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カサブランカ・ダディ -4-




婿入り先か。なるほど。言い得て妙である。


忘れていたが、カサブランカはオリエンタル系ハイブリッドのユリである。レベルは高級。匂いは強め。わたしはこの匂い苦手だが、好きな人はけっこういる。好みの違いは、時に争いを生むので常に一歩引くことにしている。


そんな高級品カサブランカ。

今朝咲いたばかりだから焦ることもないが、まあ、出来るだけ可愛がってくれる婿入り先を見つけてやろう。


なんか見合いをまとめたがるおばちゃんの気分だ。


わたしは一番目立つ場所、中央カウンターにカサブランカを置いた。


《あ、この場所ええなあ、ほどほど日差しの明るさがあって外もよう見える。一等地やなあ》


カサブランカも気に入ったようだ。


よしんば売れ残ったとしても政略結婚という道が残っているから安心だ。


顔も知らない誰かの葬式花として婿入りする。相手が女とは限らないし、性格がいいとも限らない。そこは運命に任せよう。


さあ、支店に出入り禁止客の情報を流さなくては。

それから鉢物の水やりに観葉植物の葉っぱを拭いて、3000円アレンジを作って、花キューピットを片付けて冷蔵ケースの掃除に・・・・。忙しい。


《社長呼んだらええんちゃうか?1人でぎょうさん仕事抱えとると倒れるで》


来店客で忙しいなら社長を呼ぶが、それ以外はノーサンキューだ。



《仕事のしすぎはなあ、ガンになるで》



「おまえ、ガンで死んだのか?」



《何言うてんの?僕、死んどらへんで》


え?


《だって僕、今朝生まれたばかりやもん》



「でもわたしが3日間いなかったの知ってたじゃないか?」



《声が聞こえとったもん。》


「ガンは人間の記憶だろう?」


《・・・・・んー・・・、》


カサブランカが悩んでいる。


《そやなぁ・・・でも・・・・》


カサブランカが真剣に悩んでいる。


《そうゆうたら・・・そやなぁ・・・・でもよう覚えとらんねん・・・。気がついたらつぼみになってたゆーか・・・》



気がついたらつぼみに・・・?


母親がいたらこのパターンを相談できたかもしれないが、残念ながら既に故人だ。



リンリンリン♪


お、いいところなのに客がきた。仕事仕事。


「いらっしゃいませ」


「花キューピットお願いします」


「はい、ありがとうございます」



この日は平日なのにやけに忙しくなり、社長を呼ぶしかなく、わたしはカサブランカと話すチャンスをつかめなかった。


ついでにカサブランカの婿入り先も見つからなかった。

売りつけたかったこの店の良客が、なぜか今日に限って1人も姿を見せなかったのだ。


午後8時。


「お疲れ様でした」


やっと終わった。

休み明けだからまだ体力もったけど、これが続けばまじめに死ぬわ。


わたしはカサブランカをちらりと見た。


《お疲れさんやでぇ。また明日会おなぁ》


明日は良客のお茶先生とか組長先生とかパリコレ先生とか来るといいな。なんせ婿入り先として最高。



その夜、わたしはカサブランカがマイクを持って延々と歌い続ける夢を見た。




寝た気がぜんぜんしない、翌日、土曜日。


《顔色悪いで。一回病院行った方がええんちゃう?》



店内の床の拭き掃除をしていたわたしを見てカサブランカが言った。



顔色が悪いのはお前のせいだ。夢の中にまで現れやがって。おかげで寝不足だよ。



《なあ、なあ、入り口のほうにおいてくれへん?》



変な客に絡まれても知らないぞ。



《今日中に僕を買うてくれる人、みつけなあかんやろ?》



ナンパか。



《やっぱり女の人がええなあ、昨日の人以外の》



わたしはカサブランカの銀の花おけを持ち上げ入り口ではなく中央カウンターに移した。



「ここの方が目立つ。今日お茶先生かパリコレ先生がきたら売り付けてみるけど、組長先生がきても売り付けてみるから安心しろ」



《やめてええええええええっっ。組長センセてやめてええええええええっっっ!》


「組長先生は優しいぞ。礼儀正しいし。若頭も丁寧な人だし」


《優しくてもいややあああ。おうちに行ったらゴツい男衆ばかりやきっとおおおぉ》


ああ、それはあるかも。



リンリンリン♪


来客のドアベルが鳴り、反射的にわたしは笑顔とワントーンあげた声で「いらっしゃいませ」と言う。


今日の客一号はどなた様?


あれ?誰もいない。


ドアベルは鳴ったのに姿が見えない。

わたしは辺りを見回した。まさかこいつ(カサブランカ)につられて妙なのが集まってきたんじゃ・・・。





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