第二十六話 なんて素晴らしいスキルなんでしょう
ようやく機械都市フォーレンの冒険者ギルドに登録することができた。
ここまでくるのがとても長かったように思える。そもそもなんのためにここに来たのかすら忘れてしまいそうだ。
私たちはイラミザから王都に行く道すがら、機械都市フォーレンについて調査をするようにと、ラインハルトに依頼されていたのだ。
「ねえ、ママが来ないと掲示板全然読めないんだけど」
「そうだった。ちょっと待ってねユウカ」
「ボク、こっちの文字をちょっとだけ読めるようになったよ。……の……ば……つ……」
この世界に転移してきて二ヶ月ほど経っているので、リョウは多少文字が読めるようになっていた。
七歳だからまだ頭が柔軟なのか、私たちよりももの覚えが早い。そのうちに日本語よりもこちらの世界の言語のほうが得意になってしまうかも知れない。
「生き字引」
私は掲示板に手をかざす。依頼カードの上に半透明のパネルが表示され、日本語で表示されている依頼内容を読む。
談笑していたギルドの人々が振り返り、私のことを見てざわつく。
「それは魔法ですか? ここでは魔法がブロックされているはずですが」
アヤが近寄ってきて、小声で私に尋ねる。
「いえ、これはスキルで……、フォーレンでは使っちゃだめでしたか」
「そういうわけではありませんが」
「ボクもスキル使えるよ!」
「リョウ」
背伸びをし自慢げに語ろうとするリョウを、ケンイチが制止する。
フォーレンでは魔法を使えないということは聞いていたが、こんな地味なスキルに奇異な視線を向けられるとは思っていなかった。
もしかすると、私たち家族のようにスキルを使える人間は多くないのだろうか。そういえばイラミザでもフォーレンでも、他の冒険者がスキルを使うのを見たことがない。
「これは日本語ですね。言語を翻訳できるのですか」
アヤは私の手元に表示されたパネルを覗き込んでいる。
リョウの教科書をリースの背後から覗き見していただけで、もう日本語のパターンを覚えてしまったのだろうか。
アヤは謙遜していたけれど、おそらく彼女にもライブラリアンとしての素質があるのだろうと思う。
「翻訳というか、まあ辞書みたいなもので、情報を見られるというか」
「なんということ……!」
アヤの目が輝いている。そわそわして居ても経ってもいられないようだった。
「あまり使わないようにしますね」
「とんでもない。なんて素晴らしいスキルなんでしょう。リース様に報告しなくては」
アヤは私たちを冒険者ギルドに置いたまま、走って帰っていってしまった。
「ケンイチ、帰り道覚えてる?」
「大丈夫だ。しかし、スキルはひと目につくところであまり使わないほうがいいかもな。フォーレンの人間は閉鎖的だが知的好奇心が強い」
「ボク、おなかすいたよー」
「アタシも」
「そうね、どこかでお昼ごはんを食べようか」
私たちは冒険者ギルドの受付に昼食をとれる店がないか尋ねる。
すぐ近くに昼から営業している酒場があるようだった。ヒロトはちゃんと食事をとっているだろうか。また家族の食事を心配している自分に気づいて、できるだけ考えないようにする。
「オムレツがある。ボクオムレツ食べたい!」
「リョウ、メニューも読めるのね。すごい」
「なんとかのオムレツって書いてある。なんのオムレツかなあ」
ユウカも少しはメニューが読めるようだった。
私はスキルを使わないようにしているので、酒場のメニューが読めない。他の客が食べていた肉料理を指し示し、同じものをと注文する。
「このお店のご飯もおいしいね」
「結局、冒険者ギルドでなんの仕事も貰ってこなかったやん」
「しばらくはライブラリアンとの面会もあるんだろうし、あまり長くかかりそうな仕事はできないもの」
「もうー、はやいとこスマホと車を取り戻そうよ」
「いや、今の状況はありがたいかも知れないな」
ケンイチは卵料理を飲み下してから口を開く。
「ありがたくないよ。アタシのスマホ」
「本来、中枢に接触しフォーレン側に敵意があるのかを探ることが目的だったんだ。しばらくは情報を小出しにして、ライブラリに留まるのが得策だろう」
「小出しにするほどの情報なんて持ってるの?」
「ユウカにとっては当たり前のことでも、ラブラリアンにとっては知りたいことだったりする可能性もある」
「ユウカだって知らない国の人の話なら、聞いてみたいことはたくさんあるでしょ。学校はどんななのか、なにを食べているのかとか」
「ボク、リースくんに小学校のことを教えられるよ」
リョウはリースに親近感を抱いているようだった。明日また面会するのを楽しみにしているのだろう。
「確かにリョウあたりの情報から出していくといいかもな。幸いリョウはフォーレンの人たちに受けが良い。ただし、なんでも教えちゃだめだ。いまのところは教科書に書かれていることだけにとどめておいたほうがいい」
「えー、リースくんにマイクラのこととか、ユーチューブのこととか教えてあげたかったのにな」
「リースくん、そんなの説明してわかるかな」
ライブラリアンほどの知的好奇心があれば、それらの話にも興味を持つかも知れないと私は思う。
だが、インターネットとはなにか、あたりから説明しなければいけないだろうから、リョウには少々荷が重そうだ。




