第三ひょん 怪長は出演する
俺達の高校の生徒会長は特別住民である。
俺の名前は打本 越一。
この降神高校の二年生。
で、生徒会で書記なんかやったりする。
さて、今日も生徒会室で会議があった。
「絶対に出る」
そう断言し「覚悟」と書かれた扇子を煽ぐのは、生徒会長こと詩騙 陽想華（ぬらりひょん）だ。
見た目は凛然とした美少女で「出来る女」オーラをバリバリ発してはいるが、一歩踏み出せばポンコツ谷へ真っ逆さまの残念型ヒロインである。
さて、そのポンコツガールが息巻いているのは何かというと…
「しかし、本当に大丈夫なのですか？」
そう言いながら眼鏡を光らすのは、生徒会における「影の立役者」こと副会長である。
この降神高校生徒会が、怪長のポンコツ覇権を辛うじて確固たるものにしているのは、この人の並々ならぬ汗と涙と努力の結晶によるものだ。
この人がいなければ、生徒会の権威は一時間で地に堕ち、校内で反乱が発生しかねない。
副会長は机に両肘をつき、どこかの特務機関の代表みたいに指を組んだ。
「大半の生徒達がリラックス状態にある昼休みといえど、生放送ですよ？」
そう。
すべての問題はそこにある。
事の発端はこうだ。
新入生を迎えた現在、歴代の生徒会長が行ってきた「お昼の放送の生出演」の打診が、放送部より寄せられたのである。
これに、先の各部活及び委員会の新入生説明会での出番を奪われた怪長が反応した。
しかも、俺達が一番有り難くない形で。
「副会長、君は私を何だと思っているのかな？」
フッと笑いながら「適役」と書かれた扇子を広げて見せる怪長。
「先の新入生説明会で届けることが叶わなかった私の声を！晴れて全校生徒に届けることが出来るのだぞ？それは生徒会のイメージアップになるに違いない。しかも、自己紹介まで出来る。これに出ずして何が生徒会長だ！」
その一言に、役員全員が「事故紹介になる」と内心結論づけたのは言うまでもない。
すると、不意に副会長が満面の笑みになって朗らかに問い掛けた。
「さて！今日は生徒会長である詩騙怪長にお越しいただいております。怪長、よろしくお願いいたします！」
突然の振りだったが、怪長は「上等」と書かれた扇子を広げた。
「うむ、よろしく頼む！」
「それでは、早速怪長にお聞きしたいのですが、ご趣味は何ですか？」
「今はPCゲームにハマっているな」
「ゲームですか。どんなゲームですか？」
「『LOVE Line』というギャルゲーだ。勿論、全ヒロインを攻略している。あ、大きな声では言えないが全てのシーン再生とエンディングも埋めたぞ。生唾ものだ」
「…ほ、他に何かご趣味は？」
「寝ることだな。あと、おやつ。三時のおやつは必須だ。できるなら、甘いものがいいな」
「おやつは趣味とは思えませんが…怪長は甘いものがお好きですか？」
「うむ。他にも味噌汁かけご飯とか、ラーメン雑炊なんかもいいな。ラーメンをやっつけた後に、飯を鍋にブチ込むのが最高だ。備え付けにシーチキンとかあるとなお良いな」
「ええと、次の質問ですが怪長はこの降神高校の生徒会長に就任されました。これからこの高校をどんな学校にしてみたいとお思いで？」
「うむ。私はこの高校を生徒達の自主性を重んじ、自由な校風に溢れる学び舎にしたいと思っている」
ここで、ゲンナリしていた役員全員が顔を見合わせた。
あまりにも怪長らしくないまともな発言だったからだ。
副会長も意外そうに尋ねる。
「そ、それはひどくまとも…あ、いや、ご立派なお考えですね。では、具体的にはどんな？」
「そうだな。まずは制服の撤廃だ。朝の身支度に手間取るし、何よりもダサい。ジャージでいいだろうもう」
「…」
「あとは、早弁早退の自由。早いことは何でも素晴らしいのだから、これは必然だろう」
「…」
「そうそう。学力格差を生む定期テストも撤廃したい。あんなものは所詮一時的な学力測定にしか過ぎん。本当の実力とは、追い詰められた時にこそ発揮されるものをいうのだ。この私のように、一夜漬けで臨むくらいの余裕を日常生活に持たせるべきだろう」
「…」
「禁止や撤廃だけではないぞ。新たに導入するものもある」
「…何です…？」
「午睡の導入、これは外せんな。皆で仲良くお昼寝するのだ。そうすれば、午後の授業は少なくて済むし、部活動への活力も生まれる」
「…」
「それに、昼食時の外部業者のキッチンカーの出入りも認めよう。購買部や食堂のありきたりなメニューばかりでは、青少年の胃袋を十分には満たせんしな」
はっはっはっと笑いながら「改革」と書かれた扇子を煽ぐ怪長。
それに肩を震わせていた副会長が顔を上げ、俺に向かって一言、
「出演固辞で回答しろ」
と言った。
