺が聞きてーよ!! 昨日は疲れて服を脱ぎすてたまま寝ちまったんだよ!!」
マタメンテエルフが人間になる事が決まったから、神様が調整したのかな??しっかしこいつ……えらい整った顔してんなぁ……なんだかムカついてきたぜ。
「なぁ、チート。お前……怪我してんのか??」
「えっ!? 怪我なんてしてないぞ??」
「だって布団……なんか血がついてる」
マタメンテエルフに言われて布団を確認すると、確かに点々と血の跡がついている。……なんだ??これ??
「あれっ?? よく見ると床にも血の跡があるな」
「えっ……マジ?? あっ、本当だ」
血の跡は床にも点々としており、ベッドから扉にかけて続いていた。
不思議に思ってお互いに全身を確認してみたけど、俺もマタメンテエルフも怪我した箇所なんてない。
「おっかしいなぁ〜……まぁ、いいや。俺、布団を洗濯するからお前は床を拭いてくれ」
「え〜……めんどくせーなぁ」
こうしてしばらくマタメンテエルフと血の後処理をした。なかなか落ちないなぁ……そう思いながら布団カバーをゴシゴシ洗っていたらマタメンテエルフの声が聞こえた。
「おいっ! 鍵かかってねーじゃねーか!! 不用心だぞ!!」
「えっ……マジで? 昨日疲れてたからかけ忘れてたのかなぁ??」
気をつけないといけないな。この世の中、何が起こるかわからないし……。
布団カバーを干した後にベッドを綺麗に整えていたら、床に何かが落ちている。
「……何だ? これ??」
何かのメッセージカードみたいだ。ひっくり返してみると、地雷さんの愛のポエムカードだった。まだ読んだ事ないやつだなぁ……。
「あれっ? おかしいな……いつもなら扉の下から差し込まれているのに。どうしてベッドの近くに??」
つぶやいてみた後……最悪のシナリオが浮かんできた。まさかあれ……夢じゃなかったのか!?!?
俺は比較的冷静に……心を落ち着かせながらマタメンテエルフに声をかけた。
「なぁ……マタメンテエルフ。落ち着いて聞けよ?? もしかしたら地雷さんが部屋に入ったかもしれない」
「え〜っ、地雷ちゃんが?? まぁ、鍵開いてたし好きな人の寝顔見れるかもとか思っちゃうよなぁ〜」
マタメンテエルフは明るい感じで俺に返事を返した。どうやら何も気付いてないらしい。
「お前……よく考えろよ? お前は今日……俺と一緒のベッドで寝ていたんだぞ? しかも裸で……」
「…………」
「…………」
静まり返る部屋……。まるで時が止まっているみたいな感覚になる。
「うわあぁああああぁああああぁーーー!!! 誤解ダァアアァアア!!!」
叫び声を上げるマタメンテエルフ。叫び声をあげながら……扉にダッシュしていく。
「待てっ!! 早まるな!!」
俺は扉の前に立ち、全力でマタメンテエルフが廊下に出るのを阻止した。
「お前!! ここは女子寮なんだぞ?? パンツ一丁の男がいたらどうなるんだ!! 完全に変質者だぞ!!」
「あっ!! そうだった……。 なぁ……俺の服は??」
「知るか!!」
呆然とするマタメンテエルフを放置して俺は廊下に出た。廊下の床にも血の跡がある。きっとこの血は地雷さんの鼻血だ!!
「よしっ! 地雷さんを探さないと!!」
俺は地雷さんの鼻血の跡を雑巾で拭き取りながら辿っていった。血は、予想通り地雷さんの部屋の前の扉で止まっている。俺は扉をノックしながら地雷さんを呼んだ。
「地雷さん!! 地雷さん!! いる〜〜??」
「…………」
何の反応もない。でも、きっと地雷さんは部屋の中だ。ゾーンの時は部屋から出てこないからな。
だが……俺には魔法の言葉がある。どんな時も!!ゴキブリホイホイにかかるゴキブリの様に……この言葉を唱えれば一発でKOだ!!
「あ〜っ!! あんな所にイケメンがっ!!」
「…………」
どうしたんだ地雷さん!?イケメンだぞ??イケメンがいるんだぞ??聞こえてないのか??
「イケメン!! イケメン!! イケメンがぁああ!! イケメンだよっ!! あんな所に!! イケメ……」
何も知らないであろう女の子が、俺の事を白い目で見ながら通り過ぎていった。危ない、危ない。これじゃ俺の方が変質者だ。
「部屋にはいないのかな?? 他をあたるか……」
こうして俺は色々な所を探し回った。食堂、庭園、図書室、学院裏……などなど。でも、地雷さんは見つからない。
「一体……どこに行ったんだ??」
ヘトヘトになって女子寮の廊下に戻ってきたら、前方からチャカさんがやってきた。
「おはよう、チート殿。なんか疲れている様だがどうしたんだ?」
「あっ! チャカさん!! いい所に!! ねぇ、地雷さん知らない??」
「地雷殿か? 地雷殿ならついさっき会ったぞ」
良かった!!これできっと地雷さんに会える!!早く会って誤解を解かなければ……。
「どこに行ったか知らない??」
「おそらく自室だと思うのだが……」
「…………」
やっぱりそう思うよな。でも、自室にはいなかったんだ。まぁ、すれ違いで戻っている可能性はあるが。
「さっき声をかけたんだけど、何も反応がなくて」
「まぁ……それはそうだろうな」
んっ??どういう事だ??チャカさんは何かを知っているのか??
「どういう事? チャカさん……何か知っているの?」
「知っているも何も……耳栓を貸してくれと言われたから貸しただけだ。なんか集中したいとか言われたな」
「耳栓……」
それを聞いて俺はガックリと膝を落とした。そりゃイケメンの声も聞こえないわ。
「なんで耳栓なんて持ってんだよぉおおお!!」
どんなに凄いチート能力があっても、俺は……耳栓には勝てなかった。
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