15話 攻撃の波、守備のリズム
タイムをかけたのはセカンドの塁審だった。
「みんな守備に戻って戻って!まだ試合終了じゃないから!」
「…は?」
キョトンとする美徳館ナイン。
だが、セカンドの今川だけが、2塁ベース上で肩を落としてうなだれていた。
「一体どうしたんだ?」
塁審が簡潔に説明する。
「今のプレーはダブルプレーじゃない。2塁はセーフだ。私はアウトとは言ってない」
「!?工エエェ(゜〇゜ ;)ェエエ工!?」
驚いたのは青春台のベンチもそうだった。
何が起きたのかわからずにザワつくスタンド。
審判団が1分程の協議の上、主審がネット裏に備え付けの球場マイクで観客に説明することになった。
「え〜、今のプレーについてご説明致します」
かたずを飲んで聴き入るスタンドと両ベンチ。
「バッターの打った打球はショートゴロでした。それをセカンドに送球して、ベースカバーに入った2塁手が捕球した際、ベースを踏んでいませんでしたので、セカンドはセーフ。でもファーストはアウトです。よって、二死2,3塁から試合を続行します!」
(ノ゜ο゜)ノオオオオォォォォォォ-
スタンドはどよめきと拍手で異様なムードになっていた。
首の皮ひとつ繋がった青春台。
一方、美徳館の内野陣はマウンドに集まってセカンドの今川をなだめる。
「気にするな今川。次のバッターを抑えれば勝ちだ」
「す…すまんみんな。俺の凡ミスだ。これで試合が決まったと思った瞬間、つい焦ってしまって…」
「いいからもう言うな!次は締まって行くぞ!」
今川の焦りも無理のないことだった。
誰しも予想しない青春台の猛反撃。長い攻撃時間。美徳館にとっては長い守備時間。
しかもエースの羽柴がノックアウトされるという大珍事。早く試合を終わらせたい一心が、守備のリズムを狂わせたにすぎない。
試合が再開された。バッターは1番・松平。
前打席は鋭い当たりを、それこそセカンドの今川のファインプレーに阻まれた。
───俺が最後のバッターになるわけにはいかない!リベンジしてやる!
気合充分の松平。ランナーは二人。自分のワンヒットで2点入る絶好のチャンス。
大きな深呼吸のあと、ゆっくりとバッターボックスに入る。
そのとき松平はハッと気がついた。
───そうか!もし俺がここでホームランを打てば同点に追いつくんだ!よーし…
実況:ピッチャー・石山。慎重な面持ちで、打者の松平に第1球投げましたっ!
ボールはストレート。初球から打ちに出る松平。
”ブーン!”
「ストライーク!」
大きなアッパースイングの空振り。誰が見ても1発狙いだとわかるスイング。
それを見た土方監督がすかさず大声で支持を出す。
「そんな大振りはいらない。普段の自分のバッティングをしろ!」
「すみません…(^_^;)」
松平は監督の言葉に我に返る。
───俺はバカだった。気合いが入りすぎて冷静さに欠けていた。
改めて深呼吸をし直してバットを構える松平。
────ここは素直に俺らしく…
そして石山の第2球が投じられた。
大きく曲がって来る外角へのカーブ。コースはストライクゾーンだ。
脇をたたんで打ちに行く松平。
───コンパクトに打ち返せばいいんだっ!
“カキーン”
実況:三遊間ーー!サード飛びつくが捕れなーーい!次はショートも飛びつくーー!
「抜けろー!」
思わず叫びながら走る松平。
実況:ショートも捕れない!抜けた抜けたぁぁぁっ!
「やった!!やったぜ!」
実況:レフト前ヒーット!3塁ランナーホームイン!2塁ランナーはサードストップ!
まさに精神力で打った松平の一撃。
得点14−12。わずか2点差。尚もランナー二死1,3塁。
(続く)