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12話 7番ピッチャー・一橋進(右投げ右打)

///|1|2|3|4|5|6|7|8|9|計

美徳館|0|3|2|0|2|0|0|3|4|14

青春台|0|0|0|0|1|0|0|3|5|9


 バッティングには自信のない一橋ひとつばし

 でもここは何として自分の責任を果たしたい一心だった。


 ──くそぉ…せめて俺が9回表に4点も取られなければ、今頃は1点差だったのに…

 一橋は自分の不甲斐なさに悔しさをにじませていた。


 にも関わらず、ナインは誰も彼を責めたりはしなかった。

 逆にねぎらいの言葉のオンパレード。


「一橋、よくやった!よくここまで投げた」

「あの美徳館相手に14点でよく抑えたぞ」

「228球の粘投おつかれ。いいピッチングだったぞ」

「よく最後まで一人で投げた。お前は最高だ!」


 こんな言葉をかけられて、感動のあまり声が詰まった一橋。

「みんな…すまん。こんなに点を取られて…それなのに本当にありがとな」


 打席に入る一橋。チームメイトのために是が非でも貢献したい。

 自分が取られた点は自分で1点でも取り返したい。

 ここはまさにそんな場面なのだ。


 ───打てない俺にできること…


 タイミングよく、美徳館がタイムを取っていた。

 ピッチャー羽柴にベンチから伝令が走る。

 この間、一橋は考えた。打てないならそれなりに策はあるはず…


 ───相手のピッチャーは点を取られて焦っている。つけ入るスキは必ずある!


 タイムが解け,

改めてバッターボックスに入る一橋。

 彼がとった行動。それは大胆にもバッターボックスから身を乗り出し、ベースに覆いかぶさるようにバットを構えた。

 顔をしかめるピッチャー羽柴。

「ふざけたマネしやがって…あれで俺に内角をつかせようとしてるつもりなのか」

 羽柴はキャッチャー明智がどう考えているのか、次のサインを覗き込む。

 ───ん?外角低目に落ちるフォークか…なるほどな。俺と同じだ。


 外角を狙ってるようなフリをして、実は内角を待っているという明智の読み。

 それでもしその読みが外れていたとしても、フォークなら打ち返すことは難しい。

 羽柴はサインに大きく頷いた。


実況:ピッチャー第1球投げました!


 バッターの一橋は羽柴のモーションからフォークだと判断。

 空振りするとわかっていても、打ちにいくと決めていた一橋。

 それもこれも外角を待っていたと思わせるためだ。


 ボールは一橋のベルト付近の高さから、すごい角度でストーンと落ちる。

 それは彼の予測よりはるかに角度のついた鋭いフォーク。

 バットにかすりもせずに空振りする一橋。

 だが、そこに意外な幸運が待っていた。


実況:ああぁぁぁ〜〜!ボールがワンバウンドしてミットを弾いたぁぁぁぁ〜!


「やったーー!!来い来い来い来い!!」

 大声で3塁ランナーに突っ込む合図をする一橋。

 ボールはネット裏に転々…


実況:ワイルドピッチで3塁ランナーが返って来たぁぁ!!2塁ランナーも3塁へーー!


 この回6点目。得点14−10。その差4点。

 場内はかなりの盛り上がりを見せていた。

 観客ほぼ全員が、青春台高校の猛反撃を後押しするように、ワンプレイごとに大拍手する。

 羽柴の焦りは目に見えてわかるようになっていた。

 にわかに余裕を見せている顔も芝居じみていて不自然に思えるほど。

「やべぇ…ちょっと今は球が低すぎたか…ハハ(^^ゞ」


 一方、再度ベースに覆いかぶさるように構える一橋。彼の心は決まっていた。

 おそらく羽柴はもう変化球は投げないだろう。それなら次が一か八かのチャンス…

 2球目のモーション。羽柴の口がキュッと締まる。


 ───よしっ!ストレートだ。間違いなく内角に来る!


 羽柴は思っていた。あんな態勢から自分のバッティングができるはずないと。

 1球、内角攻めで体をのけ反らせてから、外角の変化球で仕留めようと。


 羽柴の手からボールが放れた。まさに内角の厳しいコース!

「あ、あぶないっ!」

と、思わず心で叫んだ羽柴。

 だがその叫びとはウラハラに、一橋はその球を打ちにいく。


“ボスッ!!”


「う!」


 デッドボール…

 内角への剛速球が一橋の脇腹にめり込み、彼はその場に倒れた。

 打ちに行く態勢だったため、球を避けきれなかったのだ。

「うぅぅ…」

「君っ、大丈夫かっ?起きれるか?」

 主審が一橋に話しかける。

 一瞬、彼は呼吸につまったが、なんとか痛みをこらえながらも返事を返す。

「は…はい。。なんとか…」

 その後、ゆっくり起き上がり、場内の拍手に迎えられて1塁に歩いた。

「ナイスファイト!!」

 一般席からの掛声もかかる。


 ピッチャーの羽柴はここでハッと気づいた。

 ───そうか!こいつは最初からデッドボールを狙ってたのか…


 1塁上の一橋は、自分の脇腹をさすりながらも心の中ではガッツポーズをしていた。


 ───よし!やったぞ!かなり痛い思いをしたけどうまくいった…


 体を張った一橋のこのプレイが、青春台のナインの士気を一段と高めた。

                  (続く)

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