パーティーで依頼を受ける
気付いたら朝だった。
そんな感覚のまま、コータは体を起こす。
昨日の宴会は楽しく、だからこそ遅くまで飲んでしまっていた。
なのに、不思議と倦怠感は無く、二日酔いにもなっていない。昨日の記憶もはっきりとしており、スッキリとした目覚めだった。
お酒に強かった記憶は無いが、体調が悪くないどころか良好な現状を鑑みるに、以前よりも強くなっている事は間違い無かった。
自分の身体に何か起こったのだろうか…とコータは考え、自身のステータスを確認する。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
コータ
<性別>
男
<ステータス>
レベル:32 (+3)
HP:270 (+25)
MP:0(固定)
腕力:124 (+11)
脚力:230 (+23)
魔力:0(固定)
防御:65 (+5)
<スキル>
鑑定【6】 回避【4】 剣術【5】
整備【6】 鍛冶【3】 彫金【3】
魔法無効【-】 木工【4】 合成【2】
気配察知【6】 採取【7】 恐怖耐性【3】
毒耐性【2】
<呪い>
魔封じ
<称号>
異世界人
転移者
女神リリーエルの慈愛
封じられし者
酒豪
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(何か増えてる……?)
レベルが上がっているのは、ドラゴン討伐に関わったからだろう。直接の攻撃こそしていないが、その姿が確認できる程の距離にて支援行動をしていたのだから、それが関係しているのかもしれない。
更に、鑑定と恐怖耐性のスキルレベルも上昇していた。鑑定のレベルが上がったからか、視える項目が増えている。
ここまでは、恐らくドラゴン討伐の成果であろうとコータは納得していた。
ただ、スキルに新しく毒耐性が生えており、称号に酒豪が増えていた。
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毒耐性
<詳細>
体に害となる成分を自然分解する。
レベルに応じて分解する速度が上昇する。
<レベルボーナス>
レベル3:未開放
レベル6:未開放
レベル10:未開放
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
お酒に含まれるアルコールを分解してくれていたらしい。
目覚めスッキリの理由が判明した。
いつ取得したのかは不明だが、既にスキルレベルが2に上がっているので、宴会の途中である事は間違いない。
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酒豪
<詳細>
一定時間内に相当量の飲酒を行った者の証。
泥酔しなくなる。
該当スキル成長率に補正が掛かる。
<該当スキル>
毒耐性・活性化
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
この称号を視て、コータは納得した。
そして同時に、もう一方のスキルである活性化を取得していない事を疑問に思った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
活性化(未取得)
<詳細>
体細胞が活発になり、自然治癒力が上昇する。
レベルに応じて治癒速度が上昇する。
<レベルボーナス>
レベル3:未開放
レベル6:未開放
レベル10:未開放
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
(………便利そうなのに)
できればこっちの方が欲しかったと思いながらも、取得条件を考えるコータ。
毒耐性は解り易い。
摂りすぎれば毒にもなるアルコールという、お酒であれば何にでも含まれるものを摂取していたから取得できたのだろう。
そうなると、活性化とは……。
(まさか…怪我?)
詳細には、自然治癒力が上昇するとある。
であれば、鍛えるという意味では怪我をし、自然治癒で傷を治すのが適しているのかもしれない。
と、そこまで考えたコータは悩み始める。
確実にあった方が良いだろうと思う一方で、取得の為に自傷行為をしたくは無いという躊躇い。
しかし、今後の事を考えると、その躊躇いを捨てるべきなのでは? と思う気持ちもある。
悩んだ末、コータが出した結論は―――
(うん。取り敢えず、ガイア達との依頼を一度受けてみてから考えよう!)
