６話 １番セカンド・松平 俊（右投げ左打）
９番の小松がヒットを打ったことで、松平のテンションが俄然高まった。
田安のアドバイスに間違いはない。ならば俺にだってできる！
２，３度素振りをしてから左打席に立つ松平。
彼は最初から決めていた。
───俺は初球から狙う！
１番バッターである彼の持ち味は、積極果敢にボールに立ち向かってゆく所。
逆に追い込まれると、一気に消極的になってしまう欠点もある。
前回までの打席もそうやって打ちとられた。
───羽柴の初球は必ずストライクから入るはず。しかもストレート。
松平が自信満々にそう考えるにはしっかりした根拠がある。
ピッチャーの羽柴にしてみれば、青春台高校など、所詮格下のチーム。
そんなチームに対して、ボールから探ることなどあり得ない。
まして、予想外にもランナーを二人出してしまい、早くアウトを取りたいはず。
小松はヤツのスライダーをヒットした。
だから俺には絶対、自信のあるストレートを投げてくる。
───羽柴だろうが誰だろうが、同じ年の高校生じゃねぇか！
気合いのある方が勝つ！
松平の闘志は１秒ごとに、その激しさを増していった。
羽柴がセットポジションに入る。口元がキュッと締まった。
───よしっ！ズバリストレートだ！
羽柴の手からボールが放たれた。
剛速球が唸りを上げて松平に襲いかかる。
───上から叩くんだ！
自分自身にそう言い聞かせて打ちにいった松平。
“カキーン！”
実況：センター返しーー！ピッチャーの足元を抜けたぁぁぁ！
「やったぜ！センター前だっ！」
ファーストに走りながら松平の顔に輝きが増す。と、その時。
実況：セカンド今川がベースの後ろで飛びついたー！
「なにぃ！！？」
実況：捕った捕った！そのまま倒れながらショートの武田にトスしてセカンドフォースアウトー！
「俺もヤバい！」
元より全疾走の松平。
実況：ボールはショートからファーストへ転送ー！
「セーフセーフ！」
ファーストの判定はセーフ。間一髪、松平俊の足が速く、ダブルプレーは免れた。
これで、一死１，３塁。
「くっそぉ！あれが抜けていれば…」
ベース上で悔しがる松平。
それをなだめる田安。彼は１塁横のコーチボックスで待機していた。
「仕方ないさ。相手は名門・美徳館。守備は鍛え抜かれてるんだし」
「それにしてもよぉ…」
「ナイスバッティングだったよ。見てみろ。ピッチャーの羽柴の顔」
「ん？」
羽柴の顔には完全に余裕が消えていた。
勝ち負けの問題ではない。こんな地方予選で無名のチームに打たれたショックの方が大きかったのだ。
「俺のストレートを弾き返しやがった…」
その時、ベンチの土方監督は思った。
「こいつはひょっとすると…イケるかもしれない」
まだ１０点差があるにも関わらず、土方にはなぜかそんな予感がするのだった。
（続く）
