第十一話 ボールの中の人やられちゃうかも
「なにあれ!」
町の中央側から転がってきたのは、高さ二メートルほどの球体だった。
鉄の帯のようなもので構成され、回転している。中に人が乗っているようだった。もう一体の化け物が、鉄の球体に手を伸ばす。球体は機敏に避けながら、化け物をすり抜けていく。起き上がってきたもう一体に接近し、攻撃をしたのか足元が小さく爆発する。
「すげえ、かっこいい!」
「あれは……」
見間違いでなければ、球体の乗り物の中には少女が乗っているように見えた。
縦横無尽に転がる珠の中で淡い栗色の髪が揺れている。人間があのような揺れ方をする乗り物に乗って大丈夫なのだろうか。頭が逆さになったりもしている。
「これってどっちが敵? どっちが味方?」
「えーっと、わかんないな」
「ボク、見えないよー」
リョウが立ち上がろうとするので、手を引き抱きかかえる。
小規模とはいえ何度も爆発が起こっているし、あんなスピードで走る乗り物に跳ねられたら大怪我をしてしまうだろう。
どおん、ととても近くで爆発音がする。
球体に弾き飛ばされた石の化け物が、私たちが隠れている屋台にぶつかる。木造の荷台が破壊され、球体がこちらに向かってくる音がする。
「凝望壁!」
ユウカがいち早く私たちの前に出て、壁に変身する。
ばしんと壁の向こうでボールが跳ね返る音がした。
「ユウカ! 今どうなってんの?」
ヒロトが凝望壁を叩いたので、その部分に小さな窓が開く。
「おっ、さんきゅーユウカ。ボールの中の人が動かなくなってる。ゴーレムっぽいやつがボールを捕まえようと……、あっ、こっちに来る!」
「実況している場合か!」
「だってパパ、ボールの中の人やられちゃうかも」
「くそっ、しょうがない。ヒロト遊戯創生を出せ」
「出すなっていったり出せっていったり」
ヒロトが文句を言いながら、スキルのコントローラーを三つ出現させる。
白いコントローラーはヒロトの、青いコントローラはリョウの、紫色のコントローラーはケンイチのものだ。
「ボクも戦う! 蒼翔 行けー!」
「あっ、ばかリョウ勝手に」
光線銃を打ちながら走って行ってしまった蒼翔 を、ヒロトが操る珀刻が追いかける。ケンイチもコントローラを操作に紫影 を出現させる。
「見えないよー。ユウカ、ボクにも窓を開けてよ」
「見えないのに撃つなよ! なにやってんだよ。ああもうめんどくさい!」
ヒロトはコントローラーを手に持ち、凝望壁の向こうに走って行ってしまう。ケンイチもあとに続く。
リョウも出ていこうとしたので、捕まえて壁の小窓から蒼翔 を操作するように言い聞かせる。
なにかがぶつかり壊れる音が何度か聞こえる。
「リョウ、今向こう側はどうなってるの?」
「珀刻がボールの中の人を守ってるよ。紫影 は槍を投げてる。また投げてる。いっぱい投げてる。あの槍、無限に出てくるのかなあ」
リョウの解説だと、なにがどうなっているのか分からない。
コントローラーをガチャガチャと操作しているので、蒼翔 も光線銃を撃っているのだろう。
「ボク行ってくる!」
「あっ、リョウだめ!」
肩を掴んでいた私の手を振り払い、リョウは凝望壁の向こう側に出ていってしまう。私も追いかけて出ていくと、ちょうど珀刻の双剣が石の化け物を砕き倒したところだった。
「やったー!」
「ヒロト、ケンイチ、大丈夫?」
「俺たちは大丈夫だけど、あのボールの中の人大丈夫かな」
恐る恐る、ヒロトは壊れかけた球体に近づく。
ヒロトがそれに触れると、帯状になった金属板が弾けるように解け、中から淡いベージュの髪をした少女がこぼれ落ちてくる。
「ヒロト、これ人間じゃないよ!」
「まじか。この子……」
ボールの中から転がり出てきたのは、人間とほとんど同じサイズの人形だった。一見、ごく普通の少女と見紛うばかりに作られているが、膝から下がない。膝関節から直接、金属板に繋がっている。
「これ、ロボットなの? 壊れちゃったの?」
「どうだろう」
ユウカも凝望壁から元の姿に戻り、様子を伺いにくる。
ヒロトが人形の髪にそっと触れると、それは唐突に目を見開き、ヒロトを睨みつける。
「うわっ、生きてる。いや、動いてる?」
「救難信号。ボーラーを、破壊されました。アル、回収を、お願いします」
少女の形をしたそれは、空に向けて喋り始める。それとほぼ同時に、私たちは大勢に周囲を囲まれる。
「武器を捨てて大人しくしろ。貴様ら所属ギルドはどこだ」
「うわっ、なになにこれ。軍隊?」
制服を着た男たちが、人形を含む私たちに銃剣を向けている。
「所属ギルドはイラミザの……、いや違うな。無所属だ」
ケンイチは両手を低い位置で上げて、冷静な声で答える。
「捉えろ。その機械人形もだ」
「えー、俺たちなにもしてないのに!」
「なにもしてないことはないんじゃない」
ユウカは両手を上げたまま、砕け散った石の化け物を一瞥した。




