9.ウサギちゃんの悩み
ランチを研究室内の休憩室でとるようになってから、ベルシュタイン室長の膝枕昼寝は毎日続いた。
一度室長に
「なんだか恥ずかしいのでやめませんか?」
と提案したのだか
「俺は別に恥ずかしくない」
と一方的に会話が打ち切られた。
いまだって目を閉じてスヤスヤと寝る室長を前に私は困惑していた。
室長は相変わらずサラサラの髪で長い睫毛が寝ているとさらに長く見えた。インドア生活でそこら辺の女子より肌は白く、小さく美しい輪郭は女性的な感じもするのに、喉仏がしっかりと出ていて男性らしい感じもした。
ベルシュタイン室長は、あまり偉ぶらない人だ。勤務時間内はなんだかんだで真面目で黙々と研究をしていたり、ガリガリと書類を書いている。
記載してる書類をチラリと見ると、私にはわからない事細かな実験内容や計算式がびっしりと書き込まれ、クラクラした。
正直、私はこの研究室に必要とされるレベルでないことはだいぶ前から理解していた。
今は、皆の足を引っ張らないように郵便物の取り纏めをしたり必要なものを倉庫に取りに行ったり、室長や先輩方のスケジュール管理や会議の調整など、自分に出来ることは率先して行うようにしていた。
寝ているベルシュタイン室長の髪をそっと撫でながら、せっかく雇ってもらったんだから、もっと私に何か出来ることはないのかなと思った。
「もっと室長の役に立てたらいいのに」
一人で呟いて、一人でため息をついた。
その瞬間、寝ていたはずの室長の目がパチッと開かれ金色の瞳と視線が合う。
「し····室長······起きてたんですか」
「起きた。ウサギちゃんに出来ること、いっぱいあるよ?やる?」
ふふっと室長は笑った。