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冒険者ギルド

 特に問題も無く、町へ入る事ができたコータ。

 仮の身分証の説明や注意事項を聞き、よくわからない丸い水晶を触らされたが、恙なく手続きは完了した。

 ガイアから聞いていた通り、銀貨2枚を支払った。身分証を作れば1枚は返ってくる。

 意外にも、身分証を持たずに訪れる人は少なくなかった。


 門を過ぎると、想像よりも賑わっていた。

 物珍しそうにあちこちを見回すコータは、周囲の人からすれば完全におのぼりさんだった。

 だが、実際にコータが思っている事は違っている。

 町の中は確かに賑わっており、活気があると言える。その点には吃驚したが、建ち並ぶ家屋や店舗は2階建てのものが見当たらず、木造ばかりで少々残念だ。門や外壁は石造りなのに、その技術を家屋に転用する気は無いらしい。

 とは言え、木造が悪い訳では無い。コータは、マンションとかよりも日本家屋の一戸建ての方が雰囲気が好きなので、寧ろ木造の方が良いまである。

 では、何を気にしていたのかと言うと、ここでリリーエルから聞いていた文明レベルの話が係わってくる。他の大陸より低いらしい文明レベルは、特に機械関係が低いと聞いていた。しかし、そもそもの話コータは他の大陸を知らない。そうなると、比較するのはどうしても自分が住んでいた日本になる。

 だからコータは今、建ち並ぶ建造物を目にして『先は長そうだ……』とやや遠い目になっているのであった。



 門からまっすぐ進む事約5分程度。

 目印である噴水が見えてきた。

 すぐ傍では、ガイア達3人が立ったまま話をしている。近くにはベンチもある。なのに立ったままなのは、待ち合わせだからだろうか。だとしたら少々申し訳ないなとコータは思う。

 と、近付くコータにミーシャが気付いた。軽く手を振り、そこで残りの2人もコータに気が付く。


「ようコータ。問題無かったようだな」

「お陰様でね」

「早速行くか?」

「そうだね、お願い」


 ガイアについて行くと、そう時間を掛けず冒険者ギルドに到着した。

 外観は大きく立派だが、それでも2階建てではなかった。

 中へ入ると、コータが想像していたよりも人は少なかった。


「人…少ないね」

「そりゃあな。これから依頼を受けるやつぁ少ねぇし、今居るのは依頼完了の報告をしてるやつか、ギルド併設の酒場へ行くやつくらいなんだよ」

「成程……」

「んじゃ、俺らは完了報告に行ってくるわ。登録の受付は、あっちの端だ」

「わかった、ありがとう」

「良いって事よ」


 ガイア達と別れ、コータは言われた受付へと向かう。

 受付に立つのは、綺麗な顔立ちをした女性であった。

 その受付嬢は、近付くコータに気が付き微笑んで目礼する。


「いらっしゃいませ、ようこそ冒険者ギルドへ。ギルドへの登録ですか?」

「えっと…はい、登録をお願いします」

「かしこまりました。では、こちらに記入をお願いします」


 そう言って受付嬢は登録用紙とインクとペンをコータに渡す。

 受け取ったコータは、『そう言えば文字ってどうなってんだろ?』と今更疑問に思う。しかし、用紙を見た瞬間に心配が無用だったと理解する。


(日本語だ……。ああ、そう言えば異世界(ここ)に来てからも普通に日本語で喋ってたなぁ……)


 なんて事を思いながら、用紙に記入していく。


(名前…コータ。性別…男。年齢…21。特技…特技? えーっと、スキルもあるし剣術で良いかな。後は……戦闘経験? 戦闘って、魔物と? ならまあ、無しかな)

「……はい、書き終わりました」

「拝見致します。……問題ありません」


 受付嬢は、受け取った用紙を板のような物に挟む。すると、一瞬だけ光り1枚のカードが出てくる。

 そのカードを手に取った受付嬢は、表と裏の確認をした後コータへ渡す。


「こちらがギルドカード―――冒険者証―――となります」

「あ、はい。ありがとうございます」

「最後にギルドの説明ですが―――」


 登録は初回無料。紛失等で再発行する場合は、銀貨5枚が必要になる。

 冒険者にはランクがあり、基本はA~Fで、スタートはFから。基本と言ったのは、ランクAの冒険者が功績を上げ、所属国から認められる事でSになる。現在この国には2名だけ存在する。ランクSの冒険者には様々な特権があるが、その分義務も生じる。

 基本のランクが上がる条件は、達成した依頼の数と難度、依頼主からの評価に影響される。ランクCから上は、試験を受ける必要がある。その他、冒険者には伝えられない評価項目も存在する。

 ギルド職員は冒険者同士の争いに口出ししないが、命を奪う行為は禁止している。

 依頼には“常時依頼”と“受注依頼”と“指名依頼”がある。ランクによる受注制限もあり、その旨は依頼用紙に記されている。

 常時依頼は、名の通り常に納品を受け付けており、対象の薬草や魔石を渡すだけで報酬を貰える。

 受注依頼は、依頼ボードに貼り出している依頼用紙を取り、受付で受注処理を行う。採取、採集、調査、討伐、捕獲、護衛依頼に分けられ、期限や内容や報酬は依頼用紙に記載されている。

