ドーナツの向こうがわ
こんちには、星野紗奈です(*'ω'*)
今年はちゃんとスタンバってたので、無事冬の童話祭に参加できました(笑)
でもなんで私こんな作品描いたんだ……? 投稿するに至って「これは童話でいいのか?」と微妙な気持ちになったので、もしかしたらもう一本あげるかもしれません。まだ未定ですが。
まあそれはさておき、2000字程度の短いお話ではありますが、お楽しみいただければと思います。
それでは、どうぞ↓
「ねぇ、ママ。ドーナツの向こうには何があるのかな」
サラはおちゃめに首をかしげながらそう聞いた。ママは子供の突拍子もない質問に驚いて「さぁねぇ」と言葉を漏らしながら、ドーナツをのせた皿をテーブルに運んできた。
「でも、ドーナツの穴をのぞけば向こう側が見えるじゃない? サラが考えてるのはそれじゃないの?」
サラはふむ、と一度考え込んで、「多分違うと思う」と言った。
「サラはね、ドーナツの向こうがわにはね、ドーナツの国があるんじゃないかなって思うの」
それを聞いたママは、「それは素敵な国ねぇ」と言いながらくすりと笑った。
「ねぇママ、今から探してきてもいい?」
「ドーナツの国を? いいわよ、気をつけて行ってらっしゃい」
サラはとても喜び、皿からドーナツを一つひったくって、飛び跳ねるように家を出た。
サラはまず、学校をのぞきに行った。もしかしたらまだ誰かいるかも、と思ったのだ。適当に整備された草の隙間からひょっこり目だけを出してみると、やっぱり誰かがいた。サラはドーナツを構えてのぞき込んだ。
すると、女の子が泣いているのが見えた。それは、えんえんというよりはしくしくという感じだった。サラは、かがみこんで泣いている女の子の足元に一輪の花を見つけた。女の子の涙は頬をつたい、花びらへぽつりと落ちた。するとなんだか、花がとっても元気になったように見えた。女の子はまだしくしく泣いているけど、花はますます元気になって、ふわふわしたピンク色のオーラが見えるようだった。
ドーナツを目からはずして、面白いものが見られたとサラはとても興奮した。でも、その興味はすぐに別のものに移り変わってしまった。だって、女の子はまだしくしく泣いているのに、周りの大人は彼女をちらりと見るばかりで、全然慰めようとしないのだ。
サラは女の子にドーナツをあげようかと思ったけれど、サラの探しものはまだ終わってないから、と考えた。別に、ごめんとは思わなかった。もしかしたらあの人たちも、サラと同じ気持ちだったのかもしれない。サラは黙ってその場を離れ、ドーナツの国探しを再開した。
次にサラが向かったのは、ユノの家だった。ユノはサラととても仲がいいから、一緒にドーナツの国を探せたら楽しいだろうなぁと、サラはとてもわくわくしていた。
でも、サラはユノを誘えなかった。だって、ユノはお母さんと喧嘩をしていたから。話を聞いてみるに、ユノが猫を連れてきたことに対してお母さんが怒っているらしい。確かに、二人の間には一匹の三毛猫がいる。
サラはドーナツの穴から猫をこっそりのぞいて見た。すると、二人の喧嘩なんかどうでもいいという感じだった。二人が喧嘩をしている原因は猫なのに、猫は自分は関係ないとでもいうかのようにのんきにあくびをしていた。でも、サラにとってそれは面白いことだった。
しばらくすると、猫はあくびするのをやめて、むったりと口を閉じた。その様子は、少し怪しげにも見える。そんなことを考えていると、猫の毛の模様がぐるぐると渦を巻いて、白や黒、さらにはもっとカラフルに、ちかちかと変わりだしたような気がした。サラは、不思議の国のアリスに出てくるチェシャ猫はこんな感じなのかも、とますます面白くなった。
でも、なぜか突然、ふっと興味が失せた。理由はわからない。だけど、あんなに面白かった猫の存在が、本当に突拍子もなく、ただ色や模様を変えるしか芸のない、とてもつまらないものに思えてしまったのだ。その印象は、ドーナツをはずして見ても変わらなかった。サラは諦めて、別の場所へ行くことにした。
サラが最後にやってきたのは、家の近くの公園だった。サラはさっそくドーナツを右目に装着して、ドーナツの向こうがわを眺めた。
目に入ったのは、公園の砂場で遊んでいる男の子だった。でもドーナツの穴からのぞいているサラには、彼が街を壊す怪獣のように見えた。砂場に建てられた沢山の建物が、男の子によってずんずんと踏み潰されていく。きっとその下では多くの人々が逃げ惑っていることだろう。
そんな想像をしていたら、なんだかだんだん怖くなってきて、今度はドーナツを外して見てみる。すると、男の子は全然怖くなかった。少し離れたところには、彼のお母さんがいる。でも、彼女は他のお母さんたちと話をしているようで、男の子の方はちっとも見向きもしない。それでも男の子は、ただ黙々と砂を盛り上げるのだった。
なんだかつまらないなぁと思って、サラはドーナツを空に向けて穴をのぞいた。赤い夕焼けが一面に広がっていて、それがなんだかとても変な感じがした。とても綺麗な景色なのに、世界がごうごう燃えているみたいだなぁと思ったのだ。それと同時に、サラは急いで帰らなければならないような気持ちになった。
「あら、おかえり。ドーナツの向こう側は見つかったの?」
そう声をかけてきたママは、夜ご飯のコロッケを揚げている最中のようだ。いい匂いが家の中いっぱいに広がっていて、さっきまでの変な気持ちが吹き飛んだ。ママの質問に大きく頷いたサラは、はきはきとこう答えた。
「ドーナツの向こうがわにはね、やっぱりドーナツの国があったよ!」
最後までお読みいただき、ありがとうございました!!