25話 激戦の結末
///|1|2|3|4|5|6|7|8|9|計
美徳館|0|3|2|0|2|0|0|3|4|14
青春台|0|0|0|0|1|0|0|3|9|13
打たれた球の行方を呆然と見送る羽柴。
───そんなバカな…
高藤の当たりにスタンドが総立ちとなる。
青春台高校の会議室で戦況を見守る職員たちや、自宅療養中の島津も全員、身を乗り出してテレビに釘付けになっていた。
予め深く守っていたセンター・長尾が更に背走する。その先はもうフェンス。
実況:飛距離は充分!センターもあきらめ……えっ?
ここで驚くべきことが起きた。
フェンスにぶつかりそうになったセンター・長尾。
彼は2メートル半の高さはあるフェンスに両手をかけ、けんすいで体を持ち上げ、足をかけてよじ登ったのだ。
だがフェンスの幅はわずか5センチほど。長くは立っていられない。しかも長尾の体は背面を向いたままで、首だけがボールの行方を追っていた。
───ダメだ。まだボールに届かない…もう考える時間はない!
瞬時に決断した長尾。雄たけびと共に体が飛ぶ。
「ぬおおおぉぉぉぉ!!」
実況:なんと長尾!そこからジャーーーンプッ!
思いきりバックハンドで腕を伸ばす長尾。
手の先はもう地上から5メートル以上の高さはある。
────ー頼む!グラブに入ってくれーー!
執念のプレイが通じたのか、ボールがかろうじて長尾のグラブの網に引っ掛かった。
実況:危ないっ!
実況アナウンサーがそう叫ぶのは無理もなかった。
あの高さから落ちると間違いなく大ケガ。骨折しても不思議ではないからだ。
「長尾ーーーっ!」
彼の執念に感動して羽柴が叫ぶ。
幸か不幸か長尾は再び、幅の狭いフェンスの真上へ着地した。
だが、そこで大幅に体のバランスを崩す。
「うわぁぁぁ!!」
実況:長尾の上体が前後に揺れている〜〜!
この試合、まさに究極の場面が訪れた。
長尾がフェンスの外に落ちたら、青春台高校の逆転サヨナラ満塁ホームラン。
だが、グランド側に落ちれば美徳館学園の1点差逃げ切り勝利。
どちらの結果にせよ、この試合はついに終焉を迎えるのである。
「うわぁぁぁ!!」
────ドサッ!!
長尾の体が背中から地面に落ちた。グランド側である。
「やったぞ羽柴!俺達の勝ちだ!」
キャッチャー・明智がマウンドまで来て叫んだ。
「いや、まだわからない。長尾のグラブからボールがこぼれていたら…」
羽柴の言う通りである。
グランドにうずくまり起き上がることができない長尾。
セカンドの塁審がセンターへ急ぎ駆けつける。
もちろん、ボールがグラブにおさまっていれば美徳館の勝利。
だが、ボールがグラブからこぼれていたとしたら、すでにセカンドランナーもホームインしている青春台高校の逆転勝ちになるのだ。
審判が倒れて動かない長尾のグラブを確認する。
そして判定のとき───
「アウトォォォー!」
その瞬間、静まり返ったスタンドが一気に地響きのような大歓声に変わった。
「ゲームセットォォ!!」
主審がスタンドに負けないくらいの大きな声で試合終了を宣言する。
セカンドベース手前まで走っていた高藤は呆然と立ち尽くしていた。
そしてセンター方向を見つめながらボソッと呟いた。
「…あ〜あ、負けちゃった。。」
ライトとレフトに起こされ、両脇に抱えられながら整列へと向かう長尾。
その姿を見ていると、不思議と高藤の心から悔しさは生まれて来なかった。
(続く)