――先延ばしだった。
「おう、早いなコータ!」
「おはよう」
装備を整え、コータが待ち合わせ場所である冒険者ギルドへ向かっていると、少し手前でガイアから声を掛けられる。
挨拶を返したコータは視線を彷徨わせ、その理由に思い至ったガイアは言葉を続ける。
「ああ、他の奴等ならまだだぜ。俺は先に良さそうな依頼の確保に来たんだ」
「そっか。……じゃあ、一緒に行っても?」
「おう良いぜ!」
じゃあ行くか…と言ったガイアにコータが続いて冒険者ギルドに入る。
やや早めに来たつもりであったが、既に人が多く、依頼を吟味している冒険者だらけであった。
その様子を、ガイアは特に気にした風も無く進んで行き、コータがそれに追従する。
「人多いね」
「まあな。実入りの良い依頼は、遠方のものが多いからなぁ。そういったのを狙ってる奴等ってぇのは、この時間でもぎりぎりなんだよ」
「へぇ……成程ね」
「ま、その点俺等は今回パーティー新体制で依頼を受けるからな。難易度だけを見て、無難なものを選ぶからそう急ぐ必要も無ぇのさ」
「ん? って事は、普段はもっと早いの?」
「まあそうだな。つっても、それは俺の話だ。他の奴等は今日とあんま変わんねぇよ」
「大変だね」
「はっはっ、単純に俺以外は朝弱ぇってぇだけだ」
「そ…それもどうかと思うよ……」
「だがまあ、コータは大丈夫そうだな。昨日あれ程飲んでたからよ、遅れても何も言わねぇつもりだったんだが……」
ガイアはコータが寝坊すると思っていた。
遅くまで、大量の酒を煽っていたのだ。そう思うのが普通だろう。
結果はご覧の通りだが……。
ならば何故1日空けなかったのかと言うと、自分の体調を見ての判断力を確認したかったからである。
依頼に出られるのか。出られるとしても、無理の無い動き―――立ち回り―――ができるのかどうか。
ガイアは、コータがパーティーに入る事は歓迎している。自ら誘ったのだから、そこに疑いの余地は無い。
しかし、それとこれとは別の話である。
パーティーリーダーとして、パーティーメンバーの能力は可能な限り把握しておきたい。
訓練を何度か一緒に行った事で、戦闘能力はある程度把握できている。だから次は、判断能力も確認しておきたかったのだ。
想定外の事態が発生した時、どこまで個の判断に任せられるかを知っておきたかった。
だが―――
「まさか、一番元気そうだとは思わなかったぜ。ここに来る前全員に声掛けたんだが、ミーシャなんかは酒が抜けきって無さそうだったんだがなぁ……」
――既にこの状況が想定外となっていた。
思惑とは外れてしまったが、それでもパーティーの連携確認という意味では、普段の調子でも見ておく必要がある。
ガイアは気を取り直し、改めて貼ってある依頼の確認に移る。
今回探している依頼は、討伐か採取の2択。
討伐なら、そのまま連携の確認ができる。採取であれば、道中や目的地で魔物が出るものを選び、警戒心も含んで確認できる。
さてどれにするか…と吟味していると、1つの依頼が目に入る。
―――――◇◆◇◆◇―――――
討伐依頼(受注)
<内容>
イェルタイガーの討伐
<数量>
3匹以上
<場所>
廃都メトロウト
<期限>
定め無し(但し、5匹以上存在が確認された場合、その時点から10日以内)
<報酬>
討伐のみ:討伐証明部位提出後金貨6枚(4匹目以降1匹につき金貨2枚)
素材買取:毛皮…銀貨20枚(1匹分)
肉…銀貨3枚(1㎏)
骨…銀貨8枚(背、足のみ1匹分)
牙…銀貨5枚(1匹分)
他…大銅貨50枚(1匹分)
<推奨>
4人パーティー以上(内1人はランクC以上)
<注意事項>
現在確認されているのが3匹だが、それ以上の可能性もあり。受注の際には、その点を加味し留意する事。素材買取提示額は、高品質の場合であり、損傷度合いにより値下がりする。
―――――◇◆◇◆◇―――――
「……悪くねぇな」
「ん? どれに―――――ぅげ……」
コータはガイアが見ている依頼内容を確認し、思わず呻いた。
「お? …ああ、大丈夫だって。最悪、俺等だけでも斃せる魔物だ」
「そ…そうなの?」
「おうよ」
イェルタイガーは、廃町や廃都に棲み着く中型の魔物でやや臆病。しかしその反面、建物等の遮蔽物を利用した奇襲をしてくるので少々手強い。
とは言え、素早さはあるが打たれ弱いので、奇襲にさえ気を付けて誘い込み囲んでしまえばそう難しい相手でもない。
基本親子で行動するので、群れで発見される事は稀だが前例はある。群れの場合、早期討伐しなければ周辺地域に危険が及ぶ。餌を求めて押し寄せるからだ。
ただ、今回は3匹と書かれている。それ以上の可能性もありとなっているが、群れと言える程の数が揃っていれば発見されていないのは不自然だ。よって、多くとも2・3匹増える程度で特に問題も無いだろうとガイアは判断した。
場所も移動に馬車で2日程度で割と近い。
報酬も十分。
ガイアは依頼用紙を取り、受注処理を行う為に受付へと持って行った。
「それで、どんな依頼にしたの~?」
「イェルタイガーの討伐だ。数は確定で3匹、多くても6匹くらいだろうな」
残りのメンバーが揃い、ガイアが受注した依頼の確認を行っている。
移動に往復だけで4日掛かる事。討伐対象はイェルタイガーで、記載よりも多い可能性がある事。
準備に必要な物を確認し、誰が何を揃えるかを分担する。
コータは初めてな事もあり、誰かと行動を共にする事となったのだが―――
「んじゃ、コータは俺と一緒に消耗品を買いに行くか」
「いいえ、私と一緒に食糧の買い出しに行くべきでしょう。消耗品は今回嵩張りませんし、多めに必要な食糧の方が人手が欲しいです」
――誰と行動するかで少々揉めていた。
ガイアとしては、今後も世話になる店の紹介を兼ねて。
ミーシャとしては、建前となるが荷物持ちが必要だから。
互いに相手を説得する為の言葉を用い、あれこれと言い合う。その様子をニマニマとした表情を隠そうともせずに見つめるシータ。呆れた表情のリュウ。スウェンは我関せず。
何をそんなに言い合っているのかが理解できないコータ。だが、このまま成り行きを見守っているのはマズいと判断し、声を掛ける。
「に、荷物持ちが必要なら、今回はミーシャと行動するよ」
「えっ?」
「まあ! では決まりですね!」
「ガイアの方は、次の機会にでもお願いするよ」
「お…おう。まあ、コータがそう言うなら仕方がねぇな」
「さ、そうと決まれば早速行きましょう! 思わぬ時間を浪費してしまいましたからね」
「いや、それはお前が……何でもねぇ」
ガイアの抗議を視線と笑顔で封殺したミーシャは、コータを連れて買い出しに向かう。
心なし浮かれていたミーシャの様子に、シータはついに声を上げて笑い出した。
場所は変わって市場。
コータとミーシャは、保存食をメインにして買い物を進めていた。
「コータさんのお陰で助かりました。今回は楽に買い物が済みそうです」
「それは何より。でも、いつもは1人でこんなに買ってるの?」
コータは、先程買って異次元バッグに仕舞った食糧を思い出していた。
定番の干し肉に始まり、乾燥させた果物や塩漬け野菜。お湯で簡単に作れるスープの素等、パーティーの人数が人数なので、結構な量を買い込んでいた。
とても1人で買い出しするような量では無い。
「いえ…実は、コータさんの持つバッグ頼りでちょっと多めに買ってるんです。討伐がすんなりいけば良いのですが、場所が場所だけに時間が掛かる可能性もありますから……」
「場所……って、廃都だったよね?」
「ええ、そうです。廃都とは言え元は都でしたから、それなりに広いんです。イェルタイガーは臆病なので、すぐには出てこない可能性があります。……ただ、そうなると捜索に1日以上掛かる可能性も出てきますので、その分食糧が必要になりますからね」
「成程……」
「それに、干し肉は水で塩気を抜けば餌になりますから、誘き寄せるのにも使えるんです」
「へぇ~」
思いの外色々と知れて、コータは感心していた。
が、聞きたい事から微妙に話が逸れていたので、質問の仕方を変えた。
「他の事も同時進行する必要ってあったの? 分担すれば準備が終わるのは早いかもだけど、2・3人で行動しても良かったんじゃない?」
「ああ…最初は私達もそうしていたのですが、遠征する場合はこの方が良いんです。と言いますのも、馬車の手配次第では、出発までに時間が無い場合もありますので」
「あ、時間の融通が利かないって事かな?」
「そう思って頂いて間違いありません。往復の場合、帰りは数日のズレは大丈夫なのですが、行きは空いたら利用する形になりますので……」
予約は別途料金を取られますので…と言ったミーシャは苦笑する。
馬車を依頼するのもタダでは無いし、食糧や消耗品を揃えるのにもお金が掛かる。しかし、必要な物を削る訳にもいかない。
なので、こういったところで節約する必要がある。
滞りなく食糧調達を終え、コータ達は皆との合流場所へ向かった。
コータ達が集合場所へ到着すると、既に皆揃っていた。
「おう、馬車はいつでも出発できるそうだ」
(おぉ、ミーシャに聞いてた通りだ)
「そいやーコータは、宿の方は大丈夫ー?」
「え?」
「遠出するって伝えとかないとー、宿によっては滞在費残ってても勝手に引き払われちゃうよー」
「ええ!?」
まだ10日分程滞在費が残っているのだが、コータは今の話を聞いて心配になった。
「まだ時間は大丈夫だ、宿屋に遠出する事を伝えて来な」
「ありがと! ごめん!」
猛ダッシュして宿屋へ向かうコータ。
初めてパーティーで受ける依頼は、もう少し後になりそうだ……………。