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第二十八話 好奇心や貪欲さ

「ヨシエ様はすごいスキルをお持ちなんですね」


 ランチボックスに入ったサンドイッチを食べながら、アヤが尋ねてくる。


「このスキルじゃ戦うこともできないし、たいしたことがないと思っていたんだけど」


 今までスキルを使うことはあまり多くなかったけれど、ここ機械都市フォーレンではそれなりに使い道がありそうだ。


「スキルをお持ちなだけでもすごいです」

「そういえば、私たち家族以外にスキルを持っている人をあまり見かけないけど」

「いないわけではないですがフォーレンでは少ないですね。王都にはもっといるようですが」

「そうなんだ。イラミザでも見なかったし、スキル持ちの人にまだ出会っていないだけなのかな」


 スキルとは持って生まれたものなのか、なんらかのきっかけで獲得するのか、尋ねたいことはまだいくつもあったが、アヤも休憩中なのだしこれ以上疲れさせては申し訳ない。


「ヨシエ様は優秀なライブラリアンになれそうです」

「そうかな。ライブラリアンって大変なんじゃない?」

「持って生まれた才能もですが、情報収集に対する好奇心や貪欲さも必要ですね」

「貪欲さなんて私は持ち合わせていないから」

「そうでしょうか」


 アヤは腑に落ちていないようだが、私はただの活字中毒の中年女性だ。この世界で役に立てることなどなにもないと思う。


 昼食をとり、時間に余裕があったので先にライブラリに戻る。

 ライブラリには誰もいなかった。まだ皆は昼休みなのかも知れない。私は生き字引ウォーキングディクショナリーでこっそり本の背表紙を読む。

 この棚はフォーレンの歴史についての書物が集められているようだった。手にとってみたくなるが、勝手に読むわけにもいかない。背表紙だけを眺めていると『スワンプマンの伝説』と書かれた本があった。それほど古いものではない。厚みも薄く背表紙も簡素な紙で作られていて、庶民向けの本のように思えた。以前アヤがいっていた、フォーレンの昔話が書き記されているのだろう。いつか読んでみたいものだと思う。


 昼休みが終わったのか、ライブラリアンたちが数人ライブラリに入ってきた。

 先日見かけた長身の男性は笑顔で会釈をしてくれたが、私のことを無視する人、奇妙なものを見るような目つきで見ていく人など様々だ。

 確認できただけでも、リースの他に五人のライブラリアンがいるようだ。


「じゃあ、始めようか」


 いつの間にか、背後にはブリキの箱を抱えたリースが立っていた。


「そのおもちゃを調べるのならば、こちら側の要求を叶えてからにしてください。まだ私たちの持ち物も帰ってきていませんし」


 勇気を出していってみると、リースは嬉しそうに笑いながらテーブルに箱を置く。


「交渉ができるようになってきたじゃないか。まあ、あれらはもうケンイチに返してあるんだけどね」

「あれ、そうなんですか」

「この箱を全部調べたら、車も引き上げてあげよう」

「リースくんはもしかしてもう、車の引き上げを手配済みなんじゃないですか」

「ばれたかあ」


 別に隠すつもりもなさそうに、リースは箱をテーブルの上に置く。私がそれをいわれたとおりに処理するのを疑ってはいないようだった。


 結局一日中、ガラクタを調べたり本を読んだりして夜になってしまった。

 解放された頃には、ケンイチたちは夕食を取り終え入浴も済ませていた。


「あっ、ママ帰ってきた!」

「ママ、スマホ戻ってきたよー。でも充電がもうないけど」

「よかったね、ユウカ。エネジェムのモバイルバッテリーも明日には戻ってくると思うよ」

「車を引き上げてもらえるのか」


 ケンイチはリョウの髪を布で拭きながら、私に尋ねる。


「あの感じだと、もう湿地に探しにいってるんじゃないかな」

「大丈夫なのか。勝手に引き上げられて、分解されたりしないだろうか」

「さすがに大丈夫だと思うけど、明日は私たちも沼地に行ってみる?」

「リースたち、車の沈んでる場所わかんないんじゃないの? そもそも、どうやって沼地に戻るんだろ。あのエスカレーターに乗らないとかなり遠いんでしょ」

「そうか、そうだったな」


 ケンイチが神妙な顔をしているので、


「リースくんにいくつかの貸しがあるから、一緒に湿地に行くことができないか相談してみるね」


 といって、私は冷めた夕食にありついた。


 翌朝、朝食を持ってきたアヤに、沼地まで同行させて貰えないかを尋ねてみる。


「それは構いませんが、ヨシエ様はライブラリに来ていただかないと。リース様がお待ちですから」

「まだやることがあるんですか……」

「それはもう、いくつもの箱を運び出されています」

「ママいいなー、ボクもリースくんと遊びたい」

「では、ケンイチ様とユウカ様は湿地に、ヨシエ様とリョウ様はライブラリにいらっしゃいますか?」

「ボクも行っていいの? やったー!」


 家族が別行動をとることに、ケンイチは不服そうな顔をしていたが仕方がない。

 リースに恩を売っておかなければいけない。彼には頼みたいことがまだいくつかあるのだ。

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