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ようこそ、テルエールへ

不定期更新です。

 日本のとある工場。


「おい、パイレン持って来い! 素手じゃダメだ動かねぇ!!」

「誰だこのサンダー用意した奴ぁ!? 付けてる砥石が違うじゃねぇか!!」

「ここの外したボルト何処にやった!?」

「コードリール1個じゃ足りねえって言っといただろうが! 今すぐもう1個持って来い!!」


 そこは、修羅場と化していた。

 とは言っても、1つの集団という訳では無い。

 設備を修理している班と、設備の改善を目的とした装置の取替を行っている班が近くで作業しているだけである。

 24時間体制で稼働している設備だが、月に一度、設備を休止してメンテナンスを行っている。そのタイミングに合わせ、定期修理と改造工事も行っているのだが、作業場所が近い所為で喧騒も大きくなっている。

 そんな中でも、他の人達と違う作業服を身に纏い、1人で分解(バラ)した物を目の前に冷や汗を垂らしていた。


「そ、そんな……。あれほど確認したのに……」


 部品の1つを手に取り、傍に置いてある図面を何度も見直す。

 修理や取替、整備の際に必要なものを揃える為に重要な項目―――型番を。

 そして、無慈悲にもそこに記載されている型番は異なるものだった。


「何でぇぇえ!? 何で違うのぉぉお!!? あれだけ補修記録確認したのに! この図面信用して部品の注文したのにぃぃぃぃ!!」


 装置を分解する際、不具合から不良個所を推定して修理に必要な部品を準備する。また、組み直すにしてもパッキン類は新品を使用するものだ。

 この青年も過去の記録を確認し、必要だと思った部品を購入していた。補修記録に記されていた型番を信じて。

 現場も確認できていればこんな事にはならなかったのだが、残念な事に設備稼働中には見るどころか近付く事さえできない場所に取り付けてあった。その所為で、過去の記録と図面を信用して部品を準備するしかなかったのだ。


「つーか補修記録があるんだから、図面が違う事くらい気付いただろ前任者!?」


 今更言ったところで意味は無い。

 本来ならば、この青年は工事を発注し必要な物を準備するだけで良い。監督責任こそ発生するが、自ら作業する必要は無い立場だった。作業員は元請や協力会社で、青年は親会社の人間である。しかし、予算的な都合もあって、少々の作業であれば必要部品だけを購入し自分で行った方が安上がりになる。

 それから、なにもこの青年は修理できないから取り乱している訳では無かったりする。

 不具合は出ているが、今すぐどうこうなる訳でも無く、ちょっと気になる程度のものだった。その上、修理にそう時間が掛かる訳でも無いので、なんなら次回の設備停止時に回しても良いくらいだ。

 では、何をそんなに慌てているのかと言うと……。


「パッキンのサイズ合わないじゃん!? 組み直そうと思っても外したやつにはちぎれてるのもあるんだけど!!?」


 元に戻せなくなっていたからだった。


「ど、どうしよう……。い、いや待てよ? 確か予備品倉庫にOリングなら幾つか予備が置いてある筈。今から急げばぎりぎり間に合うか……」


 残り時間を確認し、青年は急いで予備を取りに行った。





「うあー………疲れたぁー………」


 就業時間も終わり、青年は疲労感に項垂れながらも、帰路に着いていた。

 結局あの後、予定より遅い事を心配した先輩が現れ、手分けする事でなんとか間に合った。


「くそぅ……ガスケットシートがあるなら、もっと早く教えて欲しかった……」


 ちょくちょく不満を洩らしながら、とぼとぼ歩いていると交差点に差し掛かる。

 横断歩道を渡ろうとすると、歩行者信号が点滅を始めて赤になろうとしていた。青年は渡るのを止め、少し後ろに下がる。

 すると―――


 キキィィィーッッッ!!


