百五十八話 「か細くて、強い声」
今回の一人称は「僕」です。
すすり泣く声が聞こえてきた。
僕の手は自然と動く。新聞紙をぐるぐると巻いて剣を作る。
それを持てば、僕はどこへでも行けるから。
苦しみをなくしにいこう。
変なやつがこっちにきたぞ。急いで山の方へ逃げろー。
たどり着いたのは、誰かの涙が生まれたところ。
それ以上の意味は僕に必要ない。
剣の柄を持つ手に力をいれ、騒ぎの中心に行った。
剣は、刀身が水色のものにがらりと変わっている。
そこには肌が灰色の鬼がいた。
涙を流しながら、こっちに向かってきていた。
なぜ今恐れられている子が泣いているのだろう。
よく見るとまだ子どものようだ。
あの声は、この子のものだったのだろうか?
僕はゆっくりと剣を小鬼に向けた。
この剣は守りの剣だ。
何かを傷つける力はない。
切るのではなく、〝癒やす〟ことができる剣だ。
ただ今苦しむものにしか効果を発揮しない。
僕は、小鬼に近づいていく。
「あの、おっおれは、なにも⋯⋯」
小鬼は、さらに涙を流した。
「倒しにきたんじゃないよ」と僕は声をかけた。
「助けにきたから」とさらに言葉を届けた。
ゆっくりと剣先を小鬼の身体に当てた。
触れても痛みはでないようできている。
小鬼のお腹から三原色の粒が次々とあふれていく。
小鬼は僕の言葉を聞いて、にこっと笑った。
僕の言葉を疑うことなく信じてくれた。
僕は空を見上げ、また耳を澄ましたのだった。
お読み頂きありがとうございます。
楽しんでもらえますように。