表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/40

17話 島津の願い

「田安…気おくれするな。思いっきり行くんだ。。」


 ここに、自宅から野球中継を観ているひとりの少年がいた。

 彼は島津光しまずひかる。青春台高校野球部のレギュラーだった男。

 だが交通事故で足を複雑骨折してからは、退院後も自宅でリハビリ生活をしていた。

 そんな彼に代ってレギュラーの座が舞い込んで来たのが田安ということになる。


 むろん島津としては、3年生最後の年に野球ができない悔しさは感じてはいたが、田安に恨みや憎しみなど毛頭ない。

 なのに田安は、島津が入院したばかりの頃、見舞いに来るなり頭を下げた。

「ごめん島津」

 ベッドから上半身だけ身を起してキョトンとする島津。

「何でお前が謝るんだよ?お前は俺の事故と関係ないだろ」

「それはそうだけど…俺が島津からレギュラーを奪ってしまうことになるから…」

「おいおい。そんなこと気にしてんのか?」 

「あぁ…ちょっと」

 島津はベッドの脇に立っていた田安の肩をポンと叩く。

「バカだな。それは見当違いさ。確かに今度の大会を棒に振る悔しさはあるけど、だからってお前が憎たらしいなんて、これっぽっちも思ってないぞ」

 それでも田安は浮かない顔をしていた。

「田安。お前が気にすることじゃない。それでさえ、うちの野球は人数がギリギリなんだ。お前がレギュラーにならなきゃ誰がするんだ?」

「…そうかもしれないけど…自分で勝ち取ったレギュラーじゃないし…単なる棚ボタに過ぎないと思うと。。」

「だったらこれから猛練習すればいい。レギュラーにふさわしくなればいいんだ」

「……」

「事故ったのは俺の不注意。レギュラーになれたのはお前の運。決して無駄にするな」

「島津…」


 こうした出来事があってから一月後、再び田安は島津のいる病院へやって来た。

「すまん島津…」

「なんだよ。また謝るのか?(⌒-⌒;今度は何だ?」

 まるで目上の人にするような深々としたお辞儀をする田安。

「実は…レギュラーを高藤に譲ったんだ」

「Σ( ̄□ ̄;ええっ?あいつがうちの弱小野球部に入ったのか?」

「あぁ」

「でも、俺が事故る前にあいつに聞いたら、野球はもうやらないって言ってたぞ?」

「うん。最初はそう言われた。でも交渉したんだ。ずっと今までかかって」

「なんでそんなマネを…?」

「だってよ、最後の夏なんだぞ。俺たちは青春台の最後の卒業生でもあるんだ」

「そりゃわかるさ」

「だから最後に少しでも上を目指したくなったんだ」

「上を?」

「あぁ。いつものメンバーならそんなこと思わない。でも、何の奇跡か知らないけど、高藤っていうスーパースターが転校して来たんだ」

「でもあいつ一人が野球するわけじゃないんだぞ。それにあいつはバッター。ピッチャーならまだしも」

「それもわかってる。でも少しでも上を目指すチャンスがあると思うんだ。マスコミも学校のまわりをチョロチョロしてるんだ」

「高藤を密着してるってことか?」

「たぶん。日の目を見ない俺たち野球部も、全国から注目されるかもしれないし」

「弱くてもか?」

「弱くてもさ。高藤を入部させればうちの野球部は注目される」

「でもそれって、かなりのプレッシャーがついて回るぞ?」

「それは覚悟の上さ。メンバーもみんな納得してる」


 島津はふと首をかしげた。

「田安、お前自身は本当にそれでいいのか?補欠になるってことだぞ」

「実力から言えば当然のこと。納得してる」

「しかしなぁ…」

「俺は大丈夫。俺は俺なりに自分のやれることを見つけたんだ」

「ん?なんだそりゃ?」

 ちょっとだけ照れくさそうに頭をかく田安。

「カッコ良く言えば、先のりスコアラーみたいなことさ」

「ほほう…つまり偵察か?」

「うん。俺なりに相手校を視察して、データを収集しながら少しでもチームの役に立てる努力をするつもりだ」

 こんな田安の謙虚な姿勢に、島津は心を打たれた。

「…お前ってやつは…ホントいい奴なんだな」

「アハハ…今頃わかった?」

「(ノ__)ノコケッ!」



 自宅のテレビに田安が代打で登場する姿を観ている島津。

 胸には何か熱いものが込み上げてくるのを感じる。

「田安…お前ならやれる!」


 つい昨日の話。田安は島津の自宅を訪ね、相手校・美徳館の極秘事項をわざわざ教えに来てくれていた。

「俺、エース・羽柴の投球のクセを見つけたんだ」

 突然の話に目を丸くした島津。

「もしそれが本当なら、すごい発見だけどなぁ」

「でも問題は、羽柴が登板してくれるかどうかなんだ」

「あぁ…そうだな。あいつは予選ではあまり投げないからな」

「うん…そこなんだよ。まさかこんなに早く当たるとは思ってなかったし」

「こればっかりは、運を天に任せるしかないよな…」


 こんな結論の出ない会話をしていた昨日の今日。

 その運は9回裏ギリギリにやって来た。

 島津は思う。これだけの猛反撃は明らかに田安の手柄。あいつの見えない超ファインプレーだと。万が一勝てたらMVPは田安しかいないと。

「頑張れ田安!」


 だが、ピッチャーは3番手の石山。球種の判断などつかない。

 この重大な局面、田安の心中やいかに…

 そして彼はどんなバッティングをするのか…

                  (続く)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