14話 予想外の投手交代
///|1|2|3|4|5|6|7|8|9|計
美徳館|0|3|2|0|2|0|0|3|4|14
青春台|0|0|0|0|1|0|0|3|7|11
9番の小松敬一に緊張が走る。
それはチャンスに打順が回って来た緊張とは訳が違っていた。
理由はピッチャー交代。
美徳館学園の蜂須賀監督は、なんとあの羽柴をマウンドから降ろしたのだ。
ベンチから3番手のピッチャー・石山が現れ、駆け足でマウンドへ上がる。
羽柴はライトへまわり、ライトの毛利がベンチに下がった。
スイッチヒッター小松の前打席は羽柴から痛烈なヒットを打っている。
だがそれは、羽柴の投球のクセを知っていたからできたこと。
この3番手のピッチャーについては何の情報もない。
石山は右腕のスリークォーター型ピッチャー。
投球練習を見ているとそれなりに威力のあるボールを投げている。
羽柴の150Kmの剛速球に比べれば、スピードでは明らかに劣るが、そう簡単に打てる球でもなさそうだ。
球種が何もわからない以上、この状況でヒットを打つのは極めて厳しいと言える。
“ズバーン!”
「ストライーク!!」
声高らかにコールする主審。1球様子を見た左打席の小松。
球は外角低目ギリギリのストレート。コントロールはいいようだ。
大きく深呼吸をして打席に入り直す小松。
───甘い球さえ来ればなんとかできるのに…
小松は2球目も速いストレートにタイミングを合わせた。
だが、予想もしないドロ〜ンと曲がる超スローカーブにバットが1ミリも出ない。
“スポン!”
「ストライクツー!!」
見事にタイミングを外されて追い込まれた小松。カウント2−0。
次はどんな球にも対処できるようにバットを出さなければならない。
ギラギラと夏の太陽が照りつけているグランド内。
猛暑のはずなのに、背すじが凍るほどの寒さを感じる小松。更に高まる緊張。
それでも3球目のつり球には引っ掛からずに冷静に対処できた。カウント2−1。
そしておそらく勝負の4球目。
実況:ピッチャー石山、セットポジションから第4球投げましたっ!
コースはやや真ん中のストレート。
───しめたっ!あまい球だっ!
チャンスとばかりに打ちに行く小松。ところが───
「なにっ…」
ストレートに思えたボールが直前で真横にスライドしたのだ。
「まずいっ…」
しかしバットのスイングはもう止まらない。
“ガキン!”
バットの根っこ側に当たった鈍い音。
実況:ボテボテのショートゴローっ!ダブルプレーコースだ!
「しまったーっ!」
全力で1塁へ走りながら悔やしがる小松。
実況:ショートが捕ってセカンドへ送球!それをセカンドが捕って素早くファーストへ転送ーーっ!アウトなら試合終了だーーっ?!
小松は1塁に執念のヘッドスライディング。
ファースト塁審の判定はいかに…
「アウトーッ!」
実況:アウトだアウトだーーっ!青春台高校の怒涛の反撃もついに力尽きたーーっ!
「ああ〜ぁ…」
一瞬の出来事に青春台ベンチも唖然。スタンド全体からも大きな溜め息が洩れる。
「負けたぁ…」
「もう1歩だったのに…」
「はぁぁ〜惜しかったなぁ…」
ガックリ肩を落とす青春台ナイン。
一方、対象的に喜び勇んで試合終了の挨拶のためにホームベース前まで駆け足の石山と内野陣。
しかしここで思わぬことが起きた。
「タイムーーっ!」
突然の大きな声。何事かと誰もが声の方向に振り向いた。
(続く)