 ――タイヤを滑らせながら、1台の車が青年の方へと突っ込んできた。

 交差点を曲がる際に速度が出過ぎていたのか、曲がりきれなかったようだ。

 そのまま速度を落とさず、真っ直ぐ青年へと衝突―――


「うおっ!? っぶねー……」


 ――しなかった。

 車が横滑りするのが視界に映っていた為、全力で横っ飛びして躱していたのだ。

 避けきった青年の後ろで激しい衝突音が起きているが、自分が助かった事に安堵している青年は気にしている余裕が無かった。

 暫く経ち、落ち着いた青年は立ち上がって信号待ちに戻る。遠くでパトカーや救急車のサイレンが聞こえるのは、誰かが通報したからだろう。

 一応野次馬根性はあるが、早く帰って疲れをとりたい青年は事故を気にしない事にした。


「ふわぁ…ねむ……」

「えいっ」


 とん、と背中を誰かに押される。


「は―――――えっ?」


 眼前の歩行者信号は未だ赤。

 前に押され、傾いていく体。

 横から走って来る車が視界に映る。

 青年の意識は、そこで途切れた―――



「いやー、まさか最初のあれを避けるとは思わなかったわー。でもま、これでチャラね! チャラ!!」


 青年を押した少女は、満足した様子でそう言った後その場から消え去った。

 非難される筈の行動をとったにも拘らず、周囲の誰にも認識される事なく……………。





「―――――はっ!!?」


 青年は跳び起きた。

 何時の間に眠ったのか、どうやって家に帰ったのか、まるで記憶に無い。

 焦って周囲を見回した青年は―――愕然とした。


「ここ……何処?」


 一面に広がる草原。

 どこまでも続く青空。

 遠くに見える森。

 しかし、その全てが淡く見える。


「よく来たわね!」


 青年の背後から声が聞こえた。

 その声に妙な既視感を覚えつつも、青年は振り返る。

 そこに居たのは、胸を張って踏ん反り返っている少女だった。


「誰だお前」

「む、無礼ね。でも許してあげる! 貴方は貴重な人材だから」

「貴重な…いや、それよりも、ここは何処で何が起きてんの?」

「ノリ悪いわね。……コホンッ、おお青年よ、死んでしまうとは情けない!」

「……………」

「……………」

「……………」

「本当にノリ悪いわね……。まあ良いわ、要点を言いましょう。貴方は死にました。そう、不幸な事故によって! そしてその早過ぎる死を哀れんだ私は、こうして異世界で私の管理する大陸に貴方を転移させ、新たな生活を送らせてあげようと思ったのです!! …あ、ちゃんと肉体の再生は終わってるから安心してね」


 芝居がかった仕草で大仰に語る少女。

 青年の目には、それはとても―――――胡散臭く映った。


「で、誰だお前」

「くっ……ここまで反応が悪いとは」

「そういや死んだって……ん?」


 ここにきて青年は死に際を思い出していた。

 確かに事故は起きていた。しかし、確実に自分は車を避けた筈だった。そしてその後……と、そこまで思い出したところで―――


「お前、俺の背中押したよな?」

「ぎくぅっ!!?」


 ――意識を失う直前に聞こえてきた声も思い出していた。


「事故死…ねぇ? 俺には殺人の間違いじゃないかと思えるんだが、お前はどう思う?」

「い、いやー…それはですねー……その、最初のあれを避けると思ってなかったからー…つい、手が出ちゃったと言うか―……その…ね?」


 もじもじし、顔の前で人差し指をつんつんしながら言う少女。


「や、ね? じゃねーし」

「ぐぅ……あ、あんたなんか冷たくない?」

「いや、自分を殺した相手に対して親切にできる奴なんか居ないと思うが?」

「うぅぅ…わ、悪かったわよ」


 目を逸らしながら謝る少女を見て、少しは罪悪感を持っているのかと認識を改めた青年は、このままでは話が進まないと考え先を促す事にした。


「……それで、そうまでした理由くらいは説明してくれるんだろうな」

「も、勿論よ。……つーかあんた冷静ね、普通はもっと取り乱すものなのに」

「あ゛ぁ?」

「ひうっ!? ご、ごめんなさい説明します!」


 青年は別に冷静な訳では無かった。

 頭は混乱しているし、現状も理解できていない。

 しかし、それよりもなによりも、単純に目の前の少女が自分に危害を加えた事実に対する怒りが強かったからこそ、相手の存在が何であれ、強気な態度になってしまっているだけであった。


「えーっとですね。私の管理する大陸では、他の大陸に比べて文明レベルが……特に機械関係の技術力が低くて、それをどうにかして底上げできる人を招こうと、そう思った次第でして……」

「や、何で俺? 未だ就職して3年目だし、そもそも機会保全だから設計とか携わって無いんだけど?」

「何ですって!? ……いや、でも確かに占術の結果ではあんただったわ。私が間違える筈も無いし、占術の結果が間違っていた……?」


 段々と声が小さくなっていったが、青年の耳はその呟きをも捉えていた。


「つまり、俺は只の被害者って事でオーケー?」

「ぐっ……。いえ、違うわ! あんたは紛れも無く私が招待した人間よ! 機械関係の技術力を底上げする為に! 態々! 私が! 選んだの! よって、幾つかのスキルを付与し、私の大陸で生活して貰うわ!!」


