竜退治に来たはずなのに
死ぬじゃん、これ。
そう思うよね。この光景見ればさ。
だってさ、目の前には竜がおるんだ。
漆黒の鱗を纏った、真紅の双眸の巨体な竜。
巨体ってどのくらいかっていうと、○京タワーを横にしたくらいかな。
なんで私が竜の前なんかにいるのかっていうと、王に竜の討伐よろしくー、って送り出されたからだ。
くっそ。
おい国王、お前私を捨て駒にしたろ。
私一応宰相だぞ!?
国家の頭脳たる私をなんだと思ってんだ!
抗議はしたよ!
だけどあいつ聞き入れないんだもん!
いくら私が強いとはいってもさ、限度があるわけですよ、限度が。
たしかに危険度Aの亜龍討伐から始まり、危険度SSの今の職場で頑張ってたさ。
宰相って職業はブラックだったよ。
過去の私に教えてやりたい。
まだ冒険者ギルドに加入して暴れてた時期の方がマシだったわ。
さてさて、どうするかなー。
意思疎通はできるかな?
「言葉、わかります?」
「グギヤァァァァ!」
無理ですた。
チッ。
言葉が通じれば、平和的解決法はあったのに。
あの国王のいいなりになるのはシャクだが、倒して素材を持ち帰るしかないのか。
えー、死ぬのはやだー。
まあ、頑張るか。
私は竜に向かって魔法を行使する。
なんか効きそうだから、氷魔法を。
見た目からして火竜じゃないの?
至近距離から放たれた魔法は、見事竜にヒットした。
でも効いてないな、これ。
竜は何事もなかったかのように、そこにいた。
というか、襲ってこないだけ優しいわな。
私だったら目の前に来られた時点で、
相手をスレイヤーするわ。
あ、これって鱗だけ剥がしても文句言われないんじゃね?
よし、思い立ったら即行動だ。
私は手にしていた剣で鱗を削ぐ。
竜は何も言わない。
いやー、寛大だ。
鱗の収集が終わった。
「いやー、死ぬかと思ったけど割りのいい仕事でよかった」
結局竜は最後まで何もしなかった。
コイツ何のためにいたんだ。
神話級の危険度を誇っているはずなのに。
そういや、私を転生させた神も神話に出ていたはずだけど、顔も名前も思い出せないや。
まあいいか。
「ぐっばーい」
そう言って私は竜の元を去ろうと背を向けた。
ん?
なんか背後から、ジュワジュワって変な音が聞こえてくるんだけど。
振り向く。
するとさっきまで竜がいた場所には、女の子が立っていた。
なぜだにゃ。
女の子は私をじっと見つめている。
私は見なかったことにして、立ち去ろうとしたんだけどなー。
付いてくるわ、付いてくる。
無視し続けると炎を吐いてきた。
文字通り吐いてきたよ。
あれは竜がやるからカッコいいんだ。
女の子がやってたらなんかやだ。
炎を避けながら王国に帰ると、国王(外道)が私を出迎えてくれた。
「よくぞ竜を退治してくれた。褒美を取らせよう」
いや、私倒してねーし。
ここにいるし。
女の子がいることに誰も疑問を持たない。怖っ。
「じゃあ休みをください」
「いいぞ、休め休め。私もめんどくさいのいなくなって気が楽だから」
おい、本音でてんぞ。
休みをもらったヒャッホイ!
さて、この女の子どうすっか。
「何者だ。なぜ私についてくる」
そう問いかけると、少女は答えた。
「君の救いになりたくて」
私の休みの取得のために、何もして来なかったのかな?
ありがたやー。
でも今の声、どっかで聞いたような気がするな。
「本当にありがとう」
そう私が言うと、少女は笑みを浮かべながら竜に戻り、何処かへ消えた。
なんだったんだろ。