6.会議への同行
「ウサギちゃん、明日外の会議だからついてきて」
朝からベルシュタイン室長に連れられて行ったのは、王都内にある別の魔草研究所だった。私やベルシュタイン室長のいる研究所よりも歴史が古く建物も古い。
長い廊下を歩いて行くと、大きな講堂に出た。室内は広くたくさんの研究者らしき人達がいる。皆、一様にスーツを着こんでいる。いつもは白衣に開襟シャツで、ボタンを外して着ているベルシュタイン室長も今日はスーツだ。
こうしてきちんとした格好をしている室長は、とても素敵だと思った。いつもはサラサラに下りている前髪はオールバックに上げられ、左耳のピアスだけがシャラシャラと普段と同じように揺れていた。
私も滅多に着ないのスーツを着込んでいるが、頭の良さそうな研究者の集団の中酷く浮いている気がした。
居心地が悪くて、ベルシュタイン室長の後ろに隠れて、スーツの端っこを少しだけ掴んだ。
「どうした?ウサギちゃん」
俯いている私に、振り返って心配そうに見てきた室長にハッと気がつき、
「すみません。大丈夫です」
と笑顔で返し、パッと手を離した。
「気後れしたか?大丈夫。みんなたいしたことない奴らだよ」
金の瞳を細めててふわりと笑い、室長は私の頭をポンポンと撫でた。
「室長にとってはそうなんでしょうけど、わ···私こういう場所あまり来たこと無くて」
口角を上げながら話したが、不安から指をモジモジと動かし続けた。
「いいよ、掴んでて」
室長は前を向き直し、私から視線を外した。
一応承諾はもらったし、やっぱり心許ないから掴ませてもらおう。
おずおずと手を伸ばし、室長のスーツの端っこをまた掴んだ。席に案内されたが、私は室長にぴったりとくっついて座った。
私はおそらく秘書代わりに連れていかれたであろう。にも関わらず、結局会議中私はベルシュタイン室長のスーツを握る以外何も出来ず、役立たずのまま帰ることになった。