19話 青春台高校万事休す?
///|1|2|3|4|5|6|7|8|9|計
美徳館|0|3|2|0|2|0|0|3|4|14
青春台|0|0|0|0|1|0|0|3|9|13
マウンド上に集まる美徳館学園内野陣。
1点差に詰め寄られたまさかの展開の中、平常心を取り戻すべく、チームメイトで気を引き締め合う。
「大丈夫だ石山。お前の球がシンで捕らえられてるわけじゃない」
「そうだ。あと一人、バッターに集中すればいいんだ」
「バッターの方がプレッシャーが大きいはずだ。この3番で終わらせようぜ」
チームメイトの言葉ひとつひとつに頷く石山。
「あぁ、わかった。みんなサンキュ」
こうして再びグランドに散った内野陣。
石山も気合いを入れ直し、ロージンバックにゆっくり手をかける。
───そうさ…こいつさえ抑えればランナーなんて関係ないんだ。
青春台の3番バッター・木戸はプレッシャーでガチガチになっていた。
気が強くてプラス思考の彼でさえ、前回スリーベースヒットを打ったにも関わらず、まるで別人。バットを握る手が震えている。
一球目。カーブに中途半端なハーフスイング。カウント1−0。
完全に雰囲気に呑まれている。ものすごい重圧が彼にのしかかる。
今まで経験のないプレッシャー。呼吸困難なほどの緊張。
前打席は、ダメ元で望んだ打席だから、気分的にも伸び伸び打てた。
だが今回は1点差の緊迫する場面。期待を一心に背負った重要な役割が、全て自分に課せられたのだ。
───くそぉ…なんとか高藤に繋げなきゃ。。
木戸の鼓動は激しさを増すばかり。頬も紅潮し、震えは足元まで達していた。
一方、青春台高校会議室────
すでに教員と一部の生徒も合わせて、30人以上がこの部屋の大画面テレビに釘付け状態になっていた。
にも関わらず、誰ひとり声もあげずにかたずを呑んで試合を見守っている。
そんな中、体育教師の小栗先生が一言呟いた。
「全てはこの木戸次第か…」
この言葉に数人がゴクッと生つばを飲んだ。
ピッチャー石山の投げる一球一球に、テレビを観ている側も同様に力が入る。
そして木戸へ投じた四球目…
“カキ――ン!!”
実況:カーブを引っ張ったーーーっ!が、3塁線切れたぁぁー!ファールファール!
天を仰いで悔しがる木戸。
「くそっ!あれが切れなかったら…」
カウント2−2。並行カウントだが、追い込まれたとも言える。
明らかに焦りの見えるバッターボックスの木戸。
───ちくしょう…だがこれでもうカーブは投げないはず…
バッターボックスで大きく深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる木戸。
再びバットを構えて冷静に次の球を予想する。
───ここは大ヤマを張るしかない!
そう大胆に決意した木戸。
普通、このような場面のバッターは、どんな球にも対応できるように心構えをしなければならない。なのに木戸はそれをあえてしなかった。
その理由は、彼自身のプライドがそうさせたのかもしれない。
───決め打ちしないと、中途半端なバッティングしかできない!
まさに一か八かの大きな賭けであった。
『次は絶対にストレートだっ!』
最後の勝負に出た木戸晴信。
ピッチャーの石山がセットポジションからモーションに入った。
「さ、来いっ!」
実況:ピッチャー石山、第5球投げました!
低目にコントロールされた速球が木戸に向かって挑んでくる。
───ズバリ!ストレートだ!
木戸のバットが打ちにかかる。
───よしっ!もらった!!
そのときだった。
まさにバットがボールを捕らえようとする寸前、ストーンとバットの下を掻い潜るようにボールが落ちた。
“ブーーン!!”
実況:木戸のバットが空を切ったぁぁーー!
「しまったぁぁ!まさかシンカーがあるとは・・・」
実況:空振り三振!試合終了〜〜!!
果たして、青春台の奇跡は本当にこれで潰えたのか?
(続く)