 指名依頼は、依頼主が特定の個人若しくはパーティーを指名して発注する依頼。断れない事は無いが、断った場合は評価が下がる。

 犯罪行為が露呈した場合、冒険者ギルドから除名される。


「――となっております。また、このギルドの対面にある武具店とは提携しておりますので、ギルドカードを提示する事で1割引きで購入する事ができます。是非ご利用ください」

「わかりました」

「他に質問はございますか?」

「えーっと…ああ、お勧めの宿屋はありますか?」

「それでしたら、ギルドを出て右の(はす)向かいにある犬耳亭がお勧めです。お安く、食事も融通が利きますよ」

「じゃあそこに行ってみます。ありがとうございました」

「いえ。それでは、良い冒険者ライフをお楽しみください」


 美人な受付さんだったなぁなどと思いながら、コータは先ず依頼ボードとやらに向かう。今日は依頼を受ける気は無いが、どんな依頼があるのか確認したいのと、単純に興味があったからだ。

 依頼ボードの前には誰も居なかった。

 と言うよりも、残っている依頼の数も少なかった。

 先程ガイアが言っていた通りなのだろう。


(余っているという事は、不人気依頼ってやつ? えーっと、依頼は……アケビの採取、ドケルの毒袋の採取…ドケルって何ぞ? サンドワームの討伐、ビッキーの討伐…ビッキー……? スライムの粘液採取…これって採取依頼になるんだ……)

「おう! コータ。登録は終わったみたいだな」


 一通り見終わったタイミングで、声を掛けられる。

 コータが声のした方を向くと、ガイア達が居た。


「何だ? もう依頼を受けるのか?」

「いや、どんなのがあるのか気になったから見てたんだ」


 言いつつ、ガイア達と一緒にギルドの外へ向かう。


「そうだったか。んで、宿はどうすんだ?」

「さっき受付さんに聞いてね、犬耳亭にしようかと思ってるけど」

「そうか、残念だ。俺らと同じ宿にでも誘おうかと思ってたんだがな……」


 本当に残念そうにしている。

 何故か罪悪感を感じたコータは、一応聞いてみる事にした。


「因みに、お値段は?」

「ん? ああ、猫耳亭ってとこなんだがな、確か犬耳亭より高いな。1日大銅貨20枚だ」


 コータは犬耳亭の宿泊代を知らない。安いとしか聞いてないからだ。

 だが、ガイアも犬耳亭の方が安いと認識している。そして猫耳亭は、1泊大銅貨20枚。コータの手持ち的には、安いに越した事は無い。


「んー…。やっぱり犬耳亭にするよ」

「そうか、まあ最初は安い方が良いわな」

「うん。それじゃ、俺はこれで」

「おう、またな」

「コータさん、また」

「んじゃあなー」


 3人とギルド前で別れ、コータは受付嬢から聞いた犬耳亭へ足を向けた―――――





 遠ざかっていくコータを見ながら、ガイアは気になっていた疑問をぶつける事にした。


「なあ、ミーシャ。お前、いつもと様子が違うが何かあったのか?」

「え?」

「いやなに、初対面の時もそうだったが、えらくコータを気にして無かったか?」


 そう、最初にコータと会った時、何故か呆けていたし、町へ誘う時も妙に積極的だった。


「ああ、それですか」

「もしや、惚れたか?」

「――違います!」


 食い気味に否定するミーシャ。その頬は僅かに赤みが差している。その様子を見た2人からすれば、単なる照れ隠しにしか思えなかった。

 ニヤニヤしている2人を見て、ミーシャは勘違いされていると気が付いた。


「コホンッ…。私は見習いではありますが、神官です」

「んあ? ああ、そうだな」

「だなー」

「なので、日常的にお祈りをします。そして、より信心深い者は、崇める神からご加護を賜る事があるのです。私は機会があって本部にも訪問した事があるのですが、そこには加護持ちの大司教様がいらっしゃいました。その方の気配は常人と異なり、神官に適正のある者には感じ取れるのだそうです」

