1.プロローグ
『魔草』とはこの国でのみ採れる、魔力を含んだ薬草のことである。
かつてこの地はクリシェツカ村を中心に豊富な魔力を溜め込んだ神の土地と呼ばれ、王と神は同一視されていたが、現在は土地の成分の問題とされ、神の土地ではなくただの薬草栽培の盛んな地として有名になった。
無論魔草に関する仕事も多く、魔草から精製した薬は我が国の特産品として外国へ輸出していた。
そんな国の片田舎のクリシェツカ村から夢を追い求めて王都に来たのがうちの両親で、魔草に携わる仕事をしようとしたが何故かたまたま作っていた自家製パンが異常な評判を呼び、現在も夫婦二人三脚で王都に店を構えパンづくりに励んでいた。
そんな夫婦から生まれた娘の私は、やはり魔草に関する仕事をしたいと夢を持ち、高等教育修了した夏、秋からの就職先に最新の魔草研究で有名な第5魔草研究所の下っ端研究員としてなんとか雇ってもらえないかと勉強し試験に臨んだ。
試験は魔草を使って、指定の薬を作り最後は魔方陣を使って周辺の空気と水の浄化を行うところまで行う。
研究所の所属研究員が受験者の作っている薬を覗き込み、採点を行い、その場で各研究室の室長達が直接採用の声をかけていくシステムである。
私は緊張のあまり、本来は粉末状からペースト状まで水を使って練り上げなくてはいけないところをカッチカチの錠剤に仕上げてしまった。
ああ、終わった······と思ったのは採点者のおじさん達がニヤニヤ笑いながら私の薬を見た時だった。
やってしまったことは取り返しがつかない。ならば最後の片付けくらいはキレイにやろうと魔方陣を展開した時だった。
すたすたと歩いて来て、じっと私の展開する魔法陣を見たかと思うと眉間に皺を寄せて空気と水の浄化を見ている一人の研究員がいた。