5.ウサギちゃんの得手不得手
採用から3ヶ月が経過し、季節は秋が深まり紅葉がだいぶ色づいていた。
「秋といえば栗と芋だな。栗と芋のパンある?」
ベルシュタイン室長は今日も朝からパンを漁る。
「今日は父の新作、『モンブランパン』と『紫芋のデニッシュ』があります。あといつもの食パンとソーセージパン、クリームチーズパンとピザパンです。先輩方もいかがですか?」
「いえーい!待ってました」
「有り難う、サラちゃん」
ベルシュタイン研究室では毎朝パンをのんびり食べてからの仕事が当たり前になっていた。私が初めて勤務していた頃は、室長はともかく先輩方は無料で配るパンに遠慮していたが、一度試食させてからは、我が家のパンの虜になったようで、皆で仲良く朝から焼きたてパンを頬張るのが日課になった。
皆にコーヒーを入れて手渡す。室長は一口飲むなり
「ん。美味しい」
と口角を上げた。
「確かに、サラの入れる紅茶もコーヒーもなんか美味いのな」
ヨハン先輩が褒めてくれた。
「そうですね。普通のコーヒー豆引いただけなのに、なんでですかね」
フィリップ先輩が首を傾げた。
「さあ」
私にもわからない。でも皆さん、お世辞でも私の入れた飲み物が美味しいと言ってくれるのは単純に嬉しかった。
「そのへんの中途半端な研究者雇うより、ウサギちゃん一人いたほうがよっぽど仕事進むだろ?」
室長はにんまり笑う。
褒められてるのかな、と思いつつ私の仕事は相変わらずベルシュタイン室長のお世話と後片付け。あまり役にたっているとも思えなかった。
皆がパンに夢中なので、そのへんの器具を後片付けする。魔方陣を展開して、空気と水を浄化。器具の洗浄も行った。
「お前って、調薬はイマイチだけど、浄化はすごいのな。なんというか、空気が変わる」
ヨハン先輩がモグモグと口を動かしながら私の浄化を見ていた。
「あ、確かに。それって普通の魔法陣ですよね?」
フィリップ先輩はコーヒー片手に見ていた。
「はい。学校で教わったとおりです」
私は器具を片付けながら話をした。
「ウサギちゃーん。コーヒーおかわりちょうだい」
マグカップを高々とあげてベルシュタイン室長が私を呼んだ。私が小走りで室長の元に行き、マグカップにコーヒーを注いでいると、室長が先輩方の方をジロリと見ながら
「お前らあんまりウサギちゃん見るなよ。減る」
と言って口を尖らせた。
先輩方二人はニヤニヤ笑いながら
「はいはい。ジークハルト専用のウサギちゃんだもんな」
と言ってそれぞれの仕事に戻った。