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34話 引退の裏事情

「君にわかるかな?高藤は奥さんを愛してるからこそ、引退を決意したんだよ。クルミさんの面倒を見るのは自分しかいないってね。他の誰にも彼女の世話はさせたくなかったのさ」

「う〜ん…」

 田安の言っていることはわかるが、今一つ腑に落ちない東郷。

「すみません。確かにそう聞くと、夫婦の愛情の深さは感じますけど…」

「けど何だね?」

「あの…こんなこと僕が言うのも無礼で申し訳ないんですが、高藤選手は自分の償いのために奥さんと結婚したんじゃないかと…」

 それを聞いた田安の眼光が鋭くなった。

「なるほど。君はそう思ったのか。責任感の強い高藤がクルミさんの片目を失明させた罪の償いのために、仕方なく結婚したと?」

「いや…そんな仕方なくっていうんじゃなくて…その…愛情よりもそっちの意識が高かったのかなぁって…」

「ほぉ〜」

 田安を怒らせてしまったかもしれないと、焦り始める東郷。

「す、すいません。僕の勝手な推測で好き勝手なことを言ってしまって…。失礼の談、どうかお許し下さい」

 東郷は直立の態勢から、何度も田安に頭を下げた。

「いや、いいんだ。そう思うのも当然だ。それは高藤も予想済みだったんだ」

「えっ?」

「高藤の引退の真相が知れたらマスコミ関係者も含めて、世間は皆そう思うだろう。もし仮にそうなったらどうなると思う?」

「どうなるって…その…きっと高藤選手にはまだ余力が残ってるんだろうと……あ!」

「わかったようだね?クルミさんは益々自分を責めるようになる。自分が高藤と結婚しなければ、彼は野球をもっと続けていたのにとね」

「え、ええ。確かに…」

「高藤は断じてそれを嫌った。だから彼はシーズンが終わってから、静かに引退したのさ。派手な引退セレモニーをするとマスコミに注目される。奥さんのこともバレる」

「はい…」

「最初は美談として語られるかもしれない。だが世間の目も厳しい。逆に奥さんがやり玉に挙げられる可能性が高い」

「そんなことは…」

「いや、ある!君がさっき言ったように、高藤があと3年はプレイできると思ってるファンにしてみれば、奥さんの一件を良く思わない人間も必ず出てくる。人間は十人十色なんだよ東郷くん」

「はぁ…」

「高藤はクルミさんを追い詰めたくなかった。ほんの少しも傷つけたくなかった。彼女をとにかく守りたかったんだ」

 言葉の出ない東郷。だがそれは単に呆然としていたわけではなく、田安の話に自分の間違った解釈を恥じ、申し訳ない気持ちでいっぱいになっていたのだ。

「監督…本当にすみませんでした。僕、なんてことを…」

 田安の目からはすでに鋭さは消えていた。そして優しい口調で東郷に語りかける。

「いいんだもう。記者であり、高藤ファンの君にさえわかってもらえたらそれで…それに何より、私も君と同じことを思ったことがあってね。奴に問いただしたことがあるんだ」

「ええっ?それはいつですか?」

「あいつが私に彼女と結婚するって報告に来たときさ。彼女に責任を持って報いる事はいい。でも、それと愛情をごっちゃにしてないか?ってね」

「…そ、それで?」

「( ̄ー ̄)フフフ…あいつはきっぱりこう言ったよ」

 真剣な眼差しで田安の言葉に耳を傾けている東郷であった。




 ───旭市ロイヤルプリンスホテルの一室にて

 

 田安が極秘で企画してくれた引退セレモニーを終え、ホテルに着いた高藤夫妻。

 部屋はすでに田安の計らいでツインルームを予約されていた。

 ゆっくりとした時間の中で夫婦水入らずのディナーを済ませ、この日の夜もすでに11時半。高藤雄一と妻・クルミはすでにベッドの中。

 静かな寝息のクルミの横顔をそっと見ていると、なぜだか自然に思い出されて来たのが、彼女との結婚を決意した日のこと。

 そう、それがまさにプロポーズをした日……

 彼の思いは今から19年前にさかのぼって行く。。。

                          (続く)

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