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第十二話 処刑されるようなことをしたんですか?

 この世界に来て初めて、車に似た乗り物を見た。

 細部の造りは車と違うようだが、コンテナのようなものに二輪の大きなタイヤがついている。おとぎ話で見るかぼちゃの馬車を、もっと無骨にしたような作りだ。


「全員乗れ。武器はこちらで預かる」

「ボク、武器なんて持ってないよう」


 制服を着た男たちに手荷物を検査され、子供たちの筆箱と、ケンイチのエネジェム、私の包丁を没収されてしまう。なぜか、エコバッグの中に入っていたアルミの三十センチ定規は没収されなかった。


「これはなんだ」

「スマホです」

「これも預かっておく」

「えー、やだ! スマホ返してよ」

「ユウカ、とりあえずいうことをきいておけ」


 ケンイチに咎められ、ユウカはしぶしぶとスマートフォンを差し出す。

 二輪車の中は思ったよりも広かった。なにもない荷台の隅に、少女の形をした人形も転がっている。


 ヒロトは荷台の中で体操座りをして大人しくしていたが、人形が気になるようでなんども後ろを振り返っている。


「ねえヒロト。あの子、壊れちゃったの?」

「分かんないなあ。さっきまで目が開いて喋ってたけど、今は目を閉じてるし」

「あの人たち、あれのことを機械人形っていってた? そもそもあいつらなんなの? ケーサツ? 軍隊?」


 ユウカはスマートフォンを没収されたことによほど腹を立てているらしく、ずっと頬を膨らませたままだ。


「分かんない。なんでみんな俺に聞くんだよ」


 どうやらこの二輪車は自動で動いているらしく、私たちと機械人形の他にはだれも乗っていなかった。

 私たちはどこに連れて行かれるのだろう。換気のためなのかごく小さい窓がいくつかついているが、外の景色はほとんど見えない。


「私たちが、石の化け物を壊したから捕まったのかな」

「あっちが味方で、この機械人形が敵なのだとしたらフォーレンにしてみれば俺たちも犯罪者だろうな」


 ケンイチはこの状況においても冷静だった。なにか考えがあるのかも知れないし、強がっているだけかも知れない。


「その可能性もあったかあ。いや、ちょっとは考えたんだけどさあ」

「石の化け物と女の子が戦っていたら、普通は女の子を助けちゃうよね」

「ボク、なにもしてないのに」

「リョウは光線銃撃ちまくってたやん。あれ、そのへんの建物に流れ弾がけっこう当たってるぞ」


 リョウはしょんぼりとしたまま、機械人形に目を向ける。ミルクティーのような色の長い髪が床に広がっている。


「あの子、足がないのかわいそうだね」

「膝から下がアタッチメントになってるのかな。球体関節……、かっこよ」


 ヒロトが横目で機械人形の脚を眺めたので、ユウカは手を伸ばし、機械人形のスカートを整えて膝を隠した。


 二輪車が停まり、背面の扉が開く。眩しさに目を細めていると、軍隊のような制服を着た男たちがやってきて、車から降りるようにと私たちに指示をする。


「わあ、すげー!」


 車から降りたヒロトが周囲を見渡す。

 さっきまでいた下町とは違う、機械都市フォーレンの中心街にほど近い場所ようだった。


「あっ、モノレールだ」

「随分と文明が発達しているようだな」


 ケンイチは神妙な顔つきで景色を眺めている。機械都市の中心街に近づくことができて、目論見通りなのだろうか。


「全員一列に並べ」

「ねえねえおじさん。俺たちどうなっちゃうの? 取り調べとかされる?」

「当然だ。魔法を使って逃げようなどと思うなよ。このエリアは魔法封じの結界が張られているからな」

「そうなんだあ」


 家族のだれも魔法など使うことはできないが、あえてそのことについて言及はしない。

 目の前の大きな建物に入りかけたそのとき、上空からなにかが降ってきて地面で弾ける。


「煙幕だ!」


 眼の前が白くなる。とっさにリョウと手を繋ぐが、ケンイチを見失ってしまう。熱風に吹き飛ばされそうになる。


「乗ってください」


 だれかに手を引かれる。

 いわれるままになにかに乗り込む。ヒロトとユウカもすでにそこにいるようだった。籠のようなものが空中に浮かぶ。


「気球だ! ママこれ気球だよ」

「しーっ、衛兵に見つかってしまいますよ」


 低い声の男性にそういわれて、リョウは自分の手で口を塞ぐ。

 地面を取り巻く煙幕を抜けて上昇する。

 私たちが乗っているのは、小型の気球のようだった。いつのまに回収したのか、少女の形をした機械人形も私たちの足元に横たわっている。


「あっ、パパがいない」


 気球に乗っているのは機械人形と長身の若い男性、それからユウカとヒロトとリョウと私だ。


「まだメンバーがいましたか。仕方がないですね。今戻ると全員捕まってしまう。一旦退却し体勢を整えてからまた助けにきましょう」

「うえーん、パパー」

「まあ、パパなら大丈夫だろ」

「別に、すぐ処刑されるとかじゃないんでしょ?」

「処刑されるようなことをしたんですか? あなたがたは」

「なにもしてないよ。その子を助けただけだって」

「ですよね。じゃあ大丈夫です。たぶん」


 たぶん、という言葉に若干の不安を覚えるが、今はこの人を信じるしかない。

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