20話 運は勝機へ
「木戸、走れーーっ!!」
高藤がネクストバッターボックスから大声で叫んだ。
「あっ!」
瞬間的に木戸が後ろを振り向くと、キャッチャーが慌ててマスクを外してバックネットに走りかけていた。
「急げ木戸っ!全力で走れーー!」
「お、おうっ!」
実況:ワイルドピッチ〜!キャッチャーがボールを後ろに大きくそらしていたぁぁ〜!
なんと、振り逃げである。
明らかにバッターは三振しているものの、ワンバウンドした変化球をキャッチャーが捕球できずに弾いていたのだ。
ファーストへ全力疾走の木戸。ボールを追うキャッチャーの明智。
実況:キャッチャーがボールに追いついて、そのまま1塁へ送球…
「やめろ明智!もう間に合わない!」
石山が大きなジェスチャーで制止する。
万が一、キャッチャーの明智が暴投した場合、セカンドランナーが一気にホームに返って来るのを恐れたのである。
実況:投げない投げない!キャッチャー思いとどまったーーっ!
ヘッドスライディングの木戸。1塁はゆうゆうセーフ。
前代未聞!試合を左右する重要な局面で、振り逃げによる出塁が成立したのである。
実況:大変なことになりました。勝負の行方がまだまだわかりません。
試合はついにクライマックスを迎えようとしていた。
得点14−13のわずか1点差。
ツーアウト満塁でバッターは願ってもない高藤雄一。
この試合最大のヤマ場と言っても過言ではない。
青春台高校は絶体絶命のピンチから一転、一打逆転サヨナラの大チャンスを迎えたのである。
スタンドは地響きのような声援と拍手が鳴りやまずにいた。
「これで間違いなく勝てる〜!ここで高藤なら勝利は100%決まりだ〜!」
喜びに沸く青春台応援団。
気合を入れて素振りを2,3度する高藤。
そのとき、ライトを守っていた羽柴が小走りで内野へ向かっているのが見えた。
高藤の顔がキュッと引き締まる。
「そうか…やはりそう来たか」
場内アナウンスが流れ、再び羽柴がマウンドへ上がるコールがなされた。
“ピッチャー・石山君に代って、羽柴君。石山君はそのままライトに入ります”
美徳館応援団の大声援が沸き起こる。
両陣営、観客も含めて熱気に包まれる球場内。
いよいよ試合は事実上の大詰め。
プロのスカウトも注目するほどの実力を持つ羽柴と高藤。
この二人が、ファイナル対決の幕を明けようとしていた。
(続く)