16話 ピンチヒッター・田安
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美徳館|0|3|2|0|2|0|0|3|4|14
青春台|0|0|0|0|1|0|0|3|8|12
「田安、堂々と胸張って行って来い!」
「は…はいっ!」
極度の緊張の中、土方監督にハッパをかけられる田安基。
その歩く姿は、右手と右足、左手と左足が同時に出ている。
「おい田安、バットを忘れるな」
「あ…(^_^;)」
場内アナウンスが流れる。
“2番、近衛君に代わりまして、ピンチヒッター田安君”
2点差に詰め寄り、同点のランナーも出塁している大事な場面。
ここで補欠の田安を代打に使わなければならない事態が起こった。
打順が巡って来た近衛守がベンチから立ち上がれないでいたのだ。
「くっそおぉ…いてぇぇ…」
激痛に顔が歪む近衛。
チームメイトが駆け寄り、近衛のユニフォームの足元をめくる。
「うわっ!なんだこの腫れは?」
「ヤベェぞ。こりゃ骨が折れてるか、ヒビが入ってるかもしれん」
その理由はまさに前打席の出来事。自打球が足に直撃したのが原因と思われる。
「ちくしょう…あのときはふくらはぎの方が痛かったのに…」
激痛と悔しさにベンチを叩く近衛。それをなだめる土方監督。
「いいんだ近衛。お前はよくやった。さっきはそんな足でランナーに出て、ホームまで返って来たじゃないか」
「ですけど…」
「お前は自分の役目を充分に果たした。係員を呼ぶからすぐに病院に行け」
「でも…」
「いいから行け!」
「すみません監督…本当にすみません」
こうして球場をあとにする近衛。担架に乗せられ球場の出口まで来ると、そこにはメグミが待っていた。
激痛をこらえながら、ひきつる笑顔でメグミを見る近衛守。
「メグにカッコ悪いとこ見せちゃってごめんな…」
すでに涙目のメグミ。
「ううん全然。守はカッコ良かったよ。あの羽柴からヒットも打った姿も、一生懸命走った姿も、どれも全てカッコ良かったよ!」
「そうか…ありがとな…」
「約束のキス、今する?」
「え?( ̄▽ ̄;)」
担架を抱えた係員が“ゴホン”とわざとらしい咳払いをした。
「メグ…人前だからそれはちょっと…(^_^;)」
「あ、そうだね(*^ - ^*)ゞごめん」
車に乗せられる近衛。彼が心配なメグミも一緒に付き添いたいと申し出る。
「メグはいいよ。球場に残って試合を最後まで観てくれ」
「ヤダよそんなの」
「頼むよ。そして俺に結果を教えに来てくれ」
「だからそんなのナンセンスなんだってば。ワンセグで観れるじゃん。ほら!」
メグミはケータイを取り出し、地方予選中継にチャンネルを合わせた。
「なんか俺、マヌケなこと言ったみたい…(^□^;A」
「いいからこれ観て。大事な場面だよ」
「あ、あぁ…」
近衛が目にしたワンセグ画面には、バッターボックスに立つ田安の姿が映っていた。
(続く)