「おいおい、まさか……」


 ミーシャの言っている事を段々と理解していったガイアとリュウは、その表情を驚愕へと変えていく。


「コータさんからは、加護持ち特有の気配を感じました。それも、記憶にある大司教様よりも強力な……」

「それってぇと、つまり……」

「はい。神リリーエルは、嘘をお(いと)いになります。ならばコータさんは、貴重な方であり信頼できる人物だと思います。なので……」

「縁は繋いでおきたい…と」

「その通りです!」


 断言するミーシャ。

 ガイアとリュウは、思わず顔を見合わせる。

 ミーシャの言いたい事は理解した。

 ガイアのパーティーは今5人。前衛2人、後衛2人、斥候1人。

 パーティーの枠は最大6人まで。

 残り1人分の空きがあり、探している最中だった。

 だが、当然ながら誰でも良い訳では無い。しかし、バランス的には今でも十分なので、どの役割でも大丈夫ではある。できれば生産職が良いな…くらいのものだった。

 よって、ガイア達は最後のメンバーは実力や役割よりも人柄を優先して探していた。

 そして、ここへ来て見つかった加護持ち。その特性上、信頼できる可能性が非常に高い。

 成程、理にかなっている……のだが、その事実を加味しても、ミーシャは普段よりも積極的な気がしたガイア。


「にしても、えらい積極的だと思うがな……。やっぱ惚れたか?」

「――怒りますヨ?」

「……すまん」


 本気で怒った様子のミーシャに、ガイアは揶揄い過ぎたかと素直に謝った。

 ……のだが、やはりミーシャの頬は少し赤らんでいる。


「ま、まーまー…なんにしても、今日のところは帰ろうぜー」

「そ、そうだな。休んでる2人にも、今日の事は話しておくべきだろう」

「……はぁ、そうですね」


 3人は話を切り上げ、猫耳亭へと帰っていった……………。





 一方その頃、コータは犬耳亭でチェックインし、部屋で休んでいた。

 1泊大銅貨10枚。取り敢えず銀貨1枚を支払って、10日間部屋を借りた。

 聞いていた通り猫耳亭よりも安く、食事は都度支払いとなっていた。だから、厨房に誰か居ればいつでも注文して良いようだ。

 部屋も悪くなく、1人なので狭くもない。

 お風呂が無いのが少々気になるが、その他で不満な点はコータには無かった。

 寝転がっているコータが今眺めているのは、自分のステータス。

 町へ入ってから何度か人を鑑定しようとしたのだが、全て不発に終わった。

 それで原因を知ろうと思い、鑑定スキルを鑑定しているのだ。そして解った事は、自身のレベルよりも5以上高い相手は鑑定できないというものだった。


(今後の事を考えると、やはりレベル上げは急務かな……)


 明日は、門に行って仮の身分証を返却し、銀貨1枚を返してもらいに行かなければならない。余り遅くなると、忘れてしまう可能性があるからだ。

 そのついでに、何か外の依頼を受けようかとコータは悩む。採取依頼であれば、鑑定があるので群生地でも聞ければなんとかなる。討伐依頼は……武器が無い。今の手持ちは減らしたくない。ただ、遭遇した場合を考えると何かしらの武器は欲しい。

 コータは悩み続けていたが、空腹という名の時間切れで思考は中断された。


「腹が減っては何とやら……」


 部屋を出てホールへ向かうと、丁度給仕の女の子が居たので声を掛ける。


「食事、今大丈夫かな?」

「あ、は~い大丈夫ですよー。あれ? お客さん初めて見る顔だね」

「うん、今日から泊まるんだ。宜しく」

「宜しくね! それじゃ、空いてる席で待っててね」


 厨房へ入っていく給仕の姿を見送り、近くの席に着くコータ。

 今の感じだとメニューとかは無く、料理人に任せきりの食事内容のようだ。

 周囲を見回すと、ちらほらと他の客が見える。どの客も若そうだ。

 少しして料理が運ばれてくる。


「はい、お待たせ。カウルーの肉を使ったシチューと、テールバードと山菜のソテーだよ。付け合わせのパンは2回までおかわり無料だから、欲しかったら言ってね」

「ありがとう」


 良い香りが漂い、見た目も美味しそうだ。

 早速パンを手に取り、千切ってみる。とても柔らかく、コータの知るものと何ら遜色ない。

 先ずは一口…と口に含む。


(おお、美味しい……)


 ほんのりとした甘みと、噛んだ瞬間に飛び出す香ばしい風味。

 コータは純粋に驚いた。

 こんなパンを焼く技術があるのに、どうして文明レベルが低いのかと。


(このシチューも美味しい)


 次に手を付けたのはシチュー。

 こちらも甘めの味付けだが、コータの好みに合った。

 続いてソテーにも手を出す。


(これは……塩気がやや強い? パンとシチューが甘めの味付けだからかな)


 ふむふむと一口食べる毎に頷きながら、コータは食事に感動していた。

 料理に関して、コータは素人だ。詳しい事はわからないが、美味しい事はわかる。それで十分だった。

 宿屋でこのレベルなら、料理店ではどんなレベルの料理が出てくるのかと、コータは今から楽しみだった。


 食事が終わり、給仕の女の子に料金を払う。

 部屋に戻った時には、既にコータは先程の悩みがどうでも良くなっていた。

 ――やってから考えよう。

 全ての結論をそこへ収束し、考えを放棄した。

 お金が無い? ―――――依頼を受ければ良い。

 武器が無い? ―――――必要の無い依頼を受ければ良い。

 知識が無い? ―――――鑑定でどうにかすれば良い。

 満腹感に包まれたコータは、考え方が半ば脳筋になっていた。


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