 どうやらこの少女はその設定で押し通す気らしい。

 と、ここで青年は気になった事を尋ねる。


「スキル?」

「ええそうよ! こちらの世界では、レベルやステータスやスキル、それから称号等もあるの。あんたの世界にあるRPG系のゲームに近いわ。違うのは、蘇生手段が無い事と、急所やなんかはステータスの数値があてにならない事かしら」

「え? じゃ、じゃあ魔法やなんかも―――」

「魔法のスキルはあげないわ! 絶対に!!」

「――何で!?」


 食い気味に拒否され、反射的に聞き返す青年。


「だって! 前回も前々回も、その前に連れて来た人達もみーんな魔法に傾注しちゃったんだから! あんただってそうなるに決まってるわ!!」

「おい待て、今聞き捨てならない言葉が聞こえたんだが?」

「はっ……。コホン、なんでも無いわ。気にしないで」

「もう遅いわ! 他にも居るならそいつらにやらせろよ!!」

「ふん。一度与えたスキルは取り上げられないの! ルールなの! ……それに、私の言葉に耳を貸さないのよあいつら」


 最後の方、心なしかしょんぼりする少女。

 この発言からして、送ればはい終わり! という事にはならないのだと理解した青年は、少しの同情心からほんの少しだけ協力しても良いかなと思い始める。


「あー…まあ、何だ……その、生き残る為のスキルをくれるって言うんなら、多少は頑張っても良いよ」

「え? ほんと!? 本当に協力してくれる!?」

「うお…ああ、できる範囲になるけど」

「構わないわ! やったぁー! ありがとう!! これで他の神達からいびられる事も減るわ!」

「……ん?」

「本当にありがとう! 普通なら与えるスキルは3つ迄だけど、お礼にキャパぎりぎり迄与えてあげるわ!!」


 先程の沈んだ様子から一転して、テンション高く喜ぶ少女。

 そんな様子をちょっと可愛いと思いながらも、青年は引っ掛かった事を問う事にした。


「あのさ、他の神って何?」

「え? あー…そのね? この世界には他にも大陸があって、それぞれに管理する神が居るのよ」

「それってつまり、お前も神……ってことぉ!?」

「ふふん。そうよ、敬いなさい。私はこれからあんたが行く大陸で崇められる女神なのよ!」


 最初のように、胸を張って踏ん反り返る少女―――――いや、女神。

 それを知った青年の反応は―――


「つまり、幼女神って事か……」


 ――大層失礼な感想を呟いた。


「なぁ!? よ、幼女……。私は立派な女神よ!」

「いや、立派なやつは自分で言わないし、そもそも人を殺しにいかないし」

「ぐっ……。ま、まあ良いわ。良く無いけど、今は良いわ。兎に角! スキルを決めましょう!!」


 無理矢理誤魔化す女神。

 青年はそれを胡乱気に見つめるが、もういいやと流す事にした。

 だから気付かなかった。

 青年が呼ばれた理由が、“他の大陸の神からいびられるのが嫌で、文明レベルの底上げをしたい”だった事に。


「それで、何のスキルをくれんの?」

「その前に、あんたの今のステータスを見ましょう」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 吉田よしだ 康太こうた

<ステータス>

 レベル:1

 HP:40

 MP:0(固定)

 腕力:21

 脚力:30

 魔力:0(固定)

 防御:15

<スキル>

 観察【4】 回避【2】 剣術【1】

 整備【3】

<呪い>

 魔封じ

<称号>

 異世界人

 転移者

 女神リリーエルの加護

 封じられし者

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「へぇ、流石あの事故を躱すだけあるわね。回避を持ってるなんて」

