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第二ひょん 怪長は騙される

挿絵(By みてみん)


 俺達の高校の生徒会長は特別住民ようかいである。


 俺の名前は打本(うちもと) 越一(こしかず)

 この降神(おりがみ)高校の二年生。

 で、生徒会で書記なんかやったりする。


 さて、今日も生徒会室での会議がある。


「諸君」


 生徒会長改め「生徒怪長」である詩騙(うたかた) 陽想華(ひそか)さん(ぬらりひょん)が、生徒会役員達を見回す。


「諸君らも知ってのどおり、もうすぐ『アレ』がある」


「『アレ』ではなく具体的にお願いいたします」


 すかさず、眼鏡を光らせつつ副会長が眼鏡のブリッジを押し上げる。

 それに「愚問」と書かれた扇子をパラリと広げる怪長。


「おやおや、いちいち説明が必要かな?この時期に催されるものと言ったら『アレ』しかあるまい」


「ですから、具体的にお願いいたします」


 ゆらぁりと立ち上がった副会長の声が、固い。

 セラミックもかくやというほどだ。


「議題の明確な提示は、役員間で共通認識を持つために必要不可欠ですから」


 副会長の声が、更に硬化する。

 もはや神鋼鉄(アダマンチウム)もかくやというほどに。

 しかし、怪長は動ずること無くフッと笑った。


「『アレ』いえば『アレ』だよ。いわずもがなだね」


「…」


「…」


 対峙する怪長と副会長。

 同時に、室内の空気がピーンと張りつめ、その場にいる全員が身構え始める。

 軍手をはめ、拘束用鎖を持ち出す者。

 抗不安薬銃(トランキライザーガン)に薬剤を注入し始める者。

 怪長の逃走状況を捉えようと、撮影機材一式を広げ始める者。

 さすがに場馴れしてきたようだが…

 みんな何か違った方向に特化してないか…?


「怪長、午前中に僕からご説明させていただいた『アレ』について、どうぞ明確にご明言ください」


 副会長の呼気が「がしゅー」と蒸気じみた音を発する。

 …今更だが、この人特別住民(ようかい)じゃないだろうか…?