「……………」

「それに観察は鑑定の下位互換だし、ランク上げて鑑定にしちゃいましょうか」

「……………」

「うん。ちゃんと整備スキルも持ってるし、製造系のスキルさえ与えれば大丈夫そうね」

「……………」

「意外とステータスも高めだし、この分なら心配無いわね」


 うんうんと、女神は頷きながら青年―――――康太のステータスやスキルに満足していた。

 しかし、先程から沈黙している康太に目を向けると、その形相にビクッとした。


「……で、説明…してくれるよな?」

「ひゃい! ……説明させていただきます」


 女神とは何だろうか、と疑問を抱きそうなこの光景に、しかしツッコミを入れる者は存在しないのだった。


「取り敢えずこの“呪い”って何?」

「えー、あー……。魔法スキルを覚えられないようにと、そのー……付けました」

「ほぅ……」

「ま…まあまあ、HPは勿論、腕力と脚力も一般人の平均より強いし、きっと大丈夫よ」

「何で分けられてるのかは後で聞くとして、魔力は?」

「魔法を使った時の強度や、魔法による攻撃を受けた時の耐性や抵抗、防御に影響するわ!」

「……それってつまりさあ、俺は魔法に対して無力なんじゃないの?」

「………え?」

「固定って事は、レベル上げても数値は0のままなんだろ?」

「……あっ、アハハ………」


 たらーっと額から汗を垂らし、引き攣った笑みを浮かべる女神。


「笑い事じゃねぇよ!? 俺言ったよね!? 生き残る為のスキルをくれってさぁ!! これじゃ死に易くなってんじゃん!?」

「ぐっ…そ、そうよ! 他に防御系のスキルを与えれば問題無いわ!!」

「本当に大丈夫なのか? もう既に俺の中でのお前はポンコツ認定されてんだけどぉ?」

「だ、大丈夫よ! 待ってなさい。……えーっとあんたが取得可能なスキルは~っと、一覧を防御系に絞って能力高い順にソートして……。え? あれ?」


 なにやら、目の前の空間を凝視しながらぶつぶつ言い始める女神。控えめに言って怖い。

 時折指を動かし、途中で固まった。


「何? どうしたんだ?」

「いえ、その……普通なら、人には(・・)取得不可能なスキルが表示されたの」

「どんなの?」

「物理無効と魔法無効よ」

「え? 良いじゃん、それ両方くれれば」

「バカね、さっきキャパのぎりぎり迄って言ったでしょう。片方しか無理。それに、普通ならどちらかでも取得不可能なのよ。人のキャパは少ないから」

「じゃあ何で俺は取得可能なんだよ」

「だからそれを……いや、ちょっと待って…まさか、呪いでステータスを下げた所為でキャパに余分が生まれて……。そんなバカな……」


 再度ぶつぶつ呟き始める女神。先程よりも表情に真剣味があり、より怖くなっている。

 放っておくと、正気に戻る迄にどのくらい時間が掛かるのかがわからなかったので、康太は止める事にした―――


「ていっ」

「ぎゃっ!?」


 ――物理的に。

 額をチョップされた女神は、やや涙ぐんだまま恨めしそうに康太を見返す。


「何すんのよ!?」

「正気に戻そうかと……」

「普通に声掛けなさいよ! 私女神よ!? 本来なら不敬なのよ!?」

「わかったわかった。んで、結局どうすんの」

「くっ…まあ良いわ。取り敢えず、与えるスキルは魔法無効で良いのかしら?」

「そうだな。両方が無理なら、魔法に対抗する術は欲しいからな」

「じゃあ魔法無効を付与して……良し! 成功よ。一応キャパ的には未だ余裕があるけど、他に何か欲しいものは?」


 聞かれ、少し悩んだ康太は先程の会話に出てきたものを頼む事にした。


「さっき言ってた鑑定だとか製造系のスキルは?」

「もう与えたわ」

「ぅおい!?」

「だってそれが一番重要だったもの」

「下手すりゃ魔法無効も取得できなくなってたんじゃないのか?」


 すー…っと目を横に逸らす女神。


「この……まあ結果的に問題無かったから良いか」

「そ、そうよ! 文句無いでしょ?」

「いや、文句自体はあるが、感謝と相殺するとしよう。…んで、俺のキャパシティはあとどのくらい余裕があんの?」

「そうね、下級スキルなら3つから4つ。中級なら2つ。上級だと1つと言ったところかしら」

「おススメは?」

「んー……。スキルは自分で取得や成長させられるから、下級で取得の機会が少ないものを選ぶのが良いと思うわ」

「取得の機会が少ないんなら、役に立たなくね?」


 スキルの取得は、独学によるものとスキル所有者に教えてもらう方法がある。つまり、取得の機会が少ないなら、そのまま需要が少ない事に直結するだろうと康太は考えた。


「そんな事無いわ! 言ったでしょう、文明レベルが低いの。魔法があるから不便では無いけど、その所為で需要もあんたの世界と違うのよ!」

「だったらやっぱり役に立たないんじゃ……」

「違うわ! あんたの役目は、機械関係の技術力向上よ! だったら、その為に必要なスキルであれば十分な需要があるわ! だって、あんたが先駆者になるんだから!! ……それに、魔法だって使えないんだし」