「懇切丁寧に!説明して!『分かった分かった』とお返事してくださった!『アレ』について!」


 一歩一歩、語気を強めて怪長に近付いて行く副会長。

 それに微妙に視線を泳がせ「窮地」と書かれた扇子をあおぐ怪長。


「ふむ…どうやら記憶の混濁があるようだ。これは極めて不幸なアクシデントと言えるな」


「…つまり?」


 副会長の柳眉が逆立つ。

 怪長がハッハッハッと笑いながら「忘却」と書かれた扇子をパラリと広げる。


「記憶にない」


「詩騙アアアアァー!!」


 お約束どおり、副会長が鬼と化して掴み掛かろうとした瞬間、


「各部活及び委員会の新入生説明会のことですね」


 と、俺が告げる。

 その一言で怪長は俺の隣に瞬間移動し、キレた副会長に備えつつあった役員達が構えを解く。

 中には、何が惜しかったのか小さく舌打ちする奴までいた。

 何でだ。


「さすがは打本、私が言わんとしたことを察するとは見事だ」


 「延命」と書かれた扇子を広げる怪長。

 副会長がジロリと俺を見るが、俺はなだめるように両手を広げて言った。


「副会長、お気持ちは分かりますが、今回は極めて重大な問題があります。一旦落ち着いてください」


「そうだぞ、副会長。カルシウム不足が露呈するような真似は慎みたまえ」


「怪長は少し黙っていてください!」


 俺がそう釘を刺すと、ぶうたれたように横を向く怪長。

 構わずに俺は続けた。


「確か、新入生説明会では各部活と委員会、そして俺達生徒会も勧誘のPRを行うんっすよね?」


「…そのとおりだ」


 良かった、副会長の目に理性の光が戻ってきた。


「でも、問題なのはPRを行うのが各団体の長…つまり、俺達生徒会の場合は怪長ということになります」


 しーん。


「終わったな」

「ああ、終わりだ」

「どだい不可能なんだよな」

「新入生達の白い視線が今から目に浮かぶぜ」

「私、その日は休むわ。(さら)されたくないし」

「あ、あたしもー」


 てんで好き勝手言い始める役員達。

 …まぁ、気持ちは分かる。

 外見は凛然としている怪長だが、口を開いた瞬間にメッキが盛大に剥がれる。

 生徒会の業務だって、あの手この手でサボってる始末だ。

 PRなぞやらせるのは、赤ん坊に選挙演説をやらせるようなものだ。

 俺はパンパンと手を打つ。


「待て待て、みんな!それをどうにかするための会議をやるはずだろ!」


「でもさー、怪長だぜ?」


 ボヤく役員の一人に、俺は頷いた。


「言いたいことは分かるけど、そこを何とかしなきゃ、新しい役員の獲得は望めないぜ?それでいいのかよ?」


 それに途端にざわつく役員達。


「確かに…このまま現役メンバーで繋いでいくのもなぁ」

「初々しい後輩、欲しいよねー」

「生徒会がメンバー不足で沈没って、シャレにならねぇよな」


「そういうことだ」


 完全に人に戻った副会長が、眼鏡を押し上げる。


「事は生徒会の未来にも関わる問題といえる。それに、ここで新入生達にうまくアピールし、一人も後続を獲得出来ねば、僕達はいい笑い者だ」


「そのために、私の出番ということだな」


「席巻」と書かれた扇を見せびらかし、怪長が胸を張る。


「安心したまえ、諸君。それこそ私がPRすれば、有能な新戦力がわんさか訪れるはずだ」


 全員が怪長を無言で見てから、溜め息を吐く。


「無理だな」

「ああ、無理だ」

「どだい夢物語なんだよな」

「新入生達の呆れ顔が今から目に浮かぶぜ」

「私、その日はサボるわ。赤っ恥かきたくないし」

「あ、あたしもー」


 …いかん。

 このままでは堂々巡りだ。

 俺は考え込んでいる副会長を見やった。


「副会長、何かいい方法は無いですかね?」


「心配するな、打本。私がいれば…」


「だから、怪長は少し黙っていてください!」


 俺がそういうと、怪長は再びぶうたれたように横を向く。

 副会長は、おもむろに口を開いた。


「…一つだけ方法がある」


「マジっすか!?」


 俺をはじめ、役員達が副会長に注目した。


「…というか、これしかない。いささか問題がある方法ではあるが、全ては生徒会の未来のためだ」


 そこで怪長を外し、副会長が明かした方法は、紆余曲折の後、何とか満場一致で可決された。



 それから数日後。


「…ということで、当生徒会は新入生の皆さんの入会を待っています。以上で、生徒会の紹介を終わりとさせていただきます」


 体育館の新入生説明会。

 そう()()()がマイクで述べると、パチパチと新入生達から拍手が上がった。

 とりあえず、ホッとする俺達。

 さすがは副会長、新入生達の反応は上々だ。


「お疲れさまっす、副会長」


 俺の労いの言葉に、笑顔を見せる副会長。


「ああ。これも皆の協力の賜物だ」


「…でも、良かったんっすか、これで?」


 その一言に、副会長は苦悩の表情を浮かべた。


「言うな。全ては生徒会の未来のためだ」


 そう言うと、俺達は生徒会室に向かった。

 周囲に誰もいないことを確認し、中に入る。

 中には男女一組の生徒会役員がいて、俺達の姿を見ると、敬礼した。


「経過はどうだ?」


「はい。異常無しです。()は何の疑いもなくカウントを継続中です」


 同時に「資料室」と書かれた隣室のドアの中から、声が聞こえてくる。


「ごひゃくじゅうろく、ごひゃくじゅうなな…もーいーかい?」


 施錠されたドアの向こうから、怪長の声が聞こえてくる。


「「「「まーだだよ」」」」


 俺達の声がそうハモりつつ答える。


「まだかー…仕方がないな、ええと、ごひゃくじゅうはち、ごひゃくじゅうきゅう…」


 と、再び数え始める怪長。


 全ては副会長の作戦だ。

 新入生説明会が始まる直前に「オール生徒会役員かくれんぼ大会」をでっち上げる。

 案の定、まんまと乗ってきた怪長を鬼にして数を数えさせ、その隙に副会長が説明会で代行でPRを行う。

 無論、万が一に備えて、ドアには気付かれないように施錠もしてある。


 普通なら、こんな陳腐な手に引っ掛かる奴なんているわけがないが、そこに引っ掛かるのが怪長だ。

 怪長のポンコツ具合をよく把握している、副会長ならではの見事な封殺作戦である。


「…で」


 俺は副会長を見た。


「この後、どうするんっすか?」


 副会長は諦めたように言った。


「やるしかないな、かくれんぼを」


 閉ざされたドアの施錠を解く副会長。

 そして、俺達を見やる。


「役員各位に通達。『怪長()は放たれる。全員本気で隠れろ』…以上だ」


 俺達は全員で溜め息を吐いた。

 やりたくはないが、ウソをホントにしとかないと、怪長がぶんむくれるのは火を見るより明らかだ。


「もーいーかい?」


 何も知らない怪長の無邪気な声が聞こえてくる

 やれやれ…

 超いまさらだけど、俺、何で生徒会(ここ)に入っちゃったんだろう…

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― 新着の感想 ―
[一言] 「こ、これが我ら妖怪の代表者なのかー」です。
[一言] 最初の感想がこんなんでスイマセンm(_ _)m 5/19に読んだ記憶があるのは 怪長のせいでしょうか? ワタシがリアルヤバイコトになっているのでしょうか?(((;°Д°;))))
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