 つまり、先人が居ないから独学以外選択肢が無い。

 しかし、当然ながら独学には限界がある。

 だから、先に取得できるスキルは取っておけ。

 そういう事らしい。

 魔法に関してはお前の所為だろ……と、康太は思った。


「因みに製造系のスキルって何をくれたんだ?」

「鍛冶と彫金ね。鍛冶は部品を作るには必須だし、彫金はステータスに無い器用さを補助してくれる数少ないスキルよ」

「………なら、木工や錬金とかは?」


 機械は別に金属に限るものでは無い。定義だけで言えば、金属意外も含まれる。

 なので、康太は自分が携わった事の無い木材の加工を、スキルでどうにかできればと考えた。

 そして錬金は、折角だからやってみたいという単純な理由からだった。


「えーっと……あら、大丈夫そうね。でも、その2つを取得したら他はもう無理よ。両方中級だもの。錬金なら合成っていう下位互換があるけど、どうする?」

「なら合成で。て言うか、中級に上げるにはどうすんの?」

「簡単よ。スキルレベルを10にすると、上のランクがあるスキルは昇級するわ」

「じゃあスキルのレベル上限は10って事か」

「そうね。…それで、もう1つ下級スキルが取れるけど、どうする?」


 言われて康太は悩んだ。

 このまま他に素材に関係するスキルを貰うか、戦闘に関係するスキルを貰うか、若しくは探索に役立つスキルを貰うか……。


「……よし、じゃあ気配を感知するようなスキルってある?」

「あるわよ。下級なら気配察知と勘の2つね」

「気配察知は何になるの?」

「気配察知は中級が気配感知で上級は空間把握よ。最後は、生物に限らず物の配置や広さなんかもわかるようになるのよ」

「じゃあ気配察知で」

「わかったわ。……うん、大丈夫そうね。もう一度ステータスを見てごらんなさい」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 コータ

<ステータス>

 レベル:1

 HP:40

 MP:0(固定)

 腕力:21

 脚力:30

 魔力:0(固定)

 防御:15

<スキル>

 鑑定【1】 回避【2】 剣術【1】

 整備【3】 鍛冶【1】 彫金【1】

 魔法無効【-】 木工【1】 合成【1】

 気配察知【1】 

<呪い>

 魔封じ

<称号>

 異世界人

 転移者

 女神リリーエルの加護

 封じられし者

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「あれ? 魔法無効にはレベルが無いけど……」

「当然よ。特級スキルだもの」

「…さっきの説明には無かった気がするけど?」

「言ったじゃない、人には取得不可能って。本来なら、特殊な魔物が持つスキルよ」

「え? それって、バレたらマズいんじゃ……」

「大丈夫じゃない? 人里には出てこないし、そのスキルは認知されていないもの。第一、鑑定のスキルがないと先ず見つからないし? 鑑定持ちは貴重だから国のお抱えだったりするし」

「えぇー……」


 後出し情報に軽く戦慄する康太だった。


「はぁ…まあ良いや。んで、何で名前変わってんの?」

「他の転移者に見つかったら、一発でバレるじゃない。だからよ」

「え? 見つかったら何か不都合でも?」

「当たり前じゃない。あいつらはやりたい放題やって、既に高い地位に就いているわ。あんたを見つけたら、絶対に取り込むか利用して使い倒すかされるわよ!」

「うへぇー……」


 それを聞いてうんざりする康太。

 だが、もう後戻りする気も無いので、関わらないように気を付けるしかない。


「他に質問が無ければ、私の大陸に送るわ」

「じゃあ、腕力と脚力が分けてあるのは?」

「簡単よ。普通、殴るより蹴る方が強いでしょう? だから、攻撃する時にも数値が変わるのよ。あと脚力は足の速さにも影響するわね」

「って事は、武器による攻撃も?」

「そうね。武器の特徴にもよるけど、影響があるわ」


 そこを細かく分けるのなら、もっと他にあるだろ……と康太は思った。


「他には?」

「称号とかは?」

「鑑定で見れば解るわ。だから送った後、自分で確認しなさい」

「りょーかい」

「それじゃ、送るわね」


 言うが早いか、康太の足元が光り始める。


「今この場所と同じ風景の所へ着くから、森と反対側へ向かいなさい。町があるから、旅人を装って入ると良いわ」

「え? お金とかは」

「服と鞄をプレゼントしてあげる。その鞄にお金が入ってるから、使いなさい」

「ああ、わかった」

「ふう……。最後迄タメ口だったわね。まあ良いわ、ある意味故こういう関係にも憧れてたし、あんたにだけ特別に許したげる」

「ははっ、そりゃどーも」

「全くもう…。コホン…ではコータ―――」


 光が強くなり、周囲が何も見えなくなってきた。

 そして最後に、女神の声が聞こえた。


 ――ようこそ、テルエールへ。


お読みくださり、ありがとうございます。

宜しくお願